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突貫レッスン

 ランバート伯爵邸に到着すると、真っ先に全身を洗われ、そして前に借りたものよりも上等なドレスを着せられた。コルセットをきっちり締められ、息苦しさを感じつつ食堂へ向かう。

「皆様がお待ちです」

「ありがとうございます……」

 今から朝食を摂るようだが、こんなに締め付けられていたら碌に食べられる気がしない。食堂の扉を開けようとすると、後ろに控えていた侍女に止められた。

「扉は私共が開けますので」

「はい……。ありがとうございます」

 ついでに、使用人に対して都度礼を言う必要はないとも言われた。この屋敷の中ではいいが、外でやったら付け入る隙を与えるようなことになる、と。

「中々入って来ないと思ったら、マナー講座が始まっていたのね」

 他にも、入室の際のマナーなどを教えてもらっていると、内側から扉が開き、リアーヌ様が姿を見せた。にこり、と微笑まれたので歩いて近寄ると、後ろで食堂の扉が閉められた。

「奥様。お客様をお連れするのが遅くなり、申し訳ございません」

「大丈夫よ。ドレスにもマナーにも慣れていないでしょうから、仕方がないわ」

 そう言って、リアーヌ様が目線で合図をすると、侍女は無言で退室して行った。これが正しい使用人との関係性、と言うことらしい。リアーヌ様は何も言わないが、これがお手本であることを微笑みが物語っている。

「さて、席までのエスコートを……」

「ルイーエ嬢、手を」

 リアーヌ様が視線を向けると、ランバート様が慌てて立ち上がった。が、それより前に私の前に手が差し出された。ベルンハルト様だ。

「ビオ卿がお忙しいなら、リシャールにさせますけれど」

「時間は取ってあるので問題ない。当日のエスコート相手の方がいいだろう」

「そうですわね」

 ベルンハルト様にエスコートされるまま席に着くと、朝食が始まった。細かい食事の作法が分からず、正面に座っているレティシア様に視線を向けると、ニコリと微笑まれた。

「まずは、笑顔を浮かべることを意識した方がいいですよ。マナーが分からなくても、動揺せずに堂々としていれば諦める方も多いですから」

「はい……」

 諦める、とは、陥れるのを諦めるということだろうか。物騒だな、と思っていると、レティシア様はゆっくりと食器に手を伸ばした。

「基本的な所作は丁寧ですから、細かな決まりだけ覚えてしまえば、後はお相手が助けてくださいます」

「はい」

「後は、1人の相手を見過ぎないことですわね。自然な視線の向け方、というものを意識されると宜しいかと」

 私にわかりやすいように食事を摂るレティシア様の真似をする。食器の取る順番、置き方、食べ物の切り方などを実演してもらい、すぐに真似することで体に覚えさせる。

「今回の朝食は、基本的なテーブルマナーを全て使うように考えられています。昼食で復習をして、夕食までには完璧にしましょうね」

「……はい。精一杯、頑張ります」

 お腹よりも頭が一杯になったところで、朝食は終了となったのだった。ここで休憩、となるはずもなく、次は少し広めのホールのような場所に案内された。

「ここは……」

「ダンスホールです。今回は夜会ですから、当然、ダンスがあります。最低でも最初の一曲は踊れるようにしておかなければなりません」

「では、今からはダンスの練習ですか?」

「いいえ。まずは、会場に入るまでの確認をします」

 王宮の入り口で馬車から降りて、受付を通って会場に入る。馬車の乗り降りは何度かしたことがあるので、今回は省くそうだ。暗い上に会場から少し離れているので、確認されることも少ないらしい。

「ビオ卿を信頼しているようですから、最初の段階はできていますね」

「ベルンハルト様はいつも助けてくださるので、信頼というより、頼りきりな気もしますが……」

「助けが必要なのは、ルイーエ嬢に原因はない」

「ありがとうございます」

 いつも通り差し出された手に自分の手を重ねるが、此処でリアーヌ様に止められた。夜会でのエスコートでは、腕を組む必要があるらしい。

「ルイーエ嬢、手を此方に」

 ベルンハルト様が軽く肘を曲げ、体との間に隙間を作る。そのまま手を軽く引き、腕の上に誘導された。

「えっと……」

「アユム、手は握るのではなく軽く添えればいいのよ」

 リアーヌ様に言われ、恐る恐る手を乗せると思ったよりも距離が近いことに気付いた。気を付けていないと、ベルンハルト様の進行方向にドレスの裾が広がってしまいそうだ。

「心配しなくとも、踏んだりはしない」

「い、いえ、ベルンハルト様を疑っている訳では……」

 ドレスの裾を見ていたので勘違いされたらしい。慌てて否定すると、見ていたランバート様が笑いながら言う。

「進行方向にいきなり女性が飛び出してきても避ける男なので大丈夫ですよ」

「リシャール、余計なことを言うな」

「安心できるかと思って言ったんですよ」

 ベルンハルト様とランバート様の言い合いがはじまりそうなタイミングで、リアーヌ様が手を叩いて中断した。

「腕が組めたら次は歩く練習ですよ。ほら、アユム。集中して」

「はい」

 気持ちを切り替え、姿勢を正して歩き始める。気合を入れて踏み出した次の瞬間、ドレスの裾を踏んで転びかけたのだった。

次回こうしん更新は7月23日17時予定です。

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