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近付く影

 気の所為であったらいい。気の所為であってほしい、そう思いながら、私は手紙を書いていく。聖女一行の帰還に合わせて、装飾品の需要が挙がることを見越した盗難事件、というような悪質かもしれないが盗難品さえ取り返せば解決できることであればいい。

「ベルンハルト様……」

 ランバート様は、騎士団長様と一緒に聖女一行の援護に向かい、共に帰還してくるとのことだった。なので、現在私がこういった事態で頼れるのはベルンハルト様だけだ。前回の返事も来ていないのに次を送ることを謝罪しつつ、嫌な予感の内容を書き連ねていく。

「貴金属の連続窃盗事件、最初の犯行は瘴気が収まった時には行われていた……」

 つまり、相手は瘴気の中でも動くことができた人物。そして、市場で働いている女性も被害に遭ったという事実。単純に貴金属を集めたいだけなら、豪商の家だけを狙った方が効率的だ。だというのに、その女性が狙われた理由。

「……教会に、避難してきた人物を、把握している可能性」

 あの時、教会に避難していたのは、短時間でも瘴気から身を護ることができていた人たちだ。つまり、魔法道具を持っていた。それは、代々家に伝わるものが偶然そうだったのかもしれないし、聖女が現れた時点でお守りとして買っていたのかもしれない。

「あの時は、街に住んでいる人間であることが確認できたら、誰でも教会に入れた」

普段は教会に訪れない人も、本来なら地区が違う人も、緊急事態だから全員入れて貰えたのだ。もし、あの時、犯人も紛れていたら。教会にいる間に、魔法道具を持っている人と、身に着けているもののうち何が魔法道具なのかを把握していたのなら。

「理由は分からないけれど、魔法道具を集めている可能性が高い……」

 問題は、魔法道具を高値で売りさばこうとしているのか、それとも、魔法道具を使って何かをしようとしているのか。後者であるなら危険性が高いし、目当ての魔法道具が見つかった時点で犯行がストップし、捜索が難航するかもしれない。

「私にできることと言えば、教会にいた人に声を掛けるくらいかな……」

 今日は、トッド君とターシャちゃんはソニアちゃんと一緒に教会に出かけている日だったか。帰ってきたら、二人と、ソニアちゃんにも虹色の指輪を無くさないように伝えておこう。何かあったら、指輪を囮にしてでも安全を優先するようにとも伝えないと。

「…………嫌な予感がする」

 前の手紙の返事がまだ無いということも、ランバート様が王都にいないことも、聖女たちが中々王都に戻ってこないことも。全く以て根拠があるわけではないが、何か引っかかる。もしかしたら、全部繋がっているのではないか、と、そんなことを考えたが、頭を横に振って不安を打ち消す。

「午後からも仕事、頑張ろう」

 騎士団だって見回りをしているし、それぞれの店も対策をしているのだから、きっとすぐに見つかるだろう。一旦、そう考えることにして、私は仕事に戻ったのだった。


 その日の夕方、トッド君とターシャちゃんは、ソニアちゃんに連れられて、泣きながら帰ってきた。何時ものような、怪我をして泣いた、とか、喧嘩をして泣いた、と言った風ではなく、静かに涙を流している姿に、偶々いた常連さんも、ジュディさんもカルロさんも大慌てで三人に駆け寄った。少し早く店を閉めていた私も、階段からその様子を見守っていた。

「どうしたんだい?」

「「「…………」」」

 二人の手を引いて帰ってきたソニアちゃんも、口を真一文字に結んだまま何も話そうとしない。本当に、何があったのだろうか。階段を降り、ジュディさんとカルロさんの横まで移動すると、三人が一斉に私の顔を見た。

「え、何?どうしたの?私、何かした?」

「アユム~!!」

「ごめんね~!!」

 トッド君とターシャちゃんが、そう言うなり盛大に泣き始めた。私が何かしたというよりは、私に対して何かをしてしまったのだろうか。怒らないから何があったのか教えて欲しい、と言うと、二人はしゃくりあげながら説明を始めた。

「……おねえちゃんと、かえってたの」

「そしたら、うしろから、くろいのがおいかけてきて」

「はしったけど、おいつかれそうになって」

「おねえちゃんが、まもってくれたんだけど」

「「ゆびわ、なくしちゃった……」」

 つまり、三人で帰宅中、後ろから黒い何かに追いかけられた。逃げようとしたが相手の方が早く、もう無理だと思った時に、ソニアちゃんは二人を抱きしめて守ろうとしたらしい。怖くて目を瞑っていたら、いつの間にか黒い何かはいなくなっていたが、代わりに、3人とも指に付けていた虹色の指輪が無くなっていた、という事らしい。

「……指輪のことは、気にしなくていいよ」

 私がそう言うと同時に、二人は更に泣き出した。ジュディさんとカルロさんは、泣いている二人と、ぎゅっと手を繋いだまま立っていたソニアちゃんを纏めて抱きしめ、言った。

「「……無事でよかった」」

 次の瞬間、ソニアちゃんの目から大粒の涙が溢れ出した。私は、三人の無事を喜びつつも、膨らんでいく不穏な空気のせいで、安心することはできないのだった。


次回更新は7月3日17時予定です。

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