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勝負の朝

 一般向けの花飾りの注文もすっかり落ち着き、毎晩の練習で私のダンスも大分上達した。そして、今日は、とうとう夜会が開かれる日である。昼間から聖女様たちによるパレードがあるので、何処も店を閉め、パレードを皆で見送った後は祭りが行われる予定だ。

「アユム、きょう、おまつりだね」

「そうだね」

「いっしょにいこう?」

「ごめんね。今日は用事があるから、一緒には行けないの」

 お祭り、ということでトッド君とターシャちゃんは朝から大はしゃぎだ。何時もよりも早起きをして、朝食の準備を手伝い、早く出掛けたいからか食事を食べるのも早い。そして、食べ終わったところで私を祭りに誘ってくれたのだが、残念ながら私は一緒に行くことができない。

「なんで?」

「アユム、きょうもおしごと?」

「お仕事と言えばお仕事だけど……」

 店主として呼ばれているので、仕事ではある。が、実際に夜会に参加したところで装飾品店の店主として扱われることはないだろう。ベルンハルト様の足を引っ張る道具として見られるか、それか、日本人だと知られて捕まるか、である。無事に帰って来られる保証すらない。

「誰かと祭りに行く予定があるのかい?」

「いえ、そもそも、祭りの方に行くことができないというか……」

 そうなると、こうしてジュディさんとカルロさん、ソニアちゃん、トッド君とターシャちゃんとご飯を食べるのも最後になるのかもしれない。笑顔で良い相手がいるのか尋ねてくるジュディさんに、ある程度事情説明をして置こう、と意を決して口を開く。

「……今日、王宮で開かれる夜会に招待されているので、其方に行くことになりました」

「王宮の!?アユム、どうしてそんなことになったんだい?」

「以前、国立魔法研究所に頼まれて、聖女様が瘴気祓いの際に使う道具を作る手伝いをしたので、その功績から……」

「だからって、普通、ただの装飾品店の店主が呼び出されるなんて……」

 ジュディさんとカルロさんは顔を青くした。王都に生きる人間たちにとって、貴族と言うのは、畏怖すべき相手であり、平民が関わるものではない。商売相手として付き合うことがあるかもしれないが、圧倒的に立場が違う。機嫌を損ねれば命の保証だってない。

「そういう訳で、今日の夜は王宮に行きます。それまでの準備もありますから、今日は一日居ないと思ってください」

 そして、戻って来なかったら、貴族絡みの問題なので原因を探ろうとせず、死んだものと思ってほしい。と言外に二人に伝える。今迄お世話になった家族に、出来るだけ迷惑を掛けたくない。いや、無事に戻ってくるつもりではあるのだけど。

「アユム、気を付けて行ってくるんだよ」

「帰ってきたら、子供たちに王宮の話を聞かせてあげてくれ」

 二人は小さく頷いてから、笑顔でそう言ってくれた。ソニアちゃんとターシャちゃんは、王宮の夜会、という言葉に目を輝かせて、お話聞かせてね、とにっこりと笑った。トッド君は夜会には興味が無いようだが、お祭りの話を逆に教えてくれると張り切っていた。

「ほら、それなら準備に時間が掛かるだろう?アユムも早く食べて出掛けるといいよ」

「ありがとうございます」

 ジュディさんにそう言われ、慌てて食事を再開する。そういえば、今日はどうやって王宮まで向かえばいいのだろうか。ベルンハルト様からは何も言われていない。研究所の方まで行けばいいのか、それとも、王宮に直接歩いていくのだろうか。そんなことを考えていた時だった。

「パレード、はじまったの?」

「ほんとだ。パレード、はじまった!!」

「いや、まだそんな時間じゃないはずだけど……」

 外を見ていたトッド君とターシャちゃんが飛び跳ねながら、パレードが始まった、と言い出した。パレードは昼から行われて、この付近を通るのはもっと後の時間だ。そんなことはない、とジュディさんが窓に近付き、外の様子を確認する。

「あれはパレードじゃなくて、貴族様が乗る馬車だよ。それにしても、何でこんな場所に……」

 凄く嫌な予感がしてきた。ベルンハルト様もランバート様も、基本的に必要が無ければ言わない、と言ったタイプだ。つまり、私がこの時間帯には既に起きていて、行動できる状態になっていることを知っているのなら、連絡なしに迎えに来ることは十分にあり得る。

「アユム、あの馬車、こっちに向かって来てるけど……」

「今すぐ降ります!!ご馳走様でした!!」

 その嫌な予感は、ジュディさんの発言で確かなものになった。私は大慌てで席を立ち、階段へと向かって走る。変に騒ぎになる前に行かないと、身動きが取れなくなりそうだ。ベルンハルト様がいらっしゃるなら魔法で何とかするかもしれないけど。

「「いってらっしゃーい」」

「行ってきます!!」

「気を付けるんだよ!!」

 背中に掛けられた言葉に、大きな返事をして、私は外へと飛び出した。そして、ゆっくりと此方に向かって来ている馬車に向かって、止まって、と大きく合図をしたのだった。


次回更新は7月29日17時予定です。

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