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最後の抵抗

 此処から逃げ出したところで、頼みの綱だった国王と王太子の協力を得られる見込みはない。殆どの貴族は敵に回り、助けてくれる可能性は低いだろう。魔法が使える配下も既に捕縛されている。状況を説明されても、侯爵はすぐには信じられないようだった。

「あり得ない!!全て貴様の虚言だろう!?儂を動揺させるため、出任せを言っているに違いない!!」

「…………ベルンハルト様、説得は難しいと思いますが」

 この様子では、何を言っても認めることはないだろう。言われた情報が正しくても、本人が聞き入れる気が無いのなら無駄だ。情状酌量の余地も無さそうなので、強制的に連行してもいいのではないだろうか。

「…………仕方がない。極力穏便に済ませてくるよう言われていたのだが」

「リアーヌ様の指示ですか?」

 ベルンハルト様が溜息を吐く。殆どの貴族が侯爵に対して反感を抱いている中で、穏便に済ませるように言えるような人と言えばリアーヌ様だろうか。そう思って尋ねると、ベルンハルト様は首を横に振った。

「ランバート伯爵夫人なら、『自身の間違いを認めるよう、完膚なきまで叩き潰してしまいなさい』と言われる。今回の指示は、第二王子殿下が出したものだ」

「……そうですか」

 現時点で侯爵に怪我を負わせていないので、比較的穏便な手段を取ったということで良いだろう。後は、自分で歩く気配のない侯爵をどうやって移動させるかだが、ベルンハルト様か、他の魔法使いが来れば問題はない。これで一件落着だろう。

「どうやら、解決したみたいだね。まだ瘴気が濃いみたいだけど体調は大丈夫かな?」

 ベルンハルト様から少し離れ、深く息を吐いたところで水晶玉が話しかけてきた。言われてみれば、侯爵の悪事を暴いたとはいえ、依然としてこの部屋には瘴気が充満している。早く離脱した方が良いかもしれない、と思ったが、意外と体調は悪くない。

「……入る前より、身体は楽になっている気がします」

「魔力が一杯になったのかな?よくわからないけれど、一応、気を付けておいた方が良いと思うよ」

「そうですね。気を付けます」

 事態が解決したら、聖女やその仲間に聞いてみよう。瘴気を祓う過程で、似たような状況に陥ったことがあるのなら対応を知っているかもしれない。

「…………何故、水晶玉が話をしている?」

 浄化装置について知っていたので水晶玉についても知っているものだと思っていた。ベルンハルト様がくる直前から一度も喋っていないので、今まで気付いていなかったのだろう。

「……えっと、彼は、水晶玉の形にはなっていますが、元々はこの国に召喚された日本人でして」

「初めまして、聖女召喚の媒体にされてる水晶玉です」

「……日本人であることと、媒体であることは納得したが、何故水晶玉の姿になっている?スキルの関係か?」

 流石はベルンハルト様。端的な説明でも理解してくれたようである。建国当初の瘴気と密閉スキルの話をすれば全て把握してくれそうだが、細かい説明は後で良いだろう。

「召喚媒体ということは、聖女召喚の仕組みも把握しているのか?ならば、後程話を聞いて、希望する日本人が戻れるように準備を……」

「それは構わないよ。僕を破壊したら全員日本には戻れるけれど、希望しない人も多いだろうからね」

「つまり、召喚した日本人をこの世界に留める役割もあるのか?世界を超えた召喚ともなれば、長期間維持することは困難かと思っていたが、楔の役割を持つものが存在していたからこそ50年以上も留めていたのか」

「僕は元は日本人だけれど、この世界の瘴気を取り込んで、更にスキルの力でこの体になっているから、都合よく二つの世界を繋いでいたのかもしれないね」

「……そうか、媒体」

 二人が難しい会話をしていると、不意に、違う声が挟まった。シルエット侯爵は、先程までの茫然とした様子から一変し、嫌な笑みを浮かべながら媒体、媒体、と同じ単語を繰り返す。正直、かなり不気味である。

「媒体、召喚媒体である、貴様さえ……」

「近付かないで下さい」

 水晶玉が召喚媒体であることを思い出し、破壊することで都合の悪い存在、私や、聖女たちを元の世界に戻してしまおうと考えたのかもしれない。全員纏めて姿を消せば、適当に言い繕えるとでも思ったのだろうか。

「私たちが戻ったところで、貴方の思い通りならなりませんよ」

 日本人が戻されたところで、ベルンハルト様やランバート様はこの世界に残る。そう伝えても、最早聞こえていないのか、侯爵は動きを止めない。

「貴様を、貴様さえ」

 言いながら、ふらふらと此方に、正確には、私に向かって歩いてくる。一歩距離を詰められたら、同じだけ距離を取る。ゆっくりとした動作だが、確実に緊張感が高まっていく。

「貴様さえ、壊して仕舞えば!!」

 一歩後ろに下がろうとして、壁にぶつかった。その瞬間、僅かに侯爵から意識が逸れた隙をつかれ、一気に距離を詰められた。そして、手の中の水晶玉を奪われ、次の瞬間、侯爵の右手から、光る水晶玉が落ちていった。

次回更新は8月15日17時予定です。

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