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投影と撮影

 十本あったステンレスの芯棒全てにガラスを巻き付け終えた頃には、最初の作品はすっかりと冷えているようだった。人肌よりも少し冷たい位になっているようなので、いよいよ棒から外す作業である。

「完全な球体とは言えないけど、綺麗なへそになってるから合格かな」

 トンボ玉は、作業を簡単に言うと、ガラスを巻き付けて球にしている。こう言うと簡単に聞こえるが、巻き付ける際に持っている棒が傾いたりすると、穴の付近にバリが出来たりする。そして、バリがあると紐などを通していても切れてしまったり、最悪怪我をすることもあるので綺麗なへそを作れるかは、本当に大切なのだ。

「作業台の横に水道ができたの、便利だな」

 バーナーワークをする上で水は必要不可欠だ。何かあった時、真っ先にすべきことは消火なので。水道に既に置かれていたバケツに水を溜め、ガラスが付いたままの棒を入れる。他の棒も先に入れようか、と一瞬考えたが、十分に冷えていなかったら水に入れたら割れてしまうのでやめておく。

「ペンチで直角に棒を掴んで」

 右手でペンチを持ち、芯棒と直角になるように挟む。そして、左手でトンボ玉の部分を持ち、小刻みに回すようにして動かしていく。何度か動かす度に水の中に剥がれた離型剤が浮いていき、暫くすると、ぐるん、と玉が一回転した。

「外れて良かった……」

 右手のペンチを作業台に戻し、芯棒を直接回しながらトンボ玉の穴の離型剤をはがしていく。何度か抜き差しすれば、トンボ玉の中央にあった白い一本線がなくなり、美しい、ガラス独特の透明感が際立つ。

「一応、ブラシで中を綺麗にして」

 丁寧に布で水気を拭き取れば、完成である。さて、作品の出来は満足いくものだが、問題は、魔法付与の効果だ。この状況を打破できるものであるのかどうか。壁に目を遣ると、既に文字が表示されていた。

『アイテム:投影トンボ玉 製作完了』

『【工房】スキルポイント100獲得』

『【ガラス細工】技能ポイント100獲得』

『付与詳細』

『投影トンボ玉:特定の光景を映し出す』

 効果を見る限り、予定していたものができているようだ。が、もう一つのトンボ玉も上手くできていないと意味がない。私は徐冷材の中から緑色の玉の付いた棒を取り出し、水につける。此方も形は悪くない。

「完全に棒から外すまでは、完成と見做されないのかな」

 壁を見ても、文字に変化はない。完全に棒から外し、商品として使える状態にならない限り、完成品とは判断されないのだろう。意外と、此処で外れずに割ることになる、ということは多いので。

「小さいと、ちょっと回しにくいかも……」

 色付きのガラスで作ったトンボ玉は、先程の透明のものよりも一回り小さめに作ってある。その所為か、上手く回せずに何度か持ち替えて挑戦してみる。

「……まずい」

 これは、外れないやつかもしれない。色によって溶ける温度などが微妙に違うので、失敗したかも。若干焦りつつ、外れない時の対処法を一生懸命思い出す。

「えっと、玉がついて無い方の棒の先を軽く叩く……」

 ハンマーで軽く芯棒を叩くと、中の離型剤が割れて外せるようになる、というものである。後は、ぬるま湯に付けたり、冷蔵庫に入れるという方法もあった気がする。駄目だったら其方も試そう、と思いながら水から取り出しハンマーで叩くと、押さえていた玉が動いた気がした。

「あ、外れた」

 そこからは、簡単に回すことができ、無事にトンボ玉が棒から外れた。中の離型剤も落とし、布で拭き終わると先程同様、壁に文字が表示される。

『アイテム:撮影トンボ玉 製作完了』

『付与詳細』

『撮影トンボ玉:特定の光景を記録する』

 出てきた文字を見る限り、思い通りの効果になっているようだ。さて、どうやって使うのだろう。取り敢えず、緑色の玉を畳の上に転がし、透明の玉を持って土間の作業台に戻る。多分、魔力を込めれば反応するだろう。ゆっくりと、手の中の玉に意識を集中させ、魔力を流す。

「わ、すご……」

 すると、持っていた透明の玉の表面が揺らぎ、畳が映し出された。手の中の玉を転がすと、それによって見える光景も変化する。対応している面の映像をそのまま映し出している、という事だろうか。

「後は、複数個所に撮影トンボ玉を置いている場合、どうやって使い分けるのかだけど……」

 意識を、持っているトンボ玉に集中させる。すると、持っている透明の玉とは別の場所に、魔力を帯びたものがあることが、感覚的にわかる。それの感覚を辿って行けば、畳の上にある緑の玉の位置がなんとなくわかる。

「……道具同士の繋がりを辿って行って、どの光景を映すか選べる、ってことかな」

 とはいえ、これは中々に集中力がいる作業だ。魔法って難しい。取り敢えず、もう1つか2つ、撮影用のトンボ玉が準備できたら行動を始めよう。水はあるからいいが、食べ物が無ければ最終的に動けなくなってしまう。

「絶対、脱出しないと」

 決意を新たにし、作業に戻ったのだった。


次回更新は7月15日17時予定です。

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