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相次ぐ悪意

「……到着したか」

 目的地に到着し、馬車がゆっくりと停まる。いよいよ、王宮に乗り込むのだ。私は大きく深呼吸をして、ベルンハルト様の方を見た。

「……ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「巻き込んだのは此方だ。……準備ができたのなら行こう」

「はい」

 会場内に比べて人目が少ないとはいえ、馬車の扉が開いた時点から周りに見られている。その事を意識して、できる限り丁寧な所作で立ち上がり、ベルンハルト様の手を取って馬車から降りる。そのまま自然に腕を組んで、歩き出す。

「招待状を確認させていただきます」

 会場の入り口まで来たところで、受付係からそう言われる。どうみても私の方に向かって言って来ているが、こういった対応は基本的に男性に任せるものだと教わっている。どうしたらいいものか、と考えていると、ベルンハルト様が私に招待状を渡すように言った。

「彼女の分と合わせて確認してもらえるか」

「…………魔法卿ベルンハルト・ビオ様、装飾品店『アルコバレーノ』店主アユム・ルイーエ様ですね。どうぞお入りください」

「ルイーエ嬢、行こう」

「はい」

 普段は店の名前を呼ばれることが無いので、ちょっと新鮮な気分である。ベルンハルト様が去り際に受付役に鋭い視線を送っていたので、やはり、先程私に声を掛けてきたのは嫌がらせの一環だったらしい。侯爵主催の夜会なので、スタッフが侯爵の部下なのは当然か。

「入る前から仕掛けてくるとは……」

「中に入ったら更に仕掛けてきますよね……」

「だろうな。極力離れずに側にいてくれ」

「勿論です」

 だが、私とベルンハルト様を分断しようと仕掛けてくるだろう。ランバート様たちが会場に入ってからだといいけれど、と心の中で祈る。ある程度勉強したとはいえ、一人で対応しきれる自信はない。

「……早速か。ルイーエ嬢、できる限り相手の死角に立っていてくれ」

 会場に入るとすぐに、ベルンハルト様が呟いた。そのまま壁際により、私はベルンハルト様と壁の間に立っているような形になる。誰か、面倒な相手がいるのだろうか。相手の顔を覚えておきたいが、逆に私の顔を覚えられても面倒だ。大人しく壁際に寄り、少し俯いた。

「お久しぶりです、ビオ卿。近頃は研究所に籠っているとお聞きしていたのですが、流石の貴方も聖女様の帰還を祝いに出て来られたのですね」

「子爵もお元気そうで。研究所に籠っていたのは、聖女様のお役に立てる道具を開発するためですから、今は忙しくありませんよ」

「ああ、道具を開発したのは貴方の研究所でしたね。我々のでは誰も思いつかなかったような道具を開発するとは、流石は多種多様な人が集まっている研究所だ」

「ええ。皆、優秀ですから。聖女様のお眼鏡にかなったようで、大変喜ばしいことです」

 目の前の子爵、という一回りは年上に見える男は中々に面倒くさそうだ。研究所に籠っておけ、出てくるな。いつも奇抜なことをしているのは平民も混ざっているからか。と言いたいのだろう。ベルンハルト様は上手く躱しているが、かなり喧嘩腰である。

「……それにしても、今日は珍しく女性を連れておられるのですね。ただ、随分と緊張しておられるようだ。夜会は初めてですか?」

 ちらり、と私を見てきた。夜会に来る人物の一覧は事前に贈られており、頭に入れておくのが貴族の常識らしい。つまり、私の立場は知っているはずだ。この言葉の意味は、目上の人物に自己紹介もできない礼儀知らずを連れているのですね、だろう。男性の会話に割って入るのはマナー違反なので黙っていただけである。

「ご紹介が遅れました。此方は、アユム・ルイーエ嬢。御存じとは思うが、伯爵夫人の御用達店の主で、聖女様一行に提供する魔法道具作成にも関わっている」

「ご紹介にあずかりました、アユム・ルイーエです。子爵様からお声がけ頂き光栄です」

 相手から声を掛けられ、エスコート相手であるベルンハルト様が先に紹介をしてくれたのならマナー上の問題はない。にこりと微笑みながら挨拶すれば、相手は知っていたのか、と苦虫を嚙み潰したような表情をした。

「ビオ卿もお忙しいことでしょう。私はこの辺りで失礼させていただきます」

 私をつついても無駄だと判断したのだろう。捨て台詞を残して去っていった。それにしても、子爵ならば伯爵と同等程度のベルンハルト様よりは爵位が下の筈だが、随分と攻撃的だったのは何故だろう。

「今の子爵は、別で魔法研究所を持っている男だ。今回、聖女の役に立とうと幾つか道具を作ったらしいが、ガラクタばかりだったらしいな」

「妬み、でしょうか?」

「それもあるだろうが、そもそもシルエット侯爵の派閥だからな。揚げ足を取るように指示されていた可能性は高い」

「嫌な話ですね……」

 侯爵本人が会場に現れるまで、この手の微妙な嫌がらせは続くだろう、とベルンハルト様は言う。私は内心溜息を吐きながら、できる限り優雅に見えるように微笑んだのだった。


次回更新は8月1日17時予定です。

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