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厳しい審査

 あまりに真剣な問いかけに疑問を思い、男性から更に話を聞いた。すると、婚約者の女性は他人と同じものが嫌いらしい。しかも、数多くの物を扱っている商家の娘で、国内に流通している装飾品は殆ど把握しているそうだ。

「だから、お店で売られている物は渡せないんです……」

「成程、先の発言はそういう意味だったのですね」

「はい。彼女に喜んでもらいたくて……」

 一方で、男性はある程度儲けのある商家の息子とはいえ、フルオーダーメイドで装飾品の製作依頼をするほどの余裕はないという。どうしようと悩んでいたところ、昨日、偶然このカフェから出てくる女性の話を聞いたという。

「今迄見たことのない指輪を付けている女性を見かけたのですが、装飾品を日常的に身に着ける習慣があるようには見えなかったので話を聞いたのです。すると、新しくできた装飾品店で購入したと」

 この周辺の店には詳しい自信があったのですが、と男性が苦笑する。昨日開店したばかりなので知らなくて当然ですよと返事をすれば、納得したように頷いた。

「そして、取り扱っている商品などについても聞いたのですが……」

「結果、製作依頼の事を聞いたのですか?」

「はい。宝石を使わない代わりに、安価で珍しい装飾品を作成していると」

 しかし、昨日話を聞いたのは閉店間際だった為、今日の開店時間に来たらしい。それにしても、話を聞いてすぐに来るほど時間に余裕が無いのだろうか。

「……最後にお聞きしたいのですが、商品の最終的なお引き渡しは何時になされますか?」

「早ければ早いほどいいのですが、一週間後には間に合うようにして頂きたいです」

「その日に何かあるのですか?」

「はい。彼女の誕生日です」

「畏まりました」

 贈り物用のラッピングもできるよう準備しておいた方が良いだろう。取り敢えず、貝殻をモチーフとした青色のネックレスを明日見てもらうことにして、今日は解散することになった。


 その後、お客さんは数人来たものの、売れたのは指輪が一つとブレスレットが一つだった。閉店後は工房でビーズ技能ポイントを引き換えてシェルビーズを増やし、薄い青色のビーズをメインにネックレスの試作を重ねた。

「……気に入ってくださればいいけれど」

 青色の丸ビーズと白の貝殻ビーズを交互にコードに通したもの、青色の丸ビーズでネックレス部分を作り大きめの貝殻をペンダントトップにしたもの、青と白の貝殻ビーズで作ったもの。三種類を用意した。

「今日も早めの時間に来てくださることになっているけど……」

「お、おはよう、ございます……!!」

 開店準備を終え、待っているとすぐに男性が来店した。時間に遅れてもいないのに、相当焦った様子である。何か起こったと考えた方が良いだろう。

「……どうかなさいましたか?」

「か、彼女と、昨日、話をして……」

 嫌な予感しかしない。私相手に焦って話をするということは、注文を受けているネックレスについての話題も出たのだろう。問題はその内容である。

「デザインの変更や注文の取り消しも可能ですから、落ち着いて話されてください」

「あ、いえ、取り消しはしないのですが。それ以上に大変なことになったかもしれません」

「どういうことでしょうか?」

「……彼女が、余程のものでない限り必要ない、と」

 そして、納得のいくものを男性が持って来ない限りは受けとらない。しかし、男性に無駄金を使わせたい訳ではないので、先に商品を見せてもらい、納得しないものは購入しないようにしたい、と言ったらしい。

「つまり、試作品がお気に召さなかった場合、ご購入されない、ということですね?」

「既に注文して試作品も作って貰うんだからそんなことはできないと伝えたのですが、自信が無いのなら注文を受けなければいい、と返されてしまい……」

「今に至るという事ですか」

「後一週間しかないのに、どうしたらいいんでしょう……」

 説得を試みようにも彼女の意思は固く、今日を迎えたらしい。余程のものでないといけないと言われたものの、彼女の好みやデザインの指定は全く聞けなかったらしい。これは、中々に難題である。

「……取り敢えず、試作品が三種類ほど完成しております。此方をお相手様に見て頂き、感想を元に修正を加えていく方針は如何でしょうか?」

「そう、ですね……」

 お相手の要求が分からない以上、今あるものを基に考えていくしかない。実際に反応を見ることができないのは不安だが、商売としてやっている以上、言い訳はできない。

「此方になります」

「ありがとうございます」

「次回ご来店時にお持ちくださいね」

「はい!!」

 作ったネックレスを男性に渡し、三つとも持ち帰って話し合ってもらうように頼む。営業時間内なら一日に何度来て貰って大丈夫という事も伝え、走っていく男性の後姿を見送った。

「一筋縄ではいかないだろうな……」

 ぽつり、と窓の外を見ながらつぶやいた。予想通りというべきか、男性は、閉店直前に再び店に駆け込んできたのだった。


次回更新は2月25日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「既に注文して試作品も作って貰うんだからそんなことはできないと伝えたのですが、自信が無いのなら注文を受けなければいい、と返されてしまい……」 店側としては、無理して買ってもらう必要性ないで…
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