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飛び出す勇気

 脱出経路の目処は立った。しかも、その方法は相手も予想はしていないだろう。後は、その予想もされなかった脱出方法を実現する道具を手に入れるだけだ。

「川に飛び込むとして、問題は、飛び込んだ瞬間の衝撃の緩和と、水中での行動手段」

 衝撃は身体強化でどうにかなるだろうが、問題は水中での行動だろう。川の深さや流れの速さは先ほどの窓からは見ることができなかった。

「安全策を考えるなら、水中呼吸ができた方が安心かな……」

 幾ら身体強化をしていても、私は特殊な訓練を受けているわけではないし、恐怖心だって人並みにある。上手く呼吸ができる保証はどこにもない。

「何を作れば……、って、反応が早い」

 また、付与効果から作るものを選ぼうと思っていると、壁面に文字が表示された。水に関する効果を付与する場合は、まず、透き通る色や、青色が含まれていることが重要らしい。

「そこから、水中での活動への効果に限定していくと、水の中を想像させるような、二層以上の構造……」

 1番上の層を透明にして、最下層を濃いめの青色にすることが大切だろう。呼吸機能を入れたい場合、さらに空気系の要素を含む必要があるという。

「空気系は無色透明か、白に近い色」

 透明感があり、さらには積層構造があるものを作る、となると、レジンかトンボ玉が適しているだろう。

「……今は、トンボ玉かな」

 同じジャンルのものを続けて作っている時は、作業に慣れるからなのか、突然、閃くことがある。折角、トンボ玉を集中して作っているので、今回もトンボ玉で挑戦してみよう。

「……まずは、青色の棒ガラス」

 色自体は濃いが、うっすらと向こう側が透けて見える、そんな色のガラスを手に取り、温めていく。芯棒も並行して温め、十分な温度になったら青のガラスを巻き付けていく。

「次は、白の細引き棒の先を温めて……」

 左手で先に作った青色の玉の形を整えつつ、右手で白い細引き棒を予熱していく。そして、左手で回していた芯棒と青の玉を炎の外に出し、細引き棒の先端を少しだけ溶かし、こちらも炎の外に出す。

「肘を固定して……」

 ずれないように気を付けて、溶かした細引き棒の先端を青い玉に押しつける。温度差で玉にヒビが入ることはなく、溶かしたガラスが全てついたので細引き棒を引っ張る。

「ある程度引いて細くなったところで、炎の中に入れて焼き切る」

 これで、白い点が青い玉の上に出来た。もう数個、上下左右に位置をずらしながら点を打って、炎で馴染ませれば打った点の位置に盛り上がっていた点が丸くなる。

「ある程度表面を馴染ませたら、今度は透明のガラスで……」

 たっぷりと透明のガラスを溶かし、先ほどの玉の上を覆うようにガラスをのせる。そして、全体が丸くなるように形を整えたら後は冷やすだけだ。

「これで二層構造にはなっていると思うけど……」

 白い点の部分も含めれば三層になるのかもしれない。冷ましている間に身体強化をするための物を作ろうと思い、一度畳の上に戻る。

「トンボ玉を通すためのブレスレットでも作ろうかな」

 身体強化を付与しやすいのは、赤色だったはずだ。素材は、糸に近い物だったか。ベルンハルト様に借りたブレスレットを思い出しつつ、作業をしようと引き出しを開けたその時だった。

「間違えた。…………って、あれ?」

 道具を取り出そうとしたのだが、間違えて1番上の、今は何も入れていないはずの引き出しを開けてしまった。それは別にいいのだが、問題は、何もないはずの引き出しの中に物が入っていた、ということだ。

「これ、ベルンハルト様の……?」

 つい先程、頭に思い浮かべていた身体強化のブレスレットである。そして、その下には無くなったはずの空間交換のコースターと、小さな紙も見える。

「これは……」

 ベルンハルト様達が、盗まれた物を取り返したのだろう。そして、小さな紙に書かれていたのは『どうにか脱出してくれ』の文字。シルエット侯爵邸に乗り込むことは出来ないが、手助けはしてくれるということなのだろう。

「……逆に、敷地から出たらなんとかなる、と」

 有り難くブレスレットは使わせてもらうことにして、後はトンボ玉が冷えるのを待つだけだ。畳に横になろうと思った時、注意を引きつけるかのように光った。

「…………実は、結構しっかりとした自我があったりする?」

 壁面には『安全冷却短縮機能』という、完成したトンボ玉を割らずに、早く冷ますという正に現在必要な機能が表示されていて、私は思わず苦笑したのだった。



「よし、準備万端」

 水中呼吸のトンボ玉も無事に完成し、チェーンに通してネックレスにして身につけた。後は飛び降りるだけ、ということで、私は窓に足を掛け、糸巻き玉に魔力を込める。

「これは、気付かれるかな」

 ゴロゴロ、と音を立てながら屋敷中に散らばっていた蜻蛉玉が転がってくる。軽いからか、その速度は早く、視認することは難しいだろうが何人かは此方を見にくるだろう。回収が終わったところで、再び川に視線を向ける。

「……大丈夫」

 思いっきり飛んで川の方に行かないと、逆に危ない。自分に言い聞かせ、深呼吸をして、頭の中でカウントダウン。3、2、1。

 私は力強く窓枠を蹴った。

次回更新は7月18日17時予定です。

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