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集まる素材

 昼食で食事マナーの確認をし、午後からはダンスのレッスンをだ。午前の基本所作練習で酷使していた、普段使わない筋肉が悲鳴を上げそうだ。

「アユム、夕食は夜会と同様、立食形式で行います。ダンスも勿論踊りますし、その前にドレスに着替えてもらいます」

 休憩に入ったタイミングで、リアーヌ様が話しかけてきた。ドレスに着替える、という言葉に、私は首を傾げる。

「今もドレスを着ていると思うのですが」

「王宮の夜会に、そんなドレスで出ることはできませんよ。アクセサリーについての話は、着替えの時にしましょうね」

「わ、わかりました……」

 今着ているドレスも十分豪華に見えるのだが、これよりも良いドレスを着る必要があるらしい。今でも動き難いのに、これ以上重たくなったらダンスなんて踊れないのではないだろうか。

「……心配せずとも、膨らんだ形のものや、重たいものではないだろう」

「そうなのですか?」

「おそらく、使う布の質が上がったものになるかと思います。寧ろ、今よりも軽くなって動きやすいかもしれませんよ」

 不安に思っていると、ベルンハルト様とランバート様が説明をしてくれる。ただでさえ短期間で練習しなくてはいけないのに、動き難いものを着こなすまでに至るのは無理だろう、と。

「そういえば、当日のドレスは、何処かから借りるのですか?」

 当然だが、私はドレスなんてものは持っていない。アクセサリーは自分で作れば何とかなるが、流石に裁縫、それも服飾は専門外だ。一度だけのことなので、わざわざ買うこともないだろうと思って聞いた、その時だった。リアーヌ様が、目を丸くして私に説明した。

「アユム。王宮での夜会は最上級の催し。借りるなんてとんでもない。全員、新しく仕立てた最上級のドレスで参加するものですよ」

「仕立て……?」

「私だって、アユムに毎回新作を頼むと言ったでしょう」

「そう、ですね」

 正直、お披露目したことがないドレスを着るなら大丈夫なのかと思っていた。が、一度も着たことがなくても、デザインや噂で買った時期はわかるらしい。

「それに、ドレスは実家か、パートナーが購入するものです。アユムが気にすることではありません。ねぇ、ビオ卿」

「…………仕立ては伝手があるのだが、布が手に入らなくてな」

「今は何処も必死に確保しているでしょうからね」

 ランバート様が困ったような表情を浮かべた。仕立て屋自体は足りていても、夜会に着るドレスに使える布が減っているので大変らしい。

「生憎と、素材以外の商人の伝手が無くてな」

「我が家も装飾品類はあまり……」

 私も、布系といえば、ラウラさん達の工房に行ったことがあるくらいだ。基本的に一般向けに作っていると言っていたので、駄目だろう。頼んだとしても時間が足りない。

「最悪、研究所の魔法素材を加工した布を使ってもいいが……」

「価値は高くても夜会に相応しいとは言えないのでは?」

 瘴気がなくなって魔物との戦いが無くなる記念の夜会に、魔法素材を使うのは微妙だろう。ベルンハルト様もランバート様も微妙な表情をしていると、扉がノックされ、執事が入ってきた。

「奥様、お客様がお越しです」

「今日は他に誰とも予定はないはずだけれど?」

「それが……、お客様というのが」

 執事が耳打ちすると、リアーヌ様は一瞬、目を丸くして部屋から出ていった。余程、身分の高いお客様が来たのだろう。

「母上が直接出向くなんて、珍しいですね」

「リアーヌ様を呼び出せる相手となると、王妃様か、公爵夫人くらいのものではないか?」

 国内で、リアーヌ様よりも上の立場の女性は殆どいないらしい。どうであれ、暫く、リアーヌ様は戻って来られないだろう。時間が掛かるならダンスレッスンを再開したほうがいいだろうか。

「ルイーエ嬢、足が平気なら練習を再開しよう」

「はい」

 ベルンハルト様に言われて立ち上がった時だった。扉が開いて、リアーヌ様が戻ってきた。随分と早い、と思っていると、その後ろから違う人物が出てきた。

「店主、久しぶりだな」

「……キアン様!?」

 リアーヌ様の後ろに着いてきたのは、かつてのお客様であり、ネイジャンの大商人、キアン様だった。前回会った時とは違い、今回は青色を基調とした服を着ている。

「どうして此方に?」

「色々と伝手はあるからな。店主が此処にいると聞いて、丁度いいから持ってきたのだ」

「丁度良い?」

 キアン様が後ろを見やると、ネイジャンの服を着た使用人が箱を持って入ってきた。そして、そのまま箱を目の前に置かれる。

「店主、開けてみろ」

「は、はい」

 言われた通りに箱を開けると、中は青色が一杯に詰め込まれていた。これは、布、だろうか。

「今回の夜会には店主も参加するのだろう?だが、この短期間で仕立てとは布が間に合わないと思ってな。前回の恩と、友好の印として青い布を贈らせて貰おう」

「あ、ありがとうございます……」

「構わない。知り合いが多いほうが夜会も退屈しないからな」

 そう言って、キアン様はにっこりと笑ったのだった。

次回更新は7月24日17時予定です。

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