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完全装備

 ドレスを着る前に魔法道具を渡され、それに魔力を込める。と、一瞬で着ていた服の皺が伸びた。なんとなくだが、顔も洗いたての様な気がする。何の道具だったのだろう、と首を傾げると、侍女のテレサさんが説明してくれた。

「ベルンハルト様が自作された魔法道具です。全身を清潔な状態にするという効果があります。私だけではアユム様を全身磨くことはできませんので、代わりとして使うよう言われました」

「…………効率的ですね」

「肌が綺麗に見えるように調整した、と仰っていましたよ」

「美容用の魔法道具があれば、女性は喜ばれそうですね」

 多分、元々は美容用ではなく、研究所に引き籠っても大丈夫なように作られたものだと思うが、それは口にしないでおく。培った技術を他の需要がありそうな分野に応用するのも大切なことである。てきぱきとドレスを着せられ、椅子に座る。

「次はお化粧になります。目を瞑って頂いてよろしいですか?」

「はい」

 次は化粧だ。日本人の顔の造りからすると、この国の人と同じような化粧をしたら確実に似合わないだろう。が、逆に手を掛けて化粧をすれば印象が一気に変わるらしい。どうなるのだろうか、とドキドキしながら化粧が終わるのを待つ。

「アユム様は、お化粧をすると、一気に印象が変わりますね」

「…………自分でもびっくりしています」

 正直、自分でも別人に思えるレベルだ。少し目元がハッキリするだけで印象が全く違う。目尻や眉もしっかりしているので、全体的に、意思が強そうに見える化粧である。こういう化粧が流行っているのだろうか。

「やり方によっては穏やかな雰囲気にもできるかと思いましたが、今回は、理知的な印象になるようお化粧させていただきました」

「夜会で甘く見られない為ですか?」

「いえ、ベルンハルト様の好みに寄せただけです」

「…………そう、ですか」

 ベルンハルト様、好みを把握されているのか。意外である。エスコートしてくださるのはベルンハルト様なので、出来るだけ好みに寄せた方がいいのだろう、と結論を出す。結果的に夜会で舐められにくそうな印象になっているし。

「最後は御髪を整えましょう」

「はい」

 髪型は、複雑な編みこみをしたお団子、という感じである。お団子の右側に花飾りをつけ、ベルンハルト様から貰ったマラカイトのネックレスを付ける。最後に黒いヒールが低めの靴を履いて、身支度完了である。

「とても素敵ですよ」

「ありがとうございます」

 多分、身支度にかかった時間は短い方なのだろうが、物凄く疲れた。が、この時点で疲れていてはいけないので、笑顔を浮かべてホールに戻ると、ベルンハルト様は既に着替えて待っていた。

「……お待たせしました」

「待っていない。女性の方が身支度に時間は掛かって当然だ」

「時間は大丈夫ですか?」

「丁度、聖女のパレードが始まったくらいの時間だろう。今から出れば余裕をもって到着する」

「随分早いのですね」

「先に貴族を集めて、聖女の活躍を改めて紹介する時間が必要だからな」

 では行くか、とベルンハルト様に手を差し出されたので、そっと腕を組んだ。そのまま玄関へと向かい、待たせていた馬車に乗ろうとしたのだが、テレサさんが待ったを掛けた。

「……何かあったか?」

「何か、ではございません。ベルンハルト様、大切なことをお忘れになっております。気付いているようでしたらこのままお見送りしようと思っておりましたが、完全に頭から抜けているご様子。それでは、このテレサ、ベルンハルト様を行かせるわけにはいきません」

「ベルンハルト様、私、此処で待っていますので、取りに行かれて大丈夫です」

 時間に余裕がある時でよかった。ベルンハルト様の腕を放すが、動き始める様子はない。忘れ物の心当りが無いのだろうか。それなら、テレサさんかセバスさんに聞けばいいのではないか、と私の後ろにいるセバスさんを振り返る。が、セバスさんは微笑みを浮かべ、首を横に振った。

「セバス」

「ここまでしておいて、言い忘れるのはよろしくないと思いますが」

 答えがわからないのか、ベルンハルト様はセバスさんに聞いたが、決定的な答えは返って来なかった。私が更に首を傾げる中、ベルンハルト様は忘れていることが何かわかったようで、手を目に当てて深い溜息を吐いた。

「……ルイーエ嬢」

「は、はい?」

「その恰好、良く似合っている。どうか、この手を取って貰えないか」

「もちろん、です」

 成程、忘れているのは、エスコートの際に女性に掛ける言葉だったらしい。別に私は気にしないが、貴族として言わないといけないのでテレサさんに指摘されたのだろう。

「「お二人共、行ってらっしゃいませ」」

「…………ああ」

「ありがとうございました」

 私が改めてベルンハルト様の手を取ると、二人はにこりと笑ってから見送ってくれた。馬車に乗り込むと、ベルンハルト様は手を顔に当て、何かを考え始めた。いよいよ、夜会の会場に乗り込むのだ。私も気合を入れて、脳内で礼儀作法の復習を始めたのだった。


次回更新は7月31日17時予定です。

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