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研究者たち

 ベルンハルト様は、作った鬼灯を持って一度工房から出ようと提案してきた。十分に作業ができることが確認でき、魔法を込める器の案も出たのなら、全体で話し合った方が良いとのことだ。

「出るときはどうすればいい?」

「普通に、扉から外に出れば入ってきた時と同じ場所に出るようになっています」

 不安なら、出るときも手を繋いでいた方が良いだろうか。そう思って作品を持っていない方の手を差し出したが、ベルンハルト様は暫く私の手を見つめ、そして背を向けて扉の方に向かって行ってしまった。失敗したかな、と思っているとベルンハルト様が小さく咳払いをした。

「気遣いは有難いが、ルイーエ嬢が外に出ることで空間が完全に閉ざされる危険性がある。安全面を考慮して、先に出た方が良いだろうと判断しただけだ」

「そうですか。確かに、私が出た後の空間がどうなっているか分かりませんね」

 道具や作品は置いたままになっているが、この工房がある空間と入ってきた場所の繋がりがどうなっているのか。私が外に出た時点で繋がりが切れてしまった場合、ベルンハルト様が空間内に閉じ込められる、と言った事態になりかねない。

「……順番も重要ですが、やはり手は触れていた方が良いのではないでしょうか」

 が、よく考えると、私が最後に出ればいいのだから、やっぱり手は繋いでおいた方がいい気がする。何かあったら怖い。どうでしょうか、とベルンハルト様をじっと見つめると、緑の瞳が僅かに揺れた気がした。

「…………ルイーエ嬢より先に出ることで、この扉がどのように空間同士を接続させているかが分かる。接触状態で同時に移動することが可能だと判明したのだから、次は非接触状態でも可能かどうか試すべきだ」

「今は空間スキルの研究よりも、瘴気を何とかする方が大切ではないでしょうか。ベルンハルト様の代わりはいないのですから、ここは安全策を……」

「か、解決の為には空間スキルの解明も重要になる。それと、安全に関しては問題ない。ある程度の事態が起こっても支障はないよう対策してある」

 すらすらと理由を並べて言われ、私としては黙るしかない。一瞬、目を見つめた時、動揺しているように思えたのだが、気の所為だったのだろうか。安全対策はしてある、と言われて断る理由もないので、私は渋々頷いた。

「では、ルイーエ嬢は少し間を置いてから出てきてくれ」

「わかりました」

 ベルンハルト様がドアノブにそっと手を掛ける。ゆっくりと外側に向かって開かれた扉の隙間から見える光景は、入ってきた時と同じもの。大丈夫そうだな、と思っていると、パタン、と静かに扉が閉じられた。

「……十秒くらいで良いかな」

 頭の中でカウントダウンをし、いつもよりゆっくりと扉を開く。すると、隙間から伸びてきた手に扉と、私の手が掴まれた。驚いて反射的に手を引こうとしたが、エスコートするように手を引かれ、身体が完全に工房から出る。

「……扉が出現している状態ならば、空間外部から触れることも可能か。となると、工房に入る際もルイーエ嬢の意識次第で条件を変更できる可能性があるな。クルト、見えていたか?」

 そのまま引き寄せられ、背中が何かにぶつかったかと思うと、頭の上の方から低い声が降ってくる。後ろを確認するのが怖いので取り敢えず正面を見れば、クルト君を始めとした研究所の皆さんが此方を見ていた。待ってほしい、今、どういう状況なのだろうか。

「僕も他の人も見えてましたけど……、ボス、先にルイーエ嬢を放してあげましょうよ。完全に固まってますよ?」

「そうだな。突然済まなかった、ルイーエ嬢」

「実験の機会を逃したくないからって、無許可で女性に触れるのはアウトです。ルイーエ嬢も、嫌なら全力で主張しないと、所長は魔法以外興味ないので伝わりませんよ」

「あ、えっと……」

 手を放されたので数歩前に出て距離を取り、深呼吸しながら状況を整理する。つまり、私の手を掴んでいたのはベルンハルト様で、扉に触れるかが確認したくてやった、という事だろう。

「……確かに驚きましたが、空間スキルの解明が必要なら、仕方がないですね」

 驚きすぎて未だに心臓がバクバク言っているが、わざわざいう程の事でもないだろう。私がそう言うと、周囲から盛大な溜息が漏れた。クルト君は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

「……所長、これは」

「中々ですね」

「この話は終わりだ。ルイーエ嬢が作った器の試作品を持ってきた。どうやって魔法を込めるか、どの素材を使うか、検討を始める。各自席に着け」

 空間魔法を見たからか、話が盛り上がっていた研究所員達だったが、ベルンハルト様が一声かけると即座に口を閉じ、素早く席に付いて行った。一応、定位置と言うものがあるらしい。私はベルンハルト様とクルト君の間に用意された椅子に腰かけた。

「試作品はこれだ。内部に光源を入れることができ、工夫次第でより効率的に光らせることができるだろう。まずは、光源について意見は」

 意見、と言われた瞬間、研究者たちは、一斉に口を開いたのだった。


次回更新は6月22日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] お互い無自覚…… おい。 私の心臓を一体どうしたいんだ壊す気か 口角も恐っろしく上がりっぱなしでどうすりゃいいのさ
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