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お礼の時間

 装飾品のデザイン案を描き、必要な材料も貰った。正直、早く作りたい気持ちがあるが、装飾品が美しくても本人の所作が美しくなければ意味がない。というリアーヌ様の発言でレッスンに戻った。

「ルイーエ嬢、今日は一日、お疲れ様でした」

「此方こそ、お招きいただきありがとうございました」

 キアン様は本当に布を渡しに来てくれただけのようで、試作品として作ったつまみ細工の花を一つ持って帰って行った。その後、ランバート伯爵家の皆様とベルンハルト様との夕食会で何とか及第点を貰い、行きと同じ馬車に揺られて帰っている最中である。

「装飾品の方は大丈夫ですか?一日あれば完成するとは言っていましたが、作業日は今日だったでしょう?」

「帰ってから少し作業をするので、大丈夫だと思います。必要な布の数を計算している間に、ベルンハルト様が布を切ってくださいましたし……」

 隣に座っているベルンハルト様の方を見上げると、そこまでのことはしてない、と返される。ベルンハルト様からすれば、簡単な風魔法を使っただけなのだろうが、つまみ細工を作る前に布を正確に切る作業は結構大変なのだ。

「そんなことありません。正方形にならなければ美しい花びらにはなりませんし、複数の布を纏めて切って、かつ断面も綺麗にできていて、とっても助かりました」

「……そうか」

「はい。何かお礼をしたいのですが……」

 いつもお世話になりっぱなしなので、少しくらいはお返しをしたい。時間のかかるものだった場合、夜会が終わってから、という事になってしまうが先に聞いておくことは大事だろう。そう伝えると、ベルンハルト様は僅かに目を見開いた。

「…………礼?」

「私にできることは少ないですけど、お礼をしたいと考えているのですが……」

 寧ろ迷惑だっただろうか。どうしよう、と向かい側に座っているランバート様の方を見ると、何故か窓の外を見ていた。私の視線に気付いていない、という事はないだろう。騎士であるランバート様は、多分この中で一番視線に敏感だ。なのに、目を合わせてくれないという事は自分で何とかした方が良い、という事だろうか。

「…………なら、夜会までの数日間、毎晩、少しの時間を作ってくれるか?」

「わかりました。夜にしか取れない素材の採集ですか?」

 魔法素材の中には、月明かりの下でしか採集できないものや、一年の中に数日間しか採集の機会がないもの、一人では採集できないものがある。夜会までの数日間でないと駄目なら、それに協力したい。つまみ細工は開店前と昼休みがあれば十分完成するだろう。

「ダンスの練習だ」

「え?」

「あまり夜会には参加しないからな。当日、失態を晒さないために復習する必要がある。毎晩三曲だけ、練習に付き合ってもらいたい」

「それは、全く、構いませんが……」

 本当にそれでいいのだろうか。今日の練習を見た限り、ベルンハルト様は完璧に踊れていた気がする。言わずもがな、練習が必要なのは私の方である。足を引っ張らないために一人で基礎練習だけでもしようと思っていたのだが、まさかベルンハルト様がお礼と言う形で練習を提案してくるとは思ってもいなかった。

「ベルンハルト……」

 ランバート様も、ベルンハルト様に練習は不要だと思っているのか、何とも言えない表情を浮かべている。が、ベルンハルト様は無視して話を続けた。

「場所や練習用の服はこちらで準備しておく。ルイーエ嬢は工房で待っていてくれ」

「わかり、ました……」

 どう考えてもお礼になっていないが、本人がそれでいいと言っているので何も言えない。その上、合図として準備ができたら身に付けて魔力を流して欲しい、とネックレスチェーンまで貰った。

「……あの、ベルンハルト様。このチェーン、気の所為でなければ石座が付いている気がするのですが」

「仕舞い込んでいるマラカイトが丁度嵌まる大きさだ」

「……すみません」

 大分前に貰った魔除けの石を思い出す。ワイヤーラッピングをしようと思って忘れていたのだった。お守りの袋に入れていたので、すぐに胸元から取り出す。

「ベルンハルト、そんな物を渡していたんですか!?」

「効果としては守り石だ。問題ないだろう」

「守り石なら他にもあったでしょう?」

「色んな意味でこれが1番効果的だろう」

 2人が何故か睨み合いをしている間に、石座にマラカイトを嵌め、爪の部分を倒す。素手でも曲げられる硬さでよかった。マラカイトグリーンと銀色のチェーンが涼しげな印象だ。

「ルイーエ嬢、よければ付けて、魔力を流してみてくれるか?」

「わかりました」

 魔力を込めると、淡い緑の光が石から発される。正面にいるランバート様には少し眩しいのか、若干眉を顰めたがすぐに笑顔になった。

「似合っていますね」

「ありがとうございます」

「問題なく動作しているな。守り石としての効果は変わらないので、できる限り身に付けておいてくれ」

「わかりました」

 多分、チェーンか石座部分に魔法陣か何かが仕込んであったのだろう。無事に機能することが確認できたところで、カフェの前に到着した。

「ルイーエ嬢、明日からよろしく頼む」

「はい。此方こそよろしくお願いします。ランバート様も、今日はありがとうございました」

 最後にお辞儀をすると、馬車はゆっくりと去って行ったのだった。

次回更新は7月27日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ランバートくんの出遅れ感がもどかしくてたまらないですね…!! このあたりのもだもだしているところ、いいですね…外野から見るだけなら面白くはあります
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