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光る玉結び

 一般人には一生縁がなさそうな、高級そうな店に近付く。すると、中から人が出てきて扉を開けてくれた。そして、用件を聞く人は別にいるらしい。この時点で驚きだというのに、すぐさま豪華な造りの個室に通され、値段が書かれていないメニュー表を渡される。書いてある内容的に、ここはカフェらしい。私が知っているカフェとはかなり客層が違うけど。

「何か、適当に摘まめるものを。ルイーエ嬢は甘いものは好きか?」

「はい。好きです」

「特に食べたいものが決まっていないなら、適当に注文するが」

「お願いします……」

 値段が書かれていないものを頼むのは怖いな、と黙っていると、ベルンハルト様がついでに注文をしてくれた。時間をかけすぎても店側の迷惑になるからだろう。代金については後で支払わせてもらおう。流石に、手持ちのお金で足りないという事はないだろう。暫く贅沢はできないだろうけれど。

「注文した品はすぐに来ると思うが、無断で部屋に入ってくることはない。先に作業を終わらせておきたいなら、今からでもいいが」

「そう、ですね。あまり時間もないですし、良ければ作業をしてこようかと」

「ああ」

 ベルンハルト様は、怪しまれないためにも部屋に残っておく、という事だった。気にせずに食事をしていてください、とだけ言って私はすぐに工房に入る。作戦の開始まで時間は少ない。少しでも作業する時間に充てたいのだ。

「問題は、何を作るかだけど……」

光るもので、別々の場所に潜伏しているかもしれない犯人たちを一網打尽にできそうなもの。そして、複数個作れて製作に時間が掛かりすぎないもの。ベルンハルト様は魔力を感知して光ればいい、と言っていたが、どうせならば犯人探しに貢献できそうな効果も追加したいものだ。

「前提条件として、手に取られないといけないから、興味を引く物の方が良いよね」

 思わず手に取ってしまうような、珍しいもの。そして、危険そうでないもの。危険、と思わせない形となると、掌よりも小さい、摘まめるくらいの大きさで、丸いものがいいだろうか。

「形は球にするとして、後は、一網打尽にする効果だよね……」

 後から付与できる、とはいっても色や形、素材ごとに付与しやすい効果は違う。今までの経験上、丸いもの、と言う時点で光らせることはできるだろうが、素材や色が全く決まらない。

「グラデーションで作るか……」

 どの色を使えばいいかわからないのなら、取り敢えず、沢山の色を使っておけば効果が弱くても付与自体は出来る。ただ、レジンは型の数と作る時間の問題上、少々難しい。ビーズを丸い形にする、ビーズボールと言うものもあるが手順が直ぐには思い出せない。何か、良い物はなかっただろうか。頭を抱えかけたその時だった。

「玉結び……」

 机の上に置かれていた水引を見て気付いた。水引で飾りを作る時に基本ともいわれる形。あわじ結びを基本とした作り方で、玉結びがある。あわじ玉、とも呼ばれるそれは、あわじ結びを三重にし、立体的にするというものだ。

「完成度を高くするのは難しいけれど、一つを作るのにはそこまで時間が掛からないはず」

 玉結びは、綺麗な形にならなかったりすることが多いのだが、手順自体は単純で、そこまで時間が掛かるものではない。最近、水引作品を作ることが多かったので、大きな失敗をすることは少ないだろう。

「……よし、作ろう」

 まず、ポイントを引き替えて、グラデーションカラーの水引を交換する。机の上に交換したばかりの水引と、鋏、目打ちを用意する。玉結びをする時は、狭い隙間に水引を通す必要があるので鋏と目打ちが必須なのである。

「まずは、普通にあわじ結びを作って……」

 そうすると、三つの輪の両側からそれぞれ長い水引が出ているような形になる。自身の指の爪と比べ、大きすぎないことを確認する。次に、片側の水引を持って、反対側の輪に沿わせるようにして、四葉のクローバーのような形にする。ただ、この時、水引の上下が入れ替わったりしないように気を付ける。これで一周目は完成だ。

「丸みを付けて……」

 この時点では平面だが、最終的に丸い形にする為、指先に押し当ててお椀のような形にする。後は、丸くなるように水引を引き締めつつ、水引を添わせていって全体が三重になるようにするだけだ。

「……これは、大丈夫、そうかな?」

 最初のあわじ結びが大きすぎたり、引き締めが足りないと丸くならなかったり、大きな穴が開いたりするのだが、この調子でいけば綺麗な形になりそうだ。使っている水引の硬さも出来栄えに影響するので、偶然、私にとって作りやすい水引だったのだろう。

「まずは一つ完成」

 作り終えたら、両端を水引の中にしまえば玉結びの完成である。このまま直接貼り付けてピアスにしたり、パーツとしてブレスレットのビーズ代わりにしたり、色々な使い方がある。一応、壁を見て魔法付与の効果が無いか確認したが、微妙の魔力で発光する、以外の効果は付いていなかった。

「次を作る前に、ベルンハルト様に相談しよう」

 大事なのは魔法効果。完成した作品を持って、急いで工房から出たのであった。


次回更新は7月7日17時予定です。

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