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覚悟を決める

 こちらからは聖女の表情は見えないが、少し離れたところでそれぞれのエスコート相手と一緒に居る旅の仲間は動揺しているように思えた。恐らく、婚約の話は聖女だけに知らされていたか、聖女にも知らされていなかったかのどちらかだろう。

「王太子殿下は我が国の為に危険な偉業を成し遂げてくださった聖女様に最大の敬意と感謝を忘れず、彼女の地位と名誉、生活を保障し、共に我が国を守り、導くことを誓われますか?」

「誓います」

想像以上に話を進めるのが早い。邪魔が入る前に誓いを終わらせてしまいたい、という魂胆が見え隠れしているように思える。聖女様は一言も発していないことに違和感も抱かずに貴族たちは歓声を上げている。

「殿下、聖女様に他に伝えたいことは御座いますか?」

「そうだな。我が国を救ってくれたことに対する感謝は、決して忘れない。私と共に歩むと決めてくれたことを本当にうれしく思っている。国王陛下たちのように、支えあってこの国を盛り立てて行こう」

 それにしても、聖女一行は何か疑問があるのなら声を上げればいいだろうに。私とは違い、聖女には劣るものの国の英雄として扱われているのだから割って入っても問題はないだろう。そう思った時だった。私は、ある違和感に気付いた。

「…………………、………!?」

 声が、出ない。というか、身体が上手く動かない。シルエット侯爵たちから視線をずらすこともできず、足も全く動かない。周囲の人たちは平気そうにしているのに、どうして私は動くことができないのだろうか。

「……ルイーエ、嬢。大丈夫か?」

「ベルン、ハル、ト、さ……」

 隣のベルンハルト様から声を掛けられ、必死で返事をしようとする。が、声が出ない。しかし、ベルンハルト様が胸元のペンダントに魔力を込めると、どうにか、途切れ途切れに声を出すことができた。すると、ベルンハルト様は矢張りか、と苦々しい声で呟いた。

「現在、会場中に制限系の魔法が掛けられている。効果があるのは、日本人の血が流れていること、だろう。半分しか流れていない俺でも解くまでに少々時間が掛かった。聖女や、他の仲間は全く動けないと思われる」

「どうして、私は解除できたのですか?」

「その石にはお守り効果があると言っただろう。魔力を込めれば効果を発動する」

 対象が日本人になっているのは、この婚約に反対する可能性が高いことと、後はベルンハルト様への嫌がらせもあるのだろう。私たちの行動を制限する魔法は断続的に掛けられているらしく、魔法道具に魔力を入れるのを辞めたら、また動けなくなってしまうだろう。

「威力自体は高いが、雑な魔法だな。聖女にも同じ魔法をかけているからか、聖女が口を開けるようになるまで、時間が必要らしい」

「だから王太子殿下の告白まがいで時間を稼いでいるのですね」

 シルエット侯爵と王太子は共犯、という事はハッキリわかった。だが、此処で疑問なのは、王太子が侯爵に協力する意味だ。聖女が訪れる前から王太子であることが決まっていたのなら、無理に聖女と結婚をする必要はないのではないか。それに、シルエット侯爵の方も、聖女召喚と言う偉業を成し遂げた割に魔法道具を集めるなんて犯罪まがいなことをした理由がわからない。

「べ、ベルンハルト様、シルエット侯爵、こっちを見てないですか?」

「…………そうだな」

 シルエット侯爵たちの方向を眺めながら話をしていると、入り口で受付をしていた男が侯爵に何か耳打ちをした。何かあったのだろうか、と注意深く見ていると、何故か、侯爵と目が合った。視線がぶつかった瞬間、侯爵は驚いたように目を見開いて、そして、突然声を張り上げた。

「皆様!!重要なお知らせがございます!!

「ベルンハルト様、嫌な予感が」

「そうだな。……リシャール達の方に移動する」

受付の男は私の顔を見ているので、瞳の色も見られている。他の情報と組み合わせれば、私が日本人だと特定できるだろう。とはいえ、侯爵の目的だった。この夜会用の装飾品を作らせるという事は既に不可能だ。なので、わざわざ捕まえようとするとは限らない、が。

「本日の特別招待客である、装飾品店店主が聖女様と共に召喚されてきた人物である事が判明しました。どうやら彼女は一人だけ聖女様には協力せず、街で生活をしていたようで……。どうか、その方を私の所まで連れてきていただけないでしょうか?連れて来てくださった方には勿論、お礼もしますので」

 最悪である。聖女を操るまでの時間稼ぎとしても丁度良く、ついでに私を捕まえることもできる。彼方にとっては絶好の機会だ。逃すはずもなかった。一斉に貴族たちが振り返り、私の方を見た。

「っルイーエ嬢、後ろに」

 咄嗟に、ベルンハルト様が後ろに隠してくれたが、意味はないだろう。此処までの人数に囲まれたらどうにもならない。逃げたとしても、店の名前もバレているし、ジュディさん達に迷惑が掛かることは確実である。私は、覚悟を決めた。


次回更新は8月4日17時予定です。

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