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不屈の心

 ランバート伯爵家とベルンハルト様の陰にいることもあり、貴族たちもすぐには手を出してこない。が、シルエット侯爵が一声かければ睨み合いも終わるだろう。その前に、此方から行動を起こさなくてはいけない。

「……ベルンハルト様、この会場から、王宮に入る為にはどうすればいいですか?」

「あちらの扉は宮に繋がっているが、まさか……」

 私は小さく頷いた。此処で、街に逃げても見つかるのは時間の問題だ。それに、ジュディさん達に迷惑を掛けたくない。ならば、逆に王宮内を逃げ回った方が良いと判断したのだ。それに、ただ逃げるだけではない。逆転の可能性を探しに行くのだ。

「王宮内を逃げながら、聖女召喚の儀式に関する情報を集めます。上手くいけば、シルエット侯爵の弱みも握れるかもしれません。此処まで追い詰められているのなら、全力で抵抗して見せます」

「……成程、逃げるだけではない、か」

「はい。王族も貴族もこの会場に集まっているのなら、警備は手薄の筈です。そこを狙います」

 あの怪しい指輪や、聖女召喚の儀式の間隔が短くなっている事実。女性に限定して召喚できるようになった技術の背景。そして、魔法道具を集めることと、聖女を王太子と結婚させてこの国の中枢に留めようとする理由。それらの手掛かりを掴みたい。そう伝えると、ベルンハルト様は僅かに笑った。

「逃げ回るより余程いい。この機に、全部明るみに出して、引っ繰り返すのも面白そうだ」

 そう言うと、ベルンハルト様は前に立っていたランバート様を呼んだ。そして、今からの方針を伝えたのだろう。ランバート様が驚いたように口元を押さえた。すぐにリアーヌ様達の方に伝えに行ったので、恐らく賛成してくれているのだとは思う。ベルンハルト様はランバート様が戻ってくるのを待たずに、私に対して説明を始めた。

「今、会場中に掛けられている行動制限の魔法を明かすだけでも、侯爵の立場は揺らぐだろう。其方は俺が受け持つ。ルイーエ嬢は無理をしない程度に情報を探ってくれ。すぐに手の空いている研究員を王宮に向かわせる」

「研究員の方に迷惑が掛かるのでは……?」

「王宮の警備体制を見直せと言われている。十分、言い訳は聞くだろう」

 夜会に人が集まり、安全確保に問題が無い日を狙って言われていた警備体制の見直しをしていた、という事にするらしい。全ての警備システムを停止させ、作業をしている途中で偶然、夜会会場から誰かが逃げ出して来たとしても、研究所員は夜会に参加できないので参加者の顔を把握していない。取り逃がしたとしても、仕方のない事だ、と。

「平民の多い研究所だからな。貴族の顔を覚えていなくても仕方がない。そうだろう、リシャール」

「そうですね。では、私は聖女様方の安全確保でしょうか。重要人物が逃げて、会場がパニックに陥った時、騎士が聖女様を守りに行くのは不自然ではありませんから。その時に聖女様達が御自身で安全を守れるよう、状況をお伝えすることも大切ですね。ベルンハルトは、その間に魔法使いを捕まえてくださいね」

「当然だ。前回は隙を突かれてルイーエ嬢を誘拐されたからな。しっかり借りを返そう」

 二人は頷きあっているが、ランバート様の作戦はかなり危険なのではないだろうか。王族も侯爵も近くにいる場所に行くのだ。邪魔をしている、と見做されれば、無事ではいられない可能性だってある。そうしたら、血縁者にだって影響が及ぶかもしれない。

「リ、リアーヌ様達を巻き込むことになりますが、良いのでしょうか……?」

 前に立ち、私たちを背中に庇ってくれているリアーヌ様を見る。私の立場がバレた今、御用達としていたリアーヌ様の立場に影響が出ていない訳がない。それなのに、更に協力してもらうのは、と思った時だった。リアーヌ様が振り返り、私の目の前まで移動してきた。

「アユム、気にすることはありません。これは、ランバート伯爵家の総意なのですから」

「リアーヌ様……」

 リアーヌ様は、私の両手を握り、優しく、けれども芯のある強い声で言った。

「そもそも、我が国の問題を、他の世界の、それも若い女性に任せる方が間違っているのです。例え途轍もない困難だったとしても、自国の問題は自国で解決すべき。我がランバート伯爵家は、陛下に何度も申し上げてきたのです」

 ちらり、とリアーヌ様は王族が立っている方を見た。が、すぐに私に視線を戻し、柔らかく微笑んだ。リアーヌ様の肩越しに、貴族たちが此方を見ているのが分かるが、誰も動きはしない。距離的に、話が聞こえている訳ではないだろう。が、リアーヌ様の気迫に飲まれて、動けないのだろうか。

「ですから、アユムが責任を感じることはありません。さあ、しっかりと立って、背筋を伸ばして」

「……はい」

「私は私の為すべきことを為します。アユムも、貴女のやるべきことをしなさい」

「はい!!」

 リアーヌ様はそう言うと、私の肩を軽く叩いた。その瞬間、魔法が発動したのか、服装が青いドレスから動きやすい、騎士が着ているような服に変わった。私は一瞬だけ頭を下げて、扉を目指して走り出した。


次回更新は8月5日17時予定です。

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