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疑念の払拭

 水晶を握って現れたのは、履歴なし、という言葉だった。もしかすると、この水晶は使ったことのある魔法を表示させる物なのだろうか。それならば、魔法を一度も使ったことのない私が握って、履歴なしと表示されるのは当然だ。

「……これは、握った者が使ったことのある魔法が分かる水晶です」

「はい」

「つまり、貴方が魔法を使ったことが無い、ということは証明されました」

「はい」

 騎士は小さな声で、しかし、はっきりと言った。疑いが晴れたようで何よりである。トッド君とターシャちゃんの方が誇らしげな顔をしている。二人のお陰なので、後で何かお礼をしなければならない。

「此方の勘違いで疑いをかけてしまい、大変申し訳ない」

「いえ、理解して頂けたのなら大丈夫です」

 平民相手に謝罪するとは、随分と真面目な人のようだ。これで一件落着したので、騎士には帰って貰おうと思ったその時である。

「……今迄時間を取った上にお願いするのは心苦しいのですが、一つ、提案があります」

 騎士から提案があるようだ。まさか、王宮から脱走したのがバレたのか、と身構えると、私と騎士の間に二人が両手を広げて割り込んだ。

「だめ」

「アユム、おみせやってるもん」

「今すぐ何かするわけではありません。それに、これは貴方の為にもなることです」

 が、しかし、騎士も引く気はなさそうだ。仕方がないので話を聞く体勢になると、短く咳払いをして説明を始めた。

「魔法付与に関してですが、現時点では魔法の効果も薄く、人体に好影響を与えるものしかないので、問題にはならないと思います」

「はい」

 人体に悪影響を及ぼすような物を作っていたらショックだったので、安全性が保障されたのは嬉しい。効果自体もちょっと前向きになれる、と言った気持ち程度のものらしい。

「魔法が使えるようになった原因については……、恐らく、王都に来たことが原因でしょう」

「と、いうと?」

「王都は魔力が豊富なので、素質あるものが来ると魔法の才能が発現することがあります。貴方の場合は周囲の魔力を利用して魔法付与を行っている可能性が高いかと」

 つまり、自力で魔法が使えるほど魔力が無かったので自覚が無かったが、周囲に利用できる魔力があるとできる、らしい。正直、工房スキルが原因のような気がするが、余計なことは言わない方が良いだろう。

「結論を言いますと、現時点で貴方の行為は、事情さえ説明すれば問題にはなりません」

「はい」

「で、今回ご迷惑をお掛けした償いとして、私が事情説明役をさせて頂こうというのが、提案になります」

 ある程度の魔力を持っている者には、魔法付与されていることが分かる。そして、魔力を持っている者は貴族が多い。そう言った人たちへの口利きをしてくれるという事だ。私に損はないし、事前に問題を回避できるので断る理由はないだろう。

「……よろしくお願いします」

「はい。魔法付与の効果が強くなると状況も変わるでしょうが、その時はまた考えましょう。定期的に此処に通うことにするので、何かあればすぐに知らせてください」

 カフェには数日おきに来ていると言っていたので、そのついでで此方にも来てくれるのだろう。暫く通って貰って、効果が強くなることが無いとわかればやめて貰えばいい。取り敢えず、次の予定を聞いておこう。

「わかりました。騎士様、次はいつ来るご予定で?」

 尋ねると、騎士は何故か微妙な表情をした。今の発言のどこに微妙な要素があったのだろうか。首を傾げると、騎士は言い難そうに何度か唸ってから、顔を上げた。

「あの、騎士様、はやめてください。今回のような事を起こさぬよう、自戒の意味も込めて、私のことは名前で呼んでください」

「……わかりました。改めまして、アユム・ルイイエと申します」

 とはいえ、騎士の名前を知らないので、先に此方から名乗って相手に気付いてもらうことにしよう。できる限り丁寧なお辞儀をして名乗ると、相手はそう言えば名乗っていませんでしたね、と笑った。

「リシャール・ランバートと申します。よろしくお願いします、ルイーエ嬢」

「「あ!!」」

 騎士が私の名前を類家、と発音できずにルイーエ、と呼んだ瞬間、先程まで黙っていた二人が大きな声を上げる。慌てて二人の口を塞いで、頭を下げる。

「……よろしくお願いします、ランバート様」

「では、今日はこれで失礼します」

「ありがとうございました」

 そのまま騎士改めランバート様は帰って行った。二人は少しだけ不満そうな表情だが、ごめんね、と謝るとすぐに許してくれた。人の名前を間違えてはいけない、と教わっているので気になっただけらしい。

「きしさま、きょうはもうこない?」

「来ないよ」

「じゃあ、せんでんしてくる!!」

 宣伝中に声を掛けられたのが怖かったのだろう。ランバート様が来ないことを確認すると、走って下の階に帰って行った。すると、宣伝効果は抜群のようで、直ぐに階段を上る足音が聞こえ始める。

「いらっしゃいませ」

 店に入ると同時に、アクセサリーの方を向き、目を輝かせるお客さんをみる。すると、先程までの疲れが嘘のように、自然に笑顔が零れてくるのだった。


次回更新は2月22日17時予定です。

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