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布の花

「工房も店主に恩があるようでな、張り切って作ってくれたから、十分に足りるだろう」

 これらは、ラウラさん達の工房で作られた布らしい。現在、あの工房はキアン様と契約しており、今回は我が国での夜会ということで布を頼んだそうだ。思いがけないところでお客さん同士が繋がっていて、正直驚きである。

「……ということは、キアン様の服に使われている青い布は」

「ああ。あの工房の布だ。美しい青色だからな、気に入っている」

 国内でも青いスカーフが流行っていたが、ネイジャンでも大流行していたらしい。忙しいだろうに、わざわざ私の分まで布を作ってくれたとは、ありがたいことだ。

「仕立ての伝手がないのなら、ネイジャンから連れてきた刺し子に頼むが?」

「いえ、布があれば、仕立ては問題ないらしく……」

 ちらり、とベルンハルト様の方を見る。すると、ベルンハルト様は私とキアン様の間に入ってきた。

「お初にお目にかかります、キアン様。国立魔法研究所長を務めている、ベルンハルト・ビオと申します。彼女のエスコート相手として、仕立ての伝手は持っていますので、ご心配なさらず」

「噂の魔法卿とお会いできて光栄だ。聖女の儀式の際は研究所に世話になった。卿にも店主にも恩がある身だ、他に足りないものがあれば言ってくれ。力になろう」

「ありがとうございます」

 布が手に入ったのなら、出来るだけ早く仕立て始めた方が良い。ということで、ベルンハルト様はリアーヌ様に許可を貰い、床に魔法陣を描き始めた。お抱えの店に、魔法で直接届けるらしい。

「……ネイジャンに比べて魔法が発達していることは知っていたが、高度な魔法である移動魔法をこうも簡単に扱えるとはな」

「ベルンハルトが特別なだけで、貴族であっても移動魔法を扱える者は少ないですよ」

 興味津々と言った様子でキアン様が魔法陣を描く様子を眺める。その横で、魔法について簡単な解説をしながら、ランバート様は布の入っている箱を覗き込んだ。私も、布が余るようならそれでアクセサリーを作ろうと思い、ランバート様の隣に移動する。

「ルイーエ嬢、どうしました?」

「ドレスを作る時に、布が余るなら先に少し貰っておきたいと思いまして」

「布でアクセサリーが作れるのですか?」

「はい。小さい端切れがあれば、花の飾りが作れます」

 そう言うと、少し離れた場所で話を聞いていたリアーヌ様が反応した。ドレスと同じ素材で作った飾りなら、相性が悪い筈がない。また、他の服に使うには小さすぎて捨てるか、パッチワークのようにして使うしかなかった布を利用することができる、という点に着目したのだろう。

「アユム、今の話を詳しく聞きたいのだけれど」

「僕も気になる。店主、その飾りと言うのは、どうやって作るのだ?」

 リアーヌ様だけでなく、キアン様も興味を持ったようだ。ベルンハルト様も手を止めて私の方を見ている。これは、つまみ細工について説明しないと駄目な奴である。私は苦笑しつつ、リアーヌ様に余った布を持ってきて欲しい事を伝える。

「今すぐに持って来させるわ。アユム、今回の装飾品は、その花飾りという事でいいのね?」

「はい。見た目も華やかなので、大規模な夜会にも相応しいかと思います」

 日本でも成人式や大学の卒業式といった、晴れの日に身に着けることが多いので飾りが地味で見劣りするという事はないだろう。そんなことを考えている間に、目の前に積まれた布の山を見て、私は言葉を失った。

「…………これだけの布が余ったのですか?」

「そうよ。最近は複雑なデザインのドレスが流行っているから、余る布も増えてしまって……。布自体は良い物だから、捨てるのも勿体なくて悩んでいたの。アユムが上手く使えるなら、全部使って頂戴」

「いえ、こんなになくても、飾りは作れますが……」

 一つのドレスに複数の布を使い、かつ、布を裁つ時も真っ直ぐではないので余る部分が増えてしまうらしい。しっかりと厚みのある布から、薄く透けている布まで幅広い種類があるので、つまみ細工に適している布も見つかるだろう。

「思ったよりも布が大きいので、切るところから始めないといけませんね」

 一度工房に行って、鋏やピンセットを取ってきた方がいいだろうか。それにしても、大量の布を切らないといけないので、準備だけでかなり時間を使ってしまいそうだ。

「どのくらいの大きさだ?」

「正方形で、辺が1cmや1.5cmのものを組み合わせて使います」

「そうか」

 ベルンハルト様は、何枚かの布を重ねて持ったかと思うと、誰もいない方向を向いて、魔法を使った。風を切る音がして、私の目の前に細かな布が舞う。

「これでいいか?」

「…………はい。ありがとうございます」

 風の魔法で浮かせているのか、布が地面につくことはなさそうだ。一つ布を取ってみたが、綺麗な正方形になっている。素晴らしいコントロールだ。

「これで作れるか?」

「後は、鋏と糊があればできます」

 道具は使用人が持ってきてくれることになったので、私は、先に出来るところまで実演することになったのだった。

次回更新は7月25日17時予定です。

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