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水晶玉の秘密

 水晶玉を台座から外すと、下の方にもう一つ、小さな水晶玉があった。今迄見ていた水晶玉は両手でやっと持ち上げられる大きさだが、これは直径10センチ程度。片手で持てるくらいの大きさだ。外した水晶玉を一旦横に避けて、小さな水晶玉を手に取った。

「やあ」

「喋った……」

「思ったより驚かないね」

「なんとなく、予想がついていたというか……」

 水晶玉が喋った。最悪の想像が的中したのだろう。取り敢えず、証拠隠滅の為にも大きな水晶玉を元通りに戻して、小さい水晶玉を手に持つ。落ち着いて話をする為にも、一度安全な場所に移動した方が良いだろう。そう判断して、少し隠れやすい場所に移動してから工房に入る。

「此処なら落ち着いてお話しできますので」

「冷静だね」

「これ以上状況が悪くなることは考えにくいので、ある意味冷静ですね」

 それに、私の予想が正しいのならば、この水晶玉は味方である。現に、上の水晶玉に触れられたり、勝手に持ち上げられたりした割には大声を上げて他の人を呼んでいない。何かしらの契約を持ち掛けたい可能性もあるが、その気配も今の所ない。

「で、予想がついていたのなら、僕が何なのか当ててごらんよ。正解だったら助けてあげよう」

「普通に協力してくれませんか?」

「ずっとあの水晶玉の下に押し込められていたからね。暇だったんだ。クイズにくらい、付き合ってほしいな」

「…………わかりました」

 ただで協力してくれるわけではないらしい。できる限り正解に近い答えを考える。この水晶は聖女召喚の儀式の触媒で、元日本人で、恐らく男性だろう。しかし、何時、どのような経緯でこの国に来たのか、がわからない。

「ほら、わかっていることから順番に口に出してみよう。そうしたら、頭が整理できる」

「貴方は、聖女召喚の儀式において、聖女がいる世界、つまり日本とこの国を繋ぐための触媒として利用されている」

「そうだね」

「触媒として利用できるという事は、貴方も日本と関わりがある。つまり、貴方も日本人」

「うん、そこまでは完璧だ」

 ここで、一つ問題点が浮かび上がる。この水晶、もとい、この人を触媒として他の日本人を召喚してきた、という事は正しい情報。ならば、この人物は、どうやって、この国に来たのだろうか。そして、何故水晶玉になっているのか。

「僕が『誰』で、『何故』あの部屋にいたのかは理解できているみたいだね。なら、『何時』からいるのかはわかる?」

「……聖女召喚の儀式が確立されるよりも前から」

「正解。初めてこの国に来た日本人は僕だと言っておくね」

 これで、一つだけ分かった情報が一つ。この国ができてから、日本人がこの世界に来るようになったという事だ。そうでないなら、初めてこの世界に来た日本人、という言い方をするだろう。

「さて、次の問題。僕は、自分の意思でこの世界に来たでしょうか?」

「違うと思います」

「正解」

 現状を変えたい、もっと自分が輝ける場所へ行きたい、という考えは誰にだってあるだろう。だが、その場合、自分の体のつくりを変えたいと思うだろうか。しかも、先程水晶の下に押し込められて暇だと言っていた。つまり、自分の意思で今の状態になったわけではない。

「貴方は、召喚されて此処に来た。しかし、その召喚が不完全だったのか、それとも召喚された目的を達成する際に問題が起こったのかはわかりませんが、何らかの理由で水晶の形になった」

「まあ、わざわざ目的もないのに外の人間を呼ばないよね。目的は分かる?」

「……聖女召喚と理由は同じで、瘴気を解決するためですか?」

「そうそう」

 今と変わらないのなら、この人にも空間スキルは与えられたはずだ。そのスキルを使ってその時の瘴気は解決できたのだろうか。

「一つ聞いてもいいですか?」

「いいよ」

「召喚されたのは、何人でした?」

「僕だけだよ。複数人、同時に召喚できるようになったのは、かなり経ってからだからね」

 と言うことは、この人のスキルだけで解決ができたのだろう。その代償に、この姿になった、と考えるべきか。

「……貴方は、瘴気を解決した。しかし、何かの原因でその姿になった」

「僕のスキルは『密閉』だからね。瘴気を閉じ込めることはできても、全部覆い尽くして閉じ込めることしかできなかった。そして、自分の内側にある瘴気の影響を受けないようにするために……」

「その姿になったのですね」

 そして、自由が効かなくなったところを部屋に設置されて触媒として使われるようになったらしい。瘴気の塊でもあるこの水晶玉があると、王宮内には瘴気が発生しないことも判明し、全く身動きできなくなっていたらしい。

「それは……、なんというか、こんな姿になっても利用され続けているというのは……」

「この国の醜悪さが滲み出ているだろう?」

 否定はしない。呼びつけておいて、自由もなくこき使おうとするのだから、都合がいいとしか言えない。

「全く、僕がいる限り、僕の中にある瘴気も、僕を楔に召喚した者たちも帰れないというのにね」

次回更新は8月7日17時予定です。

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