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私の仕事

「……リシャール、住民の避難状況確認は順調か?」

 ベルンハルト様は大きな溜息を吐いてから尋ねた。すると、ランバート様は手元の書類の束と礼拝堂の前にできている列を見比べ、答えた。

「精神的に疲弊している方が目立ちますが、大きな問題はありません。ベルンハルトは……、ルイーエ嬢の様子を見に行っていたのですね」

「手紙が届いたからな。研究所から直行した」

「その二人は眠っているだけですか?」

「ああ。他に避難者がいるなら、此処で預かってもらおうと思うが……」

 礼拝堂の中を見る限り、とてもじゃないが他人の面倒を見る余裕がある人はいそうにない。外に並んでいる人たちは、戸惑いつつもしっかり自分の足で立っていたが、中にいる人たちは精神的に参っており、ぐったりとしている人ばかりだ。

「……傷病者を優先していたので」

「その判断は正しい。体調が悪い者は瘴気にあてられたのだろう。安静にさせておけば悪化はしないだろうが、この瘴気の多さでは回復は見込めないな」

「魔法道具を持っていても、少なからず影響は出ますからね」

 トッド君とターシャちゃんが待っていられる環境ではないだろう。そう思った時だった。後ろから私の服の裾が、弱々しい力で引かれた。誰だろう、と思って後ろを振り向くが誰もいない。

「せんせー」

 首を傾げていると、下の方から小さな声が聞こえた。視線を落とすと、見覚えのある女の子がそこに立っていた。その手には、手作りのミサンガが付けられている。この子が作ったものではなく、別の男の子が作っていたものだったか。

「どうしたの?」

「トッドとターシャ、ねてるの?」

 ミサンガはお守りとして使われる。私が作ったものでなくとも、工房で交換した材料を使い、相手を想って作ったものなので瘴気から身を護れたのだろうか。と、考えていると、女の子は不安そうな表情で私が抱きかかえているターシャちゃんを見た。

「今は寝てるけど、さっきまでは起きて……」

 そう言いながら、少し屈んだ時だった。抱きかかえているターシャちゃんが、僅かに身動ぎをした。女の子がそっとターシャちゃんの顔を覗き込む。

「……ミア?」

「ターシャ!!」

 丁度目を覚ましたらしい。ターシャちゃんは私から降りると、ミアちゃんと抱き合った。その声で目覚めたらしいトッド君も全力でベルンハルト様から逃れ、二人と手を繋いでくるくると回っている。

「ミリーおねえちゃんもいっしょ?」

「うん」

 暫く再会を喜んでいる子供たちを見守っていると、子供たちは身を寄せ合ってひそひそと話をした後、私の目の前に並んで立った。代表してトッド君が私に屈むように手招きをし、言う。

「アユム、おしごと、いってきていいよ」

「え?」

「さっき、ほんとは、おきてた。おいていかれたくなくて、ねたふりしてたけど」

「でも、でもね。ミアもいるし、ミリーおねえちゃんもいるから、だいじょうぶ」

 友達と、そのお姉さんがいるから教会で待っていられる、と二人は一生懸命伝えてくれた。私には仕事があるのだろう、と。

「アユムのあくせさりー、げんきになるから」

「だから、いってらっしゃい」

 そう言って、二人は持っている虹色の指輪を誇らしげに見せてくれた。これがあれば大丈夫、と笑う二人の頭を撫でて、笑顔を返す。

「ありがとう。行ってきます」

「「うん!!」」

 振り返り、ベルンハルト様とランバート様を見る。事態が落ち着くまで教会に常駐するので安心してください、とランバート様が頷いてくれた。私はベルンハルト様の隣に移動して、手を差し出す。

「いつでも行けます」

「……感謝する。リシャール、此方は任せた」

「ベルンハルトこそ、早く解決してくださいよ」

 ベルンハルト様の手が重ねられる。次の瞬間、視界が切り替わり、私たちは国立魔法研究所、その実験室に立っていたのだった。


 見覚えはあるが、以前に比べて物があふれかえっている実験室に到着すると、ガタリ、と椅子から勢いよく立ち上がるような音がした。音はしたのだが、物が積み上がり過ぎていて誰が何をしているのか全く見えない。

「ボス、お戻りですか!?なら僕の仮説を聞いてください!!」

「所長、帰ってきたならこっちの素材に魔力注いでください!!」

「ついでに儂の魔法陣の確認もしてくれ!!」

 顔も様子も確認できないのに、あちこちからベルンハルト様を呼ぶ声が聞こえてくる。ベルンハルト様はその要望を全部聞き終えた後、全員に注目を集めるように手を叩いた。音が部屋に響き、話し声が静まり返る。

「……協力者として、ルイーエ嬢に来て貰った。全員、その事を踏まえて発言するように。先程の要望については順に対応するが、先にルイーエ嬢に協力内容の説明をするので自力で進められるところまで進めておくように。以上」

 ベルンハルト様がそう言うと、全員、一斉に作業に戻ったようだ。あちこちから小規模の爆発音や専門用語ばかりの会話が聞こえてくる。そんな中、ベルンハルト様は私の手を引き、実験室に隣接している小さな部屋に案内した。

「ルイーエ嬢、空間魔法で作業用の道具を取り出すことはできるか?」

 綺麗に整頓された机を指して、そう聞かれたのだった。


次回更新は6月20日17時予定です。

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