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透明なトンボ玉

 換気状態は問題ないようなので、最初に準備するのはバーナーだ。ガス専用のホースを使い、元栓と繋いで固定する。そして、手順を守りつつ点火し、炎の状態をきちんと調節出来ることを確認してから一度火を消す。

「ステンレス棒は……、全部で十本あるか」

 それらを順番に並べ、バーナーの横に置く。後は棒立ても移動させておき、直ぐに棒を立てられるようにしておく。次に取り出すのは離型剤。ステンレス棒にガラスを巻き付けた後、取り外せるようにするためのものである。これが無いと始まらない、ともいえる。

「本当は、丸一日置いた方が良いけど……」

 アイプロテクターを装着して、服の袖を確認する。安全を確保したら火を点け、ステンレス棒の表面を焼いていく。表面に付いている油を飛ばす為だ。順番に表面を焼き、冷えたものから離型剤を付ける。液面に垂直になるように入れ、ゆっくりと持ち上げる。白い離型剤が付いたことを確認して、棒立てに置いておく。

「火の側に置いておけば、乾くのも早いかな……」

 その間に、今度はガラスの準備である。まずは、汚れや油分を取り除くため、ガラス棒を湿らせた布で拭く。今回は作業机に置いてあった十本を全部使う予定だ。近くに仕切りの小さな棚ができていたので、ガラスが足りなくなったらそこから補充できそうだ。

「工具は、引っ掻き棒と、ピンセット、ガラス切り、コテ、徐冷材……」

 作業中に使うことが多いのは、引っ掻き棒とピンセット、コテくらいだろう。徐冷材の入った箱は足元に置いておいて、使用頻度が高いものは机の手前に置いておく。

「後は、細引きしておくかだけど、今回はいいかな」

 細引き、というのは、細かい模様を付けたい時に使う、細いガラス棒を作るための作業だ。今回は、できる限り透明なガラス玉を作ることを目標としているので使わない。本当は完全な、ビー玉のような物が作れれば良かったのだが、流石に難しいので中央に穴が開いているトンボ玉で代用する。

「離型剤も、なんだか乾いたみたいだし、始めよう」

 もっと時間が掛かるかと思ったが、離型剤がある程度乾いたようなので作業を始める。早過ぎる、と思わなくもないが、空間スキルの効果なのだろう、きっと。

「最初は、光景を映し出す為のトンボ玉だから、透明かな」

 火を点け、右手で透明のガラス棒を持つ。そのまま右手を炎の30cmくらい上の方で火の上を行き来するように振って予熱する。バーナーワークは久し振りなので、少し長めに予熱することにする。温度が一気に変わると、ガラスは割れて危険だからだ。

「そろそろかな?」

 ガラスの色が変わり始めたところで、右手の高さをバーナーに近付けていく。すると、ガラスを覆うような炎が現れ、ガラスの先端が徐々に溶け始める。右手に持った棒を回して溶けたガラスが落ちないようにしながら、左手で太めのステンレス棒を持ち、離型剤を付けた方を温め始める。

「流石に、難しい、かも」

 大きめのトンボ玉を作りたいので、ガラスも多めに溶かさないといけない。が、大きくなるにつれ、下に垂れる速度も上がるので中々難しい。一旦、芯に巻き付けた方が良いかもしれないな、と判断して、右手のガラス棒の位置を少し上、溶けもせず、冷えもしない保温位置に移動させる。同時に左手の芯棒は火元に近付け、離型剤が赤くなるまで熱して水分を飛ばす。

「大丈夫、落ち着いて……」

 しっかりと離型剤が赤くなったので、両手を炎の上から放し、ガラスの表面が少し冷えて固くなるのを待つ。あまり早過ぎると外れなくなるからだ。少し硬くなり始めた頃合いを見計らって、芯棒の奥から手前にガラス棒を置き、芯棒を回してガラスを巻き取っていく。

「半分巻き取ったら、炎に入れて、残りを巻き取る……」

 最初に溶かしたガラスを全て巻き取ったら、炎の奥側でガラスを焼き切る。が、久し振りだったからか、真っ直ぐに焼き切ることができず、巻き付けていた場所から少し横にずれた場所に残りのガラスがついてしまった。

「失敗、したかな……?」

 右手のガラスを置き、左手の芯棒は炎の中で水平に回転させる。すると、巻き取った時は円盤のような形だったガラスの形が徐々に変わっていき、丸くなっていく。ガラスが中心から広がる際に、先程の失敗は分からなくなったので、修正する必要はなさそうだ。

「真ん丸になった気がする」

 形が整ったところで、炎から出して、ゆっくりと回しながら少しだけ冷やす。大気中で冷やすと温度変化が激しすぎて割れるが、徐冷材に入れるのが早過ぎると折角作ったガラスの表面に徐冷材がくっついてしまうのである。

「まずは一つ、完成」

 軽く徐冷材の表面に触れさせてもくっつかないことを確認して、形が崩れないようにそっといれて、後は冷えるのを待つだけである。その間に、今度は光景を見る為のトンボ玉を作らなくてはならない。

「今度は、透き通った色であれば色付きでも大丈夫な筈」

 透き通った緑のガラス棒を手に取り、次の作品を作り始めたのだった。


次回更新は7月14日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] バーナーワークまで出来るとはホントなんでもやってるな…!!
[気になる点] 水道があるなら最悪1週間は篭城できるとして、トイレ設備が必要だった気がする
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