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研究と実用

 一斉に話始めたというのに、それぞれ誰が何を話しているかはわかるようで、自分の意見を述べながらも相手の意見を聞き、即座に反論又は意見を述べるという事をしているようだった。とはいえ、私は正確に聞き分けられた訳ではなく、単純に横に座っていたクルト君が書記をしながら要点だけ教えてくれたからだ。

「どうして話しながら人の話を聞けるの?しかも複数人が同時に話しているのに」

「研究所に配属されたばっかりの頃は皆ルイーエ嬢と同じような反応しますよ。ただ、研究を効率的に進めようと思ったら、削れる時間は削らないといけないんで。結果、相手の情報を受け取ることと自分が情報を発信することは別として、同時に話し始めるようになるんです」

「クルトは配属から三ヵ月で全員が同時に話しても聞き取り、情報を簡潔に整理できるようになったから書記をさせている」

「そ、そうですか……」

 私の呟きに答えながらも、クルト君の手は動き続けているし、一瞬だけ会話に参加したベルンハルト様も直後に別のことを話している。信じられないくらい情報処理能力が高い。好きだから、で実現できるレベルではない。やはり国立研究所と言うこともあり全員能力が高いのだろう。

「ハーレー、お前の班で今挙げられた光源素材の中からどれが一番優秀か比較して来い。魔法陣に関しては、クルトが昨日書き上げた論文の……」

「13番と、17番、18番です!!」

「だそうだ。次、瘴気の分析と対策はどうなった?」

 指示された人たちが実験室から出ていったかと思うと、即座に次の話題に入った。正直、私が居ても会話に入るどころか聞き取ることすら難しいので作業をしていた方が良いと思うのだが、どうして此処に座っているのだろう。

「ルイーエ嬢、この構造はどうやって作っているのですか?」

 ベルンハルト様にお願いして作業に戻らせてもらおうかな、と思った時だった。ピタリ、と会話が止まったかと思うと、先程まで発言していた人たちが全員、私の方を見ていた。その手にあるのは鬼灯である。多分、作り方について解説をしろ、という事なのだろう。

「まず、枠の部分を作ってから中に球体を固定して、そこから枠に膜を張り、樹脂で強化して作っています」

 机の上に置いてあった針金を使って簡単に説明すると、次々と手が挙げられた。質問があるらしい。同時に話されても聞き取れないので配慮してくれたのだろう。私は右側にいた人から順番に指名して質問を聞いていく。

「この枠と枠の間は均一の間隔でないといけないのですか?」

「いえ、均一でなくても膜が張れるなら問題ないです。間隔が広すぎたりすると難しいかもしれませんが、ある程度の自由はあります」

「枠の素材に制限はありますか?」

「それも、膜さえ張れれば大丈夫です」

「強度はどうやって確保しているのですか?」

「特殊な条件で硬化する樹脂を膜の上に塗ることで強化しています」

 そこまで答えると、全員が一度手を下げ、再び一斉に話し始めた。白熱し始めたのか、途中で何かの素材を取り出して振り回したり、相手に論文を投げつけたりしている。一応配慮してくれているのか、ベルンハルト様が隣にいるからか、此方に物が飛んでくることはない。

「物騒ですね」

「今日はまだ大人しい方ですよ。ルイーエ嬢がいるからですかね」

 テーブルの上に魔法陣が輝いている様に見えるのだが、これでも大人しい方らしい。少しでも話題が逸れたり、本格的に被害が及ぶ行動に出たらベルンハルト様が即座に止めるので大丈夫だ、とクルト君が笑う。

「光源は決まったぞ。瘴気の話は纏まったか?」

 暫く様子を見守っていると、実験に向かったはずのハーレーさんが戻って来た。残してきたメンバーで細かい実験をあと幾つか行うが、凡その方針は決まったので報告に来たそうだ。

「分析結果は共有して魔法陣決定と最終的な製作方法の議論中です。案としては、枠で魔法陣を描くか、それとも透明な部分に直接彫るか、を議論中みたいです」

「誰が作るか決めておらんと、技術の限界があるだろうに」

「器の部分は私が作るのではないですか?」

 ベルンハルト様の説明では、そういう話になっていたと思う。魔法の部分は役に立てないが、単純な手仕事の部分を担当してほしい、と。

「流石にルイーエ嬢一人だと騎士団全員の分は無理ですよ。ルイーエ嬢の仕事は、試作品と言うか、最初の一つを作ることです。僕達も魔法道具は作りますけど、耐久性とか考えてないので、その辺りをルイーエ嬢の知識に頼る感じです。ね、ボス?」

「ああ。普段は理論研究が主で加工に慣れない者も多い。その補助も頼みたい」

「それは大丈夫ですけど……」

 つまり、取り入れたい形などは提示してくれるので、どうやったらその形が作れるのかを教えていく、という事だろうか。と、なると、魔法陣が複雑すぎるとワイヤー加工が難しいのでは。

「大丈夫かな……」

 私がポツリと漏らした直後、ベルンハルト様の前に、大量に書き込みがされた五枚の紙が置かれたのだった。


次回更新は6月23日17時予定です。

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