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金の指輪

 聖女を先頭として、次々と旅の仲間が入場してくる。すると、会場の端に待機していた王太子と数名の上級貴族の息子が順番に聖女一行の手を取り、エスコートを始めた。

「…………聖女様一行が王都に到着してから、ドレスを仕立てる時間はあったのでしょうか?」

「王宮を出立する前、装備品を準備する段階でサイズが分かっているのなら、到着の日程に合わせてドレスを準備すること自体は可能だろうな。上級貴族は持っている伝手が多い」

「ということは、ドレスを準備したのは王宮側か、エスコート相手ですよね」

 他の人達に比べて、聖女一行とそのエスコート相手の服装は、やけに服が似ている気がする。特に聖女様の服装は、白い布に銀色の刺繍が入っており、まるでウエディングドレスのようだ。

「何か気になることがあったか?」

「……全体的に白色なので、結婚式の衣装のようだな、と思いまして。この国では結婚式の時は白色、という風習はありますか?」

「結婚式に限らず、式典などの際は基本的に男性が黒か相手の色、女性は自身か相手の色を身に纏うのが一般的だな。聖女の清廉さをアピールするために白い服を着せることは多いらしいが、その場合は薄い青などと組み合わせる。今回のような服装は前例にないな」

 それに、相手の色を身に纏うのは婚約者同士の場合だけだそうだ。そう言えば、私はベルンハルト様に貰ったマラカイトのネックレスを付けているが、それは大丈夫なのだろうか。マラカイトは緑色で、ベルンハルト様の瞳と同じ色だ。ネックレスを持ち上げて確認していると、ベルンハルト様が少し低い声で言った。

「アクセサリーくらいなら問題ない」

「そうですか」

 大丈夫らしい。確認が済んだので聖女たちの方に意識を戻すと、丁度、王族が立っている段差の部分に到着したらしい。随分とゆっくり歩いていたのは、お披露目の為だろうか。兎に角、全員が到着したのなら、一曲目のダンスを踊ってから国王陛下や主催者からの話があるはずだ。

「…………ベルンハルト様、最初は、ダンスから始まりますよね?」

「そのはずだが、音楽が始まる気配が無いな」

「そもそも、周囲に楽器が見当たらないような……」

 魔法があるとはいえ、現在の技術では生の音色には敵わないらしい。その為、式典や夜会の際は音楽隊を呼ぶのが一般的であり、有名な音楽家を呼べるかどうかで家の財力や繋がりの強さを示す、と教わった。なので、演奏家を呼んでいない、と言うことはない筈なのだが。

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」

 ダンスが始まらないどころか、何故か、シルエット侯爵が話を始めた。主催者が王族よりも先に話をすることもおかしい。何が起こっているのかわからないのは他の貴族も同じのようで、困惑気味に周囲を見渡している。

「この夜会は、瘴気を祓ってくださった聖女様への感謝を示すものです」

 よく見ると、シルエット侯爵は何かの箱を持っている。一体、何の箱だろうか。普通、褒章などは王族が贈るものだが、聖女召喚に関してはシルエット侯爵が取り仕切っているので代理を務めるのだろうか。だが、褒章ならば聖女と旅に出た全員に贈るべきではないだろうか。

「本来であれば、最初に聖女様と王太子殿下によるダンスがあるのですが、その前に、皆様に重要なお知らせがございます」

 嫌な予感がする。王太子に連れられて、聖女様がシルエット侯爵の前に移動してきた。すると、シルエット侯爵は笑顔で重要なお知らせの続きを口にした。

「この度、我が国に平和をもたらしてくださった聖女様と、王太子殿下の婚約が成立致しましたことをご報告させていただきます。聖女様のドレスは、聖女様の故郷の結婚式の風習をもとに作成したものという事です」

 その言葉に、会場がざわめいた。ざわめきと言っても、王太子のセンスを称賛する物や、聖女の美しさを称えるものが殆どだ。基本的に聖女と王太子の婚姻に好意的と言う事なのだろう。

「皆様に好意的に受け取って貰い、大変うれしいです。今、この場で、皆様に証人となって頂き、指輪の交換を行いと思います」

 シルエット侯爵が箱を開くと、そこには二つの指輪が入っていた。金色に輝く指輪は、一般的な物よりもかなり太めのデザインに見える。

「……指輪の交換に証人は必須なのですか?」

「証人が必要なのは両家が書類を交わす時だけだ。指輪の交換は比較的一般的な行為だが、銀の指輪を用いるはず。王太子が金髪碧眼とはいえ、金色の指輪と言うのは……」

 そこまで言って、ベルンハルト様は言葉を切った。じ、とシルエット侯爵の手元を見つめているかと思えば、徐々に表情が険しくなっていく。確かに、あの指輪は何かおかしい気がする。そう思っていると、ベルンハルト様はハッキリとした声で言った。

「あの指輪は、魔法道具の一種だ。金色という事は、恐らく契約系の効果だろう」

「……発動条件は何ですか?」

「恐らく、誓いの文言を口にした後に嵌めることだ」

 指輪交換をしたら、普通、指輪は指に嵌める。誓いの言葉の内容にもよるが、これは不味いのではないだろうか。


次回更新は8月3日17時予定です。

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