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 聖女召喚の儀式について、正しい知識を持っているのは国王と王太子とシルエット侯爵だけ。確かに、三人が結託すれば現時点で追われる立場である私の発言をすべてなかったことにするくらいは出来るかもしれない。しかし、言い方は悪いが、この水晶玉を人質代わりにすれば状況は変わるのではないだろうか。

「……もしもの話ですが、水晶玉を叩き割った場合、貴方が閉じ込めていた瘴気は一斉に溢れ出し、且つ召喚された日本人たちは日本に戻るのですよね?」

「そうだね。でも、その脅し文句はやめておいた方が良い」

「どうしてですか?」

 今度は聖女の助けが無い状態で国の危機に対処する必要がある。そして、瘴気の影響を受けるのは平民ではなく、国の始祖の血が流れている貴族の方だ。そう告げれば、殆どの貴族は耳を貸すかと思ったのだが、水晶玉に止められる。

「一瞬で敵が増えてしまうからだよ」

「敵が増える?私を追う貴族が減るのなら、むしろ減るのでは……」

「君は、この国に来る前に、謎の集団連続失踪事件について聞いたことがあるかな?」

「いえ……」

 突然、質問をされて戸惑いながらも首を横に振る。失踪事件自体は何度かニュースで見かけたことがあるが、集団、しかも連続で失踪したというニュースは聞いたことが無い。短期間で複数人が失踪したとなれば、解決していても定期的にニュースで取り上げるだろう。という事は、そう言ったことは現時点、起こっていないという事だ。

「…………まさか、いや、一度も考えたことがない訳ではないけれど」

「この国に召喚された日本人は、かなりの数がいるのに、どうして騒がれたことが無いのだと思う?」

 可能性は複数ある。まず、召喚された時点で日本では死んでいる場合。しかし、これならば戻れる、とは言わないだろう。二つ目は、別の自分が日本で普通に生活している場合。そもそも失踪したことになっていないのなら、わざわざ失踪事件、とは言わないはずだ。そうなると、敵が増える、という発言から考えて、残る答えは一つ。日本に帰っても、以前の生活には戻れない場合だ。

「召喚と召喚の間に、長い時間が経っているから。全ての失踪事件が繋がっていると分からないほどに、時間が経過しているから」

「そう。この国と日本は、全く違うけれど、一つだけ同じものがある。だからこそ、偶然とはいえ、一瞬だけ日本と繋がった」

「時間の進み方が、同じ……」

 つまり、この国で過ごしたのと同じだけ、日本でも時間が過ぎているのだ。最後に此処に来た私たちでも、通常の生活に戻ることは難しいだろう。歴代最速で旅を終わらせたとはいえ、長い時間をこの国で過ごした。二十年前、五十年前に来た人は、最早、帰る場所すらない可能性がある。

「日本に帰ったところで、頼る相手も、知っている物すらない可能性がある。仕事だって碌な物がないだろうし、そもそも生活していけるのかもわからない。それならば、既に生活の基盤ができているこの国に残ろうとしても不思議はないだろう?」

「そういった方々を、敵に回すことになるのですね」

「というか、君だってこの話を聞いたら結論を出すのは難しいだろう?だから、僕を使って脅すことはやめた方が良い。僕自身は割られてもいいけれど」

「割りません」

 もしもの話のつもりだったのだが、新しい情報が入りすぎて一旦整理しないと頭がパンクしそうだ。しかし、こうしている間にもベルンハルト様やランバート様達が会場で待っている。どうにかして、水晶玉に頼らず状況を打開しなくては。

「……召喚の秘密を解き明かしたところで、被害に遭っているのは日本人だけでこの国に不利益はない。となると、貴族たちは国王や侯爵に反感を抱かない」

「だろうね。数人の日本人が来るだけで国全体の命が救われるのなら悪いことではないだろう、とか言いそうだよね」

「なので、もっと別の、侯爵と国王が癒着していたとか、そう言った証拠を揃えた方が味方になってくれそうですよね」

 相手を蹴落とすことができそうな証拠なら、味方してくれる可能性は高いだろう。偉い人は足の引っ張り合いが好きだという偏見だが、召喚問題よりは効果がありそうなのは事実だ。

「そう思うけど、何か良い物あったかな……」

 ちょっと待ってね、と言って水晶玉は暫く考え事をすることにしたらしい。私は今のうちに外の様子を見ておこう、とシルエット侯爵邸からの脱出の際にも大活躍してくれたトンボ玉を部屋の外に転がす。部屋全体を確認したが、今の所は追っても来ていないようだ。

「そろそろ移動した方が良いような……」

「あ!!思い出した!!」

 工房に残って貰って、少し移動してから話を聞きに戻ろうと思っていたら、証拠になりそうなものを思い出したらしい。

「あの侯爵、自分以外に見えないような魔法をかけた日記を持っているはずだよ」

 そして、日記は王宮の部屋に置いてあるらしい。取り敢えず、目的地は決定だ。日記を見る方法については移動しながら考えることにして、工房の外に出た。


次回更新は8月9日17時予定です。

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