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騎士の約束

 真剣な表情をした騎士団長様は、まっすぐにベルンハルト様を見据えた。完成していない、なんて言わせない圧が此方にも伝わってくる。が、ベルンハルト様は全く気にした様子はなく、椅子を指し示した。

「まずは座れ。お前が座らないと他の誰も座れないだろう」

「……そうだな」

 私とランバート様はそれぞれ、ベルンハルト様と騎士団長様の後ろに立つ。騎士団長様は一瞬だけ私の方を鋭い目つきで見てきたが、何か問いかけられることはなく、本題に戻った。

「最低限、注文分を受け取るまでは帰らない」

「注文分どころか、お前の部下全員分完成している。完成させるだけでも面倒な注文だったというのに、数も揃えたことに感謝してほしいものだな」

 はっきりと言った騎士団長様に対して、ベルンハルト様は挑発的とも取れる笑みを浮かべて答えた。その言葉が予想外だったのか、騎士団長様は目を丸くした。正しく言えばこの会議が終わるまでに完成するのであって、現在完成している訳ではないがそれは余計なことだ。

「全員分?本当か?予定していた、先遣隊の分だけではなく?」

「くどい。そう言っているだろう」

「だが、話をしたときは本当に難しいと答えていただろう。研究所総出で取り組んでも、一つ二つできれば上々だろう、と」

「それでもと無理を通してきたのはお前だろう。作り方さえ確立してしまえば後は量産するだけだ」

 量産するだけ、とはいうものの、誰でもできる作業という訳ではない。繊細な作業を行える器用さも必要だし、膨大な魔力と、知識も必要だ。準備時間殆どなしで作業が行えたのは、研究員の質が高いからに他ならない。

「ベルンハルトが全部作ったのか?」

「そんなわけないだろう。体が幾つあっても足りん」

 呆れたように言うベルンハルト様に、それもそうだな、と騎士団長様は笑った。そして、騎士団長様は部屋の中を見渡し、目当てのものを見つけるとそれを指さし、尋ねた。

「試してみても良いか?」

 指し示された先には、机の上に飾りのように置いてある鬼灯のランタンがある。部屋に入った時には何もなかったような気がするのだが、いつの間に置かれていたのだろうか。

「お前、私物には頓着しないのにこういう時は細かいな」

「自分だけならいいが、部下の命も懸かるものだ。慎重になるのは当然だろう」

 部下の安全を何よりも優先する、いい上司である。ランバート様が少し誇らしげな顔をしている。

「わかっている。好きにしろ」

 騎士団長様はランタンの持ち手部分を手に取り、少しずつ魔力を込め始めた。暖かなオレンジかかった光が部屋の中に広がっていくと、壁面にうっすらと護身用の魔法陣が映る。敢えて魔法陣に当たった部分の光が弱まるようにしたことで、ランタン本体付近は勿論、光の届く範囲内も多少瘴気を防ぐことができるようになっているのだ。

「…………これは」

「要求通り、『暗い瘴気の中でも周囲が見えるように照らす機能』と『瘴気から身を護る機能』のどちらも満たしているだろう?」

「ああ。だが、まさか、一つに纏めるとは……」

「纏めることによって更に効果的に瘴気から身を護れるようになっている。これなら、魔力量が少ない騎士でも他の騎士と固まって行動すれば、瘴気の心配が無いという事だ」

 ランタンの光が重なれば重なるほど、瘴気から身を護る力は強くなる。自分のランタンを無くしてしまったとしても、団体行動を取っていればある程度の安全が確保できるのだ。

「素晴らしいな。作りも頑丈だし、なにより、使いやすい形だ。今迄、研究所に頼んだものは機能が良くても形が変なものが多かったりしたというのに、一体何があった?」

「単純に、そういったことに気が付く研究員が増えたというだけだ」

「ああ、お前の後ろに立っている奴か。見ない顔だと思ったが、成程、お前の直属という事は余程優秀なのだろうな」

「王や宰相から何を言われようと手放す気が無い程度には、な」

 リボンだけでそこまでわかるなんて、というか、直属であることを示すリボンだなんて聞いていない、と思っていたら、更に驚く内容の発言をされた。騎士団に引き抜かれないように、と言ってくれているのかもしれないが、流石に言い過ぎである。私はただ、作り方を提供しただけだというのに。

「ははは、本気で放す気が無いようだな。ベルンハルト以外の選択肢はもう選べんが、代わりに必ず守って貰えるだろう。頑張れよ」

「あ、ありがとうございます。精進します」

 騎士団長様に肩を叩かれ、慌てて頭を下げる。おう、と笑って騎士団長様はランバート様の方を見た。ランバート様が素早い動作で騎士団長様の隣に移動する。

「帰るぞ」

「はい」

「話している間にランタンは入り口まで移動させた。後は騎士団で持って行け」

「感謝する。この礼は聖女一行が帰国された後、必ず」

「ああ」

 ランタンの製作と移動も間に合ったようだ。騎士団長様は最後にベルンハルト様と固く握手をし、帰って行ったのであった。

次回更新は6月28日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本格的に外堀埋めてきたみたいで嬉しい
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