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騎士の疑念

 トッド君とターシャちゃんに離れてもらい、目の前の騎士に椅子を勧める。逃げる意思はない、という表明でもある。騎士は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに意図が伝わったのか、無言で腰を下ろした。

「突然押しかけることになり、申し訳ありません。しかし、騎士として、貴方に聞かなくてはいけないことがありまして」

「はい。私がお答えできることなら」

 話が始まるより前にトッド君とターシャちゃんを下の階に帰そうと思ったのだが、何故か二人とも頑なに動こうとしないので諦めて二人の椅子も出す。騎士が微妙な顔をしたが、口に出す様子はない。

「……この子供たちが、魔法付与されているアクセサリーを身につけていることに関してなのですが」

「はい?」

 予想外の言葉が飛び出し、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。魔法。確かに街には魔法を使える人はいるけれど、私は魔法が使えない筈だ。

「……二人が身につけている指輪は貴方が作ったもので間違いありませんか?」

「はい。私が作ったもので間違いありません」

 なぜそう思ったのか聞きたかったが、次の質問をされたので簡潔に答える。こういう時は、下手に相手を刺激しないことが一番だ。

「見たところ、他の商品にも魔法付与してあるようですが、意図的なものですか?」

「いえ、魔法付与されていること自体、今知りました」

 騎士曰く、最初の方に作ったビーズリングにも魔法付与されているらしい。が、そんなことを言われても本当に何もわからないので困る。

「しかも、こんな価格で販売しているとは。相場は理解していますか?」

「此方の商品には宝石を使用しておりませんので……」

「そういうことではなく」

 つまり、魔法付与された物の相場について聞いているのだろうか。此処に来て数日、魔法付与された物なんて一度もお目にかかったことがないのだ。相場なんて知るはずもない。

「申し訳ございません、魔法が物体に付与できることも初めて知ったもので……」

「知らずに作っていた、ということですか?」

 物凄く疑われていることは、傍目から見ても明らかだろう。知らないものは知らない。が、否定しても疑いを深めるばかりだ。どうしたものかと困惑していると、がたり、と椅子から立ち上がる音がした。

「かえれ!!」

「アユム、わるくないもん!!」

 立ち上がったのは、トッド君とターシャちゃんだった。二人は騎士の椅子まで移動して、追い出そうと一生懸命押している。が、鍛えているであろう騎士はびくともしない。

「ふ、二人とも、落ち着いて」

 この前ジュディさんの対応を見た限り、平民が騎士を怒らせるのは大変まずい事態になるはずだ。幾ら二人が子供とはいえ、許されるとは考えにくい。

「やだ!だって、アユムなにもしてない!!」

 二人に庇ってもらえるくらい仲良くなれたのは嬉しいが、状況が状況だ。

「……魔法付与についても知らない世間知らずだったと、貴方はそう主張するのですね?」

「そうだよ!アユム、なにもしらないよ!」

「アユム、ほんとにせけんしらずだもん!」

「え?」

 最終確認、という様子で騎士が質問してきた。のだが、私が答えるより前に二人が勢いよく返事をしてしまった。

「アユム、きょうかいにいったことない、っていってた!!」

「このへんでも、すぐまいごになる!!」

「待って待って、そこまで言わなくていいよ」

 弁護してくれているのはわかるが、相手に教える必要のない情報だ。というか、この店に来るまでに迷子になったところを助けてもらった相手なので、地理に詳しくないことは知っているだろう。

「アユム、いろいろつくれるよ。でもね」

「せーかつのーりょく?は、ひくいよ!!」

「「アユム、わるいことなんてできない!!」」

 一部は悪口のような気もする。が、二人は言うだけ言って満足したようだ。騎士は呆気に取られたのか、暫く口を開閉させた後、

「……本気で世間知らずなのか?」

 と、呟いた。上手く嘘をつけるとは思えない年頃の子供の必死な弁護が届いたらしい。今なら私の言葉を聞いてもらえそうである。

「世間知らずですみません。なにぶん、田舎から来たもので……」

「そ、そうでしたね」

「私、魔法が使えないので知識が全くないのですが、魔法付与、というのは、どのように問題があるのですか?」

「正しくは、魔法付与ではなく付与されたものが流通することが……」

 質問に答えが返ってきた。と思ったら、すぐに言葉が途切れた。どうしたのだろう、と首を傾げると、信じられないものを見る目で私を見ていた。

「……魔法が使えない?」

「?はい。使えません」

 騎士は慌てた様子で小さな水晶の欠片のようなものを取り出した。スキル鑑定の時にも水晶を使っていたし、この欠片で使える魔法がわかるのだろうか。

「これを握ってください」

「わかりました」

 言われた通りに握り込むと、水晶の欠片が輝きを放ち始めた。そして、私たちの目の前に文字が浮かび上がった。

『履歴 なし』

次回更新は2月21日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 知らんで済むなんて世界は、どこにもないよ。
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