表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/218

スキルの助け

 全ての作業が完了し、いよいよ脱出作戦開始である。だが、一つ問題を挙げるならば、まずはこの工房から外に出る、という事が一番難しいのである。作業時間を考えると、私が姿を消してかなりの時間が経過している。当然、その間にシルエット侯爵を始めとしたこの屋敷にいる全ての人員に私が消えたことは知らされているだろう。

「普通、姿を消したとなれば屋敷中を捜索すると思うけど……」

 最初の部屋に人員が割かれているかどうかが問題だ。普通に考えて、逃げ出したのならば目を覚ました部屋に戻ってくる可能性は低いと考えるだろう。が、姿を消したのではなく、空間スキルで一時的に別の場所に移動していることが分かっているなら、出るタイミングを待ち構えられているかもしれない。

「シルエット侯爵、最低でも私と、他の人達が召喚された時に関わっていたみたいだから、空間スキルに詳しいかも……」

 過去の日本人たちのスキルについても知っているのなら、工房を始めとした特定の場所を再現するスキルの法則性を知っている可能性も高い。消える瞬間を見られなければ誤魔化しようがあるが、違う場所に出られないことを知られた上で、工房に入る瞬間を見られたら終わりである。

「…………先に、外の様子だけ見られたらいいのに」

 しかし、作った撮影トンボ玉を外に出す方法はない。溜息を吐いて畳の上に転がる。暫く目を瞑ったまま畳の上を転がっていたが、横を向いたタイミングで、あることに気が付いた。

「扉、作りが変わってる?」

 今迄、土間や新しく増えた作業台ばかりに目が行って気付かなかった。が、改めて扉に注目してみると、色合いは変わらないものの全く違う扉に変わっていたのだった。急いで体を起こし、扉に近付いて確認する。

「ドアノブとかが豪華になった気がする……」

 こげ茶色の扉に、金属部分は黒っぽいので気付かなかったが、ドアノブに微妙な装飾が施され、下の部分に鍵穴のような物もある。が、位置的に鍵穴だと思っただけで、薄い板のような物くらいしか差し込むことができない、よくわからない穴だ。

「此処から外は……、流石に覗けないか」

 ドアノブには触れないように、ギリギリまで扉に近付いて鍵穴を見る。が、視界一杯に黒色が広がるだけで、外の様子は全くと言っていいほどわからなかった。諦めて外に出るべきか、と一歩下がろうとした、その時。

「え」

 足が、何かに引っ掛かって、しりもちをついた。きょとんとして右足を見ると、右足の靴先が、扉の下に引っ掛かっていたのだ。そう、いつの間にか、扉の下、中央付近に隙間ができていたのだ。

「壊れた、とかではなく、デザインみたいな感じだよね、これ」

 左右対称な模様になっているので、恐らくそうだろう。私以外、工房に出入りすることはないので、隙間が空いていても埃が入ったりすることはないので問題もない。それよりも、この隙間、丁度、小さなビー玉程度のものなら通りそうな大きさである。

「……スキルが、主人の危機を感知したのかも」

 今回の、工房の全面改装は、これまでに比べて必要だったポイントが圧倒的に少ない。この工房が直接、私に語り掛けてくることはないが、主人の危険を救おうとする意志のような物はあるのかもしれない。

「頑張らないと」

 それならば、尚更、何が何でも脱出しなければならない。緑色のトンボ玉を摘まみ、そっと扉の下の隙間から外に向かって転がす。床は完全に水平になっているようで、トンボ玉は途中で変な方向に曲がることもなく、真っ直ぐに進んでいく。

「『投影』」

 透明のトンボ玉を持ち、魔力を流す。すると、透明だった表面は色を変えたのだが、真っ暗だ。もしかして、元の部屋ではなく、空間と空間の間のような場所にでも行ってしまったのだろうか。少々慌てつつ、先に他の角度でも見てみよう、と手の中のトンボ玉を転がす。

「あ、ベッドの下に入り込んだだけか……」

 何度か角度を変えて様子を見ると、ぱっと見える光景が明るくなった。床と、ベッドの脚、それから扉の一部が見える。ベッドは部屋の角にあったので、暗く見える部分が偶々多かったのだろう。見つかり難さを考えれば幸運だったと言える。

「今は……、誰もいないみたい」

 くるくると、トンボ玉を回して周囲を確認する。見える床面を全て確認したが、靴のようなものは一切見えなかった。最初にいた部屋にはいないと判断して別の場所を探しているのだろう。

「これなら、スキルについても把握されてないかな」

 後は、工房に入る決定的な瞬間を見られないように、少しずつ屋敷の外へと移動していけばいい。まずは工房から出て、廊下の様子を探りたいところだ。屋敷の構造が全く分かっていないので少々時間は掛かるだろうが、取り敢えず下へ向かえば最悪窓からでも出ることはできる。

「でも、その前に……」

 流石にお腹が空いた。丸一日眠っていた上に、暑い中で作業もしたのだ。水はあるが、何か食べないと体がもたない。私は、最初の目的地を厨房に決めたのだった。


次回更新は7月16日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ