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聖女登場

 ちまちまとした嫌がらせを躱していると、ランバート様たちが会場に入ってきた。その瞬間、ぴり、と場の空気が引き締まったような感覚がする。そこから、続々と伯爵位以上の貴族たちが中に入ってくる。

「…………すごいですね」

「ランバート家は伯爵の中でも最も力を持っている。ランバート伯爵家に続くのは侯爵位以上ばかりだからな。下級貴族たちも身が引き締まるというものだ」

「ということは、そろそろ入場が終わりますか?」

「そうだな」

 位の高い貴族、というのは人数も少ない筈だ。暫く待っていると、シルエット侯爵が現れ、一旦入場が止まる。主催である侯爵の次に入ってくるのは、王族だろう。できる限り目立たないように、ベルンハルト様の後ろに隠れる。

「国王陛下並びに、王妃殿下の入場です」

 扉の横に立っていた人物が宣言すると、扉が開くと同時に赤いカーペットが床を転がり、道が作られた。演出としてはよく見るが、本当にやることもあるのか、と場違いなことを考えながら眺める。国王陛下が入場すると、続いて王子、王女が入場していく。その様子を見ていると、あることに気が付き、小声でベルンハルト様に話しかける。

「王太子殿下、丁度聖女様と同じくらいの年齢ですね」

「そうだな。今年で21だったか」

 長男であろう王太子が誰もエスコートしていないことを考えると、聖女をエスコートするのだろうか。私を含め、召喚されたメンバーは全員20歳前後だと思われるので、年齢は丁度いいが、王太子に婚約者がいないことは不思議だ。

「…………ベルンハルト様、この国の貴族の、婚姻年齢ってどのくらいですか?」

「基本的に幼少期から婚約していることが多いこともあり、男女ともに成人である16歳を超えると同時に婚姻することが多いな。王族は式典の関係上、18歳まで待つことが多いが」

「第二王子殿下は女性をエスコートしていらっしゃいますし、王女殿下はまだ幼いので第三王子殿下に連れられていますが……、第一王子、それも王太子殿下の婚約者がいないのはどうしてでしょうか?」

 次期国王になるのなら、できる限り婚姻も早くするのではないだろうか。他の上位貴族を見ても、同じくらいの年齢なのに誰もエスコートをしていない男性が数名いる。人数を数えると、丁度、聖女一行と数が一致する。数を確認した瞬間、薬師さんとの会話を思い出し、背筋が冷えた。

「元々いらっしゃらないのですか?それとも、今回は聖女様たちの為の夜会ですので、エスコート役を買って出ただけなのでしょうか?」

 後者ならばいい。あくまで夜会の為の措置だというのならば。しかし、前者であれば話が変わってくる。どうして、召喚される聖女の年齢と丁度合っている男子だけ、婚約者がいないのか。その理由を考える必要がある。ベルンハルト様をじっと見つめ、答えを要求すると、ベルンハルト様は深い溜息を吐いて答えた。

「……王太子殿下に婚約者ができたことはない。他の貴族も同じだ」

「そう、ですか」

「おかしいとは思っていたが、聖女一行の年齢と釣り合うとなると、きな臭いな」

 初めから、聖女一行と年齢があうから、婚約者を作らなかったとしたら。それは、王宮側が元々、この年に聖女たちを召喚する予定だったのではないか。そして、聖女たちの年齢も、ある程度指定できるようになっていたのではないか。

「……本格的に話をするか」

「ですが、他の人に聞こえるのでは……」

「問題ない」

 ベルンハルト様が手を一振りすると、周囲に魔力の気配が漂ってきた。防音系の魔法を使ったらしい。範囲も私とベルンハルト様の周りだけなので、余程勘のいい相手でなければ気付かれないだろう。私は安心して口を開いた。

「……王宮側は、女性だけを召喚する技術は確立していました。人数や年齢層を固定する理論が完成していてもおかしくありません」

「聖女召喚に関しては、王宮側が情報を秘匿している。その最高管理者はシルエット侯爵で、部下は殆ど日本出身のものだ」

 口封じしやすい人や、元々情報を持っている人を部下に集めている、となると怪しさ満載である。薬師さんから聞いた話も合わせると、聖女召喚の儀式に関しては後ろめたいことが沢山あると予想できる。

「…………そろそろ国王陛下の話が終わるな。現時点では疑いがあるものの、何も証拠が無い。聖女一行が入場してからの王族側の対応を見て、今後の方針を決めた方が良いだろう」

「この国の政治については詳しくありませんので、ベルンハルト様の判断に従います」

 私も関係があるので情報はできる限り欲しいが、下手に動いてベルンハルト様に迷惑を掛けるわけにもいかない。もう暫くは様子を見よう。そう、頷きあったところで国王の話は終わり、ベルンハルト様が魔法を解く。

「それでは、この国を救ってくださった聖女様一行の入場です」

 今度は、真っ白なカーペットが床を転がり、聖女の為の道が作られる。そして、厳かな音楽と一緒に入ってきた聖女の表情は、初めて出会った時よりも固いように思えた。


次回更新は8月2日17時予定です。

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