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犯人の行方

 何も入っていない引き出しを見て、盗まれたかもしれない、と思った瞬間、全身の血の気がざあっと引いていくのを感じた。あれは、使い方を間違えれば本当に危険なものだ。何とかしないといけない、そう思うもののあまりの衝撃の所為か、上手く頭が回らず、ふらつきながら工房から出る。

「ルイーエ嬢!?」

 半ば倒れこむように外に出たからか、待っていてくれたベルンハルト様が驚いた様子で私を支えた。その支えに凭れ掛かりながら、私はどうにか声を絞り出し、ベルンハルト様に事実を伝える。

「工房に置いていたものが、ありません。確かに、鍵付きの引き出しに入れたのに……」

「工房に入られたことで魔力を消耗したのか?それとも、工房に何か罠でも仕掛けて?」

「いいえ。何も、ありません。少し、最悪の事態を想像して、気分が悪くなっただけで……」

「最悪の事態、とは?」

 ベルンハルト様に余計な情報を伝えて、犯人確保の妨げになってはいけない。気力を振り絞り、罠などの心配はない事を伝える。すると、ベルンハルト様は少し安心したようで、無くなった物について聞いてきた。

「無くなったものは、ベルンハルト様に協力依頼をされて作っていた、空間交換コースターと言うものです。見た目は普通のコースターと同じで、付与の効果は、魔力を流されたら互いの範囲内の空間を交換する、と言うものです」

「物体を転送するのではなく、空間そのものを交換する、ということか?」

「はい。魔力を流す為に触れていた手などは対象の空間から除外されるようなのですが、試しにワイヤーをはみ出すように置いた場合は、発動と同時に切断されました」

「…………恐ろしい効果だな」

 流石はベルンハルト様、簡単な説明で、どのような効果なのかを正確に把握したようだ。そして、悪用された場合の危険性も。交換された直後から空間の時間は正常に流れることを伝えると、ベルンハルト様は更に顔を顰めた。

「問題は、ルイーエ嬢の工房からどうやって移動させたのか、と効果を知った上で入手しようとしていたのか、だな」

「そうですね。工房は、私以外には出入りできない筈なのに」

 それに、工房に置いてある他の物は移動した形跡がなかった。コースターだけが忽然と姿を消してしまったような、そんな印象を受けたので、犯人が工房の中に入ってコースターを探し当てたという事は考えにくい。

「……付近にある魔法付与されたものだけを手元に移動させるような手段がある、というのが一番納得いくのですが」

「複数の魔法を組み合わせれば不可能ではないだろうな。だが、その場合、幾ら警備を厳重にしても魔法自体を弾く仕組みが無ければ簡単に盗まれるだろう。早急に対処が必要だな」

「早急に、といっても、何か手掛かりはあるのですか?」

 ベルンハルト様は私に手を差し出し、移動を始めようとする。物が散乱している研究所内や魔法を使っての移動、貴族の屋敷でのエスコートなら兎も角、街で男女が手を繋いで歩いていると目立って仕方がないのでそれは断りつつ、前を歩いていくベルンハルト様に問いかける。

「大規模な魔法を一人で複数使う事は難しい。そういう場合、複数の別の行動に制限が掛かる代わりに魔法が使用できる道具を使うことが多い」

「……つまり、被害があった現場に犯人が居なくても、そういった行動制限から居場所を絞れば見つけられる可能性があるという事ですか?」

「そういうことだ。そして、行動制限系で多いのは、発動中の移動の禁止だ」

 言いながら、ベルンハルト様は地図を取り出した。その地図には幾つかの色を使って印がつけられている。何の地図だろう、と覗き込もうとすると、ベルンハルト様が懐からもう一枚地図を取り出し、私にくれた。

「これは王都で起こった盗難事件と、その日付ごとに印をつけたものだ。他の所で調査をしている研究員が描き込んだものは即座に反映される仕掛けになっている。まずは街の住人に聞き込みを行い、被害があった場所と時間帯を整理していく」

「そこから、相手が窃盗を行った方法を洗い出していく、ということですね」

「ああ。次に犯行が行われる場所、時間帯。そして潜伏しそうな場所を洗い出し、今日中に捕らえる」

 ベルンハルト様がそういう間にも、着々と地図に印が増えていく。私たちも負けていられない、と意気込んで、街へと飛び出した。


 街に繰り出して数時間。私とベルンハルト様は、路地裏でかなり埋まった地図を見つめていた。教会にいた人を優先に話を聞いていった結果、驚くほど効率的に情報が集まったのだ。

「……ベルンハルト様、これは」

「ああ。一か所だけ、まだ被害に遭っていない地区がある」

「しかも、日に日に近付いていますね……」

 他の研究員たちもその事に気が付いたのだろう。先程からベルンハルト様のコートの内側から色とりどりの光がちらついている。連絡用の魔法道具だろう。

「……行くか」

「はい」

 研究員たちとも現地で集合するのだろう。私たちは、唯一被害に遭っていない、王宮周辺地区へと向かったのだった。


次回更新は7月5日17時予定です。

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