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深夜の開門

 窃盗事件が発覚した当初は情報統制が行われていたらしい、という私の発言から、ベルンハルト様は王宮側の動きも確認していてくれたらしい。その結果、確かに事件発生当初は情報が極端に制限されていたことが分かったそうだ。

「そもそも、魔法道具を持っているような人間は限られる。窃盗に応用できるような魔法道具となるとなおのことだ」

「窃盗に直接関与していなくても、魔法道具を与えたり、情報を与えたりした可能性は高いという事ですか」

「他の研究所とは違い、国立魔法研究所には一度も魔法を使った痕跡が無かったからな」

 他の研究所と、国立魔法研究所で警備体制が全く違う、という事を把握している人間が裏にいることが考えられる、という。ほんの少しの情報から、そこまでのことを調べるとは、ベルンハルト様は一体どこまで見通しているのだろうか。もしかして、予知能力でもあるのではないか、と疑いたくなる。

「……相手がただの王宮関係者ならいいのだが、もしかすると」

 ベルンハルト様が何かを言いかけた時、突然、空が明るく照らされた。正確に言えば、空が明るくなったのではなく、ある建物の屋上から強い光が放たれた。光の方向を見てみると、丁度、王宮全体を見ることができそうな建物の屋上であることがわかる。

「実行犯の居場所が割れたか」

「思ったより近かったですね……」

 光る球は存分に効果を発揮しているらしく、中々光が収まる様子はない。魔力を感知して光る、という性質を理解していなければ当然ではあるが、布で包んだり、手を放したりという事が思いつかないほど混乱を引き起こしているらしい。

「効果絶大ですね」

「これからが本番だが」

「捕縛と、他の犯人グループの捜索ですよね」

 私たちからでも正確な場所が確認できているのだから、近くに待機している研究員たちが見落とすことはないだろう。これで、実行犯の確保と窃盗に使用された道具の回収は達成できると考えて良い。

「さて、今から、ルイーエ嬢が追加した仕掛けが活きるだろうな」

「そうでしょうか?」

 正直、実行犯の発見が早かったので、犯人たちは逃げることもできず捕まるだろう。そうなると、後を追って他のメンバーが待機している場所を探す、ということは難しくなると思うのだが。

「実行犯と計画犯が別で待機しており、実行犯の居場所が相手に知られたとする。その場合、実行犯は最初に何をするように指示されていると思う?」

「盗んだ物を送るように指示されているとは思いますが、見つかったのなら、自身の安全を優先して逃げませんか?」

 今迄に盗んだ物を別の場所に保管しているのなら、今回盗んだ物を置いて逃げることは十分に考えられるだろう。そう思って答えたのだが、ベルンハルト様は首を横に振った。

「後ろ盾が付いているのなら、捕まったところで依頼を達成すれば権力の力で簡単に牢から出ることができる、と説明されている可能性の方が高い」

「……実際、出られるか、保証はないと思うのですが」

「そこまで頭が回るなら窃盗をしないだろうな」

 以前から窃盗を行っているような相手なら、尚更依頼の達成を優先するだろう。とベルンハルト様は続けた。依頼を達成することで今迄の罪をなかったことにする、といった条件を付けて犯罪者を使うのは貴族社会ではよくあることらしい。やっぱり王宮は怖い。

「つまり、だ。原因にも思い至らないまま、ルイーエ嬢が作った球は別の場所で待機している受け渡し役などに送られる」

「そうすれば、また光が発生し、もし止めたとしても位置情報は研究員たちに知られるということですね」

「盗品を送る為の魔法陣を解析すれば追うことも不可能ではないが、時間が掛かるからな。相手側に魔法の扱いが得意なものが居たとしても確実に捕らえることができる仕掛けだ」

「お役に立ったのなら何よりですけど……」

 そこまで上手くいくだろうか。そう思っていると、別の場所から強い光が放たれた。が、今度は一瞬でその光は消え、周囲が再び暗くなる。盗んだ品々を受け取ったメンバーの中に、突然光り始めた球に対応できる人物がいたようだ。

「上手くいっただろう?」

「そう、みたいですね。この調子でいけば、私たちの仕事はなさそうなくらいです」

「……無いと良いのだが」

 もしも、相手が王宮関係者だった場合、本人が直接犯人たちに指示を出したことはないだろうが、お抱えの魔法使いを派遣している可能性はあるという。そして、これだけ追い詰めれば、自身へと繋がる可能性のある魔法使いと有用な魔法道具だけを持って逃げようとするだろう、と。

「そして、物を運びつつ、怪しまれないように行動する場合、最も適しているのは……」

 ベルンハルト様が言うのとほぼ同時に、王宮の正門が、ゆっくりと開かれていく。そして、一台の馬車が王宮から出ようと開門を待っているのが隙間から見えた。

「馬車を停めて中を確認する。ルイーエ嬢、離れず、相手から見えないよう後ろにいるように」

「わかりました」

 私とベルンハルト様は、正門へと向かって走り始めたのだった。


次回更新は7月10日17時予定です。

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