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青のドレス

 乗り込んだ馬車に入ると、いつもと同じ、黒いローブ姿のベルンハルト様が座っていた。が、ランバート様の姿はなく、よく見ると馬車もいつもより少し小さい気がする。座席の様子からして、元々二人用の馬車、というか。

「座らないのか?」

「あ、座ります。おはようございます、ベルンハルト様」

「おはよう」

 馬車がゆっくりと動き出す。いつもはランバート様が一緒に乗っているので、なんだか落ち着かない。仕方がないので窓から外を見ようと思ったが、この辺りで馬車は目立つ。逆に外から姿を見られることになることは簡単に予想できたのでやめた。

「…………随分と落ち着かないようだが、緊張しているのか?」

「……そう、ですね。流石に、緊張しています。夜会なんて、出たこともありませんし」

「何かあれば必ず助ける。ルイーエ嬢はそこまで気負わなくていい」

 ダンスもこの数日で飛躍的に向上しただろう、とベルンハルト様は言う。付け焼刃の知識とマナーでも、全く無いよりは武器になるから自信を持て、と。自信の無さを表に出すと、付け入られる隙を作ることになるので気を付けなくては。私は小さく頷いた。

「それに、会場に行けばリシャール達もいる。必要以上の人間をルイーエ嬢に近付けさせないようにしてくれるだろう」

「そうですね。会場に行けば、リアーヌ様やランバート様達も……」

 そこで、私は言葉を切った。会場に行けばいる。ということは、会場に行くまでは会うことはない、という事だろうか。既に装飾品は渡しているので問題ないが、てっきり、会場の入り口付近まで一緒に行くものだと思っていた。

「……ランバート伯爵家は古くからある名門武家だからな。伯爵と同格である魔法卿の立場を貰っているとはいえ、会場に入る時間帯が若干変わってくる」

「確か、身分の高い方は、後から来られるのですよね?」

「ああ。今回は、聖女一行が最後に会場に入ってくる予定だ」

 基本的には王族が最後だが、今回は聖女様たちが最後に来るらしい。因みに、ランバート様達と私たちの入場は一時間程ずれるそうだ。私がいる所為かと思ったが、こういう時は男性側の爵位に合わせるそうなので、特に関係ないらしい。

「……ということは、今向かっているのは、ベルンハルト様の屋敷ですか?」

「そうだ。本来は、ドレス等を相手の家に贈り、身支度を整えた女性を迎えに行くのだが、ルイーエ嬢が一人でドレスを着るのは難しいだろう。屋敷で済ませた方が良いと判断した」

「ドレスを着るのも、髪型を変えるのも難しいので有難いです……」

 ドレスは使用人が手伝う前提で作られているので、魔法を使わない限り着るのは無理だ。そして、私は魔法付与ができても魔法は使えない。

「ルイーエ嬢の適性と魔力量を考えれば、不可能ではないだろうが……」

「ダンスの練習で精一杯だったので、魔法の訓練する余裕はありませんでしたよ」

 それに、今後ドレスを着る予定もないのに練習をしても実用性が無い。どうせなら、この間、ベルンハルト様が使っていた風魔法とかの方が便利そうである。そんな話をしているうちに、屋敷に到着したようだ。

「……思ったより近かったですね」

「研究所の近くだと言っただろう。ルイーエ嬢、荷物を」

「髪飾りしか入っていないので自分で持てますよ」

 馬車が停まり、小さなバッグを持って立とうとしたらベルンハルト様に手を差し出された。そこまで重たくないので、自分で持つと言ったら無言で手を重ねられ、荷物を持たれた。成程、今から本番の気持ちで、男性にエスコートされろ、という事なのだろう。

「……ありがとうございます」

 お礼だけ言って、そのまま手を借りて馬車から降りる。屋敷の中に入るまでも、リアーヌ様に教わった通りに、ベルンハルト様の腕に手を添えて歩く。腕を組んだ瞬間、ベルンハルト様が驚いたような表情をしたが、直ぐに戻ったので、これで間違っていないのだろう。言われなくてもきちんとできますよ、という意味を込めて、私は笑顔を向けた。

「お帰りなさいませ、ベルンハルト様」

「アユム様、ようこそおいでくださいました」

 実は初めて玄関から屋敷に入ると、侍女のテレサさんと、執事のセバスさんが立っていた。二人に案内されるまま、いつものホールへと向かう。そこでベルンハルト様達とは別れ、テレサさんと二人で小部屋に入ると、いつもと同じ場所にドレスが飾ってあった。

「…………これ、本当に私が着るドレスですか?」

「アユム様の為に作られたドレスですよ」

 そこにあったのは、目が覚めるほど美しい色合いの青いドレスだ。デザイン自体はシンプルなAラインのドレスだ。しかし、胸元に銀と緑で繊細な刺繍が施され、腰より下はたっぷりと使われている布が陰影を作っている。フリルなどは全く使われていないが、だからこそ、布の高級感がわかるドレスだ。

「さ、お手伝いいたしますので」

「よろしく、おねがいします……」

 若干、ドレスの迫力に負けつつ、私は着替え始めたのだった。


次回更新は7月30日17時予定です。

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