表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/218

引き渡し

 作業が始まると、各所から次々と助けを求める声が上がったが、同じ質問をする人はおらず、開始から30分もすればスムーズに作業ができるようになった。

「そろそろ、私も本格的に作業始めても大丈夫かな?」

「そうですね、みんな慣れてきましたし。僕もある程度は対応できますから」

「ならお願いします」

 質問がないのなら、作り手が多い方がいいだろう。クルト君に監督役を頼み、私は積まれている素材の山から必要な材料を取り出し、作り始める。

「人数がいるならコンベア方式の方が楽だけど、魔力を消耗する工程があるから難しいかな……」

 多少の消耗なら時間経過で回復するが、樹液を硬め続ける担当になったら大変だろう。一人一つ完成させていくしかない。

「何か、もっと良い方法……」

 考えながら手を動かし続ける。黙々と作業を続け、素材がなくなれば次のものを取りに行く。一つ、二つとランタンは完成していくが、効率的な作り方は思い浮かばない。

「どうしよう……」

「何がだ?」

 間に合うのかな、と不安になりながらも、せめて一つでも多く作ろうと次の素材に手を伸ばした時だった。私が伸ばした手は、光源となる材料ではなく誰かの手を握った。

「え?あ、ベルンハルト様。どうかされましたか?」

「此方が質問したのだが。何か不安なことでも?」

 ぱっと顔を上げると、ベルンハルト様が後ろに立っていた。用件を聞きながらテーブルの上にあったはずの素材を手探りで探す。ない。おかしいな、使い切ったのだろうか。

「騎士団に渡す数が揃うか不安になりまして」

「…………十分すぎる量だと思うが」

「そうですか?」

 かなりスムーズに作れるようになってきたとはいえ、騎士団でランタンを必要としている全員に配るには到底足りないだろう。完成したものはこのくらいしか、と完成品置き場に目を向けたその時だった。

「…………あれ、素材、いつ使い切りました?」

「さっきルイーエ嬢が作った分で最後ですよ?」

 思ったより完成品が並んでおり、逆に、まだ積まれていたはずの素材が無くなっていた。いつの間に使い切ったのだろう。

「気付いていなかったのかもしれないが、ルイーエ嬢が作業に参加してから、一気に製作が進んでいる」

「職人!!て感じで次々完成させるので、途中から見てるだけのやついましたね」

「……何も考えていませんでした」

 どちらにせよ、完成したのならいいだろう。ランタンだけ先に完成してしまったので、魔法陣の描き込みが間に合っていないようだが。

「まあ、描くのに時間がかかるだけで、ランタン作るよりは慣れてますからね。任せておいて大丈夫でしょう」

「予定より多めに完成したからな。これで騎士団に恩が売れるだろう」

 正式に依頼された物だったと思うのだが、恩が売れるのだろうか。大急ぎで作ったことと、無理難題を解決した、という点を考えれば貸しを作った、と言えるのかもしれない。

「恩を売った方がいいのですか?」

「研究というのは何かと必要なものがあるからな。恩を売っておくに越したことはない」

 研究資金などには余り困ってなさそうな印象を受けたのだが、人脈や好きな研究をするためには恩を売っていた方がいいらしい。貴族社会とは大変である。

「ボス、騎士団との話し合いはいつですか?」

「……そうだな、夕方まで待てとは言ってあるが、此方を急かすためにもそろそろ来るかもしれんな」

 ベルンハルト様がそう言った瞬間、実験室の入り口に置いてあったカラスの置物が口を開いた。え、と思わず凝視していると、突然、けたたましく叫び始めた。

「ガアァァアッ!!」

「な、何ですか?」

 驚いて椅子から落ちそうになった。ベルンハルト様が支えてくれたから大丈夫だったけれど。

「来たようだな。全く、無許可で研究所には入れないと何度も言っているのに。懲りないな」

「ルイーエ嬢、大丈夫ですよ。これ、侵入者対策の警報なので」

 警報にしては不気味すぎる気がするが。それにしても、侵入とは、一体誰が侵入してきたのだろうか。

「並大抵の騎士なら防衛機能に捕まるだろう」

「そんなに過激な防衛機能なんですか?」

 訓練を受けているはずの騎士が捕まる防衛機能とは、どのような物なのだろうか。というか、警報が鳴っているのに皆平然としすぎである。

「……っくそ、相変わらず馬鹿みたいな過剰防衛ですね!!ベルンハルト、いますか?」

 お茶でも飲んで待っておこう、と淹れられた紅茶を飲んでいると、バタバタと足音がしたかと思えば実験室の扉が開き、ランバート様が飛び込んできた。

「此処まで最短で来たか。実験室付近は特に防衛機能が多いというのに、よく無事だったな。教会はどうした?」

「そう思うなら改善してください。教会は人員交代で見ています。さて、騎士団長がお呼びです。来ていただけますか?」

 真剣な表情で言うランバート様に、ベルンハルト様は頷いた。

「丁度完成したところだ。向かおう」

 そして、ベルンハルト様は私に手を差し伸べてきたのだった。

次回更新は6月26日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ