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二種の花びら

 まず作るのは、つまみ細工の基本である丸つまみだ。その名の通り、丸い花びらを作る方法である。ベルンハルト様が切った布の中から、白い1.5cm角の正方形の物を一枚手に取り、対角線で半分に折って三角形にする。

「……店主、これが本当に花になるのか?」

「厳密に言えば花びらになりますけど、同じものを幾つか作って組み合わせると花になりますよ」

「想像がつかないな」

 半分に追った布をさらに半分に折り、最初の四分の一の大きさの三角形にする。この時、できている三角形は直角二等辺三角形なので、直角の部分が右、そして布が二枚重なっている端を下にして持つ。

「この辺りからピンセットが……」

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 受け取ったピンセットで、右を向いた三角形を上下で2分割するように摘まむ。ピンセットの位置がずれないように、下側の端をそれぞれ外側から折り上げ、上側の端と位置を合わせる。横から見れば更に小さい三角形を作るような形だ。

「これでおおよその形は完成です」

「布を折っただけの様に見えるのだけど、これで花になるのかしら?」

「はい。この、端を合わせたところを持って、反対側を広げると……」

 ふくらみができ、丸い花びらが一枚できる。後は土台に貼り付けて形を整えたら完成だ。一枚を土台に貼り付け、丸く広げてみたが、花びら一枚だけでは完成図が予想しにくいようなので、手早く二枚目、三枚目と作っていく。

「五枚を円形に並べると、比較的バランスのいい花になると思います」

 白い丸つまみを五つ、円形に並べ、隙間を埋めるように足を広げれば可愛らしい白い花の出来上がりだ。今回は真っ白な布を使ったが、模様の入った布を使っても綺麗な花になるだろう。他にも、丸つまみを二重、三重に重ねて作ると布の重なりで美しい色合いを表現できるだろう。

「最も基本の形の花は、このような形になります。花びらの枚数は変えることができますし、段を増やせば大きく、華やかな物になります。今回は、メインに三段程度の花を作り、その周辺に一段や二段の花を幾つか作る予定ですが、如何でしょうか?」

 メインの花の色は鮮やかにして白い花を添えたり、三段の花を作るのなら二段目だけを色付きにしたりしても良いかもしれない。後は、重ねつまみをするときに白を内側に、外側に強い色の物を使っても綺麗だ。そんなことを考えながら、リアーヌ様の返事を待つ。

「…………アユム」

「はい」

「素晴らしいわ!!折り重なった布の陰影がこんなにも綺麗に思えるなんて……」

 そういえば、リアーヌ様に前回作ったのは、レジンのピアスだった。店に来た時も真っ直ぐ私たちの方に来ていたので、布や糸を使った装飾品をあまり見ていないのかもしれない。ビーズやレジンは宝石ではないとはいえ独特な輝きがあるが、布や糸を使った物はまた別の魅力があるのだ。

「他の形の花びらもあるの?」

「はい。今の形は丸つまみといって、丸い花びらになりますが、剣つまみという尖った花や葉に使われる形もあります」

「其方も見てみたいわ」

「わかりました」

 剣つまみは、途中までは丸つまみと作り方が一緒だ。緑色の布を取り、右向きの三角形の真ん中を摘まみ、今度は単純に、上側を手前に向かって半分に折る。折った端を親指で押さえて、ピンセットを持ち替え、親指を外す。そしてもう一度指で端の方を持つ。

「……同じところを何度も持ち替えている様にしか見えないのだが」

「向きを変えているだけなので……、そう見えますね」

 指で押さえた反対側の端をピンセットで摘まみ、勢いよく外側に向かって弾くように引き抜くと細い、笹の葉のような形になる。剣つまみの花を作ってもいいが、今回は先程土台に貼り付けた丸つまみの間に貼ることにした。

「勿論、剣つまみだけで花を作ってもいいのですが、私は丸つまみの花の間に差し込む形が好きですね」

 何となくだが、剣つまみより丸つまみの方が好きだ。人によって好みは違うので、リアーヌ様が剣つまみをメインにしたい、と仰るなら全力で剣つまみのデザインを考えるつもりだ。

「私も丸いデザインの方が布の柔らかさを感じることができていいと思います。アユム、製作にはどのくらい時間がかかりますか?」

「ベルンハルト様が布を切って下さったので、丸一日作業をすれば、4人分は終わるかと」

「4人分?それでは足りないでしょう?」

「数を間違えましたか?」

 リアーヌ様、フェシリテ様、レティシア様、ルシール様の4人分で合っているはずだ。私が首を傾げると、リアーヌ様は少し呆れたような声で言った。

「自分の分を忘れているわよ。アユムも参加するのだから、装飾品は必要でしょう?」

「ですが、リアーヌ様達と同じものというのは……」

 4人が似たデザインの物を身に付けるのは、ランバート伯爵家の繋がりの強さをアピールするという意味もあったはずだ。お抱え店の店主とはいえ、それに混ざるのはまずいだろう。

「家のことなら気にしなくていいわ。寧ろ、ビオ卿のエスコート相手がランバート伯爵家の関係者だと示した方が、我が家は有利になるもの」

「では……、私も、つまみ細工を作ります。5人分でも、1日で終わるかと」

「どうせなら色違いにしましょう。白を基調にして、私は金と赤、アユムは青と緑。という風にできるかしら?」

「勿論です」

 迷惑にならないのなら、有り難く同じデザインで作らせてもらおう。リアーヌ様の要望を紙に書きながら、どんな物を作ろうかと胸を弾ませるのだった。

次回更新は7月26日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 青と緑!! 分かります、魔道士様の色ですね!!!
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