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置いてけぼりの異世界ハンドメイド  作者: 借屍還魂


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151/218

より良いものを

「ベルンハルト様」

 工房から出ながら声を掛ける。テーブルに並べられたサンドイッチを食べていたベルンハルト様は、少し待て、と手で合図をして紅茶を一口飲んだ。そして、流れるような手つきで私の分の紅茶を淹れつつ、続く言葉を促した。

「早かったな、ルイーエ嬢。進展はあったか?」

「はい。試作品が完成しました」

 進展が無いのに報告に来るような時間の余裕は、今の私たちにはない。私はベルンハルト様が差し出した手の上に水引の玉結びをコロンと置いた。瞬間、視界が真っ白に塗りつぶされる。ベルンハルト様の魔力に反応した球が強すぎる光を放ったのだ。

「……予想以上の効果だな」

「ベルンハルト様の魔力が多い、というのもあると思います」

 視界を焼き尽くすような光に動揺することはなく、ベルンハルト様は指先に流れる魔力を調節し、光を弱くした。簡単そうに見えて、かなり繊細な魔力のコントロールをしているのだろう。先程試したが、私の実力では完全に光を消すか付けるかしかできないので、余程魔力の扱いに長けていない限り、難しいだろう。

「仕組みを理解しているからこそ、強く輝いても対応できるが、何も知らずに手に取れば確実に光るだろうな」

「はい。暗闇の中、活動しているのなら相手側の目晦まし、味方側の捜索補助として十分に機能してくれるかと思います」

「ああ、十分だろう。量産は可能か?」

「はい。夕方までには、それなりの数を揃えられるかと」

 そうか、とベルンハルト様は頷いて、魔法道具を使って他の研究員たちと話を始めた。恐らく、光る球についての情報共有を行っているのだろう。それなら、私は自分の作業に戻った方が良い。作業をすべきだと、わかってはいるのだが。

「……どうした。注文通りの品を作って来たにしては、浮かない顔だが」

「現時点で、既に作戦に必要な最低限の機能を備えていることは理解しています。けれど……」

 余計な機能が無くても、国立魔法研究所の研究員たちは優秀なので犯人たちを見つけられるだろう。ベルンハルト様が考えた作戦を疑っている訳でもない。だが、折角、私には魔法付与と言うものがあるのだから、それを最大限生かしたいと思ってしまうのだ。

「自分の中では完璧ではない。もっと良い物が作れる、か?」

 私が続きを言葉にする前に、ベルンハルト様が言った。彼も、彼の部下たちも研究者だ。似たような事を考えることは多いのかもしれない。そして、今の時点でベルンハルト様が必要ないと断言しないという事は、魔法付与の効果によっては作戦に貢献できるという事だろう。私は緑の瞳をしっかりと見据え、考えを述べる。

「……はい。魔法付与の効果によっては、実行犯以外の、潜伏している犯人も見つけ出せるのではないかと思うのです」

「が、魔法自体に明るくないことと、作戦の全貌を知らされている訳ではないから適した効果がわからない」

「研究員ではない私に教えることが出来ない情報があることは理解しています。ですので、どのような効果が望ましいかだけ、教えて頂けませんか?」

王宮に関わる気が無い私に、教えることができない情報があるのは当然だし、逆に教えないことで身を護れることだってあるだろう。それは理解している。なので、魔法効果の内容さえ教えて貰えば、適した色を探して、目的の効果が出るまで作るだけだ。私は満足のいく作品を作ることができ、作戦にも役立つ。特に不利益はない筈だ。

「光だけでは正確な位置が特定できない可能性がある。相手の位置を詳細に把握する術があると望ましい」

「どのくらいの精度ですか?」

「建物内のどの部屋にいるかを判別できる程度だ。大まかな位置は予想が付いている」

 そう言われ、少し考える。至近距離で、詳細な位置情報を得ようと思うと、無線通信のような感じで位置情報を送る仕掛けがいいだろうか。相手にバレないように、送信側と受信側を完全に分け、受信側を此方が持っておけばいいだろう。

「……作ってみます」

 今回は音ではなく、位置情報、つまりどのような形であれ、探知できるものを送受信できればいい。異世界で同じ物理法則が通用するかはわからないが、光を放っている時点で波が発生しているとすれば、その光の波長を受け取ることができれば良い。

「言っておくが、精度が低く、間違った場所に案内をするようなものであれば作戦妨害にしかならないことは理解しているな?」

「はい」

 違う波長を受け取らないように、又は、受け取っても違うと判断するために、送信側の波長も定期的に変わるようにするのはどうだろうか。幸い、持っている水引は虹の七色と同じであり、光の波長の色と同じだ。効果を付与するには丁度いい色だろう。

「最大限待ったとして、夕刻、貴族区域の門を閉める鐘が鳴るまでだ」

 工房から出た時が三時頃で、門が閉まる時刻は確か六時の筈だ。後三時間。それだけあれば完成する見込みは十分にある。

「はい。ありがとうございます」

「ルイーエ嬢、食事は……」

 急いで工房へと戻る。一刻も早く試さなくては。私が紅茶に手を付けていないことと、甘いものを注文していたことを思い出したのは、指定の刻限ギリギリに工房から出た時だった。


次回更新は7月8日17時予定です。

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