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夜明け

 ディップアートで鬼灯を作るとなると、一番の問題は、どの程度の大きさで作るのか、である。大きすぎると膜を張りにくいことがあるが、小さすぎると成形が難しくなる。今回はピアスとして使うので極力小さくしないといけないが、鬼灯らしさを取り入れる為にはある程度の大きさも必要になる。

「実を、中に入れて作るかどうか……」

 ディップアートはその透き通るような繊細さ、儚さが特徴でもある。鬼灯を作る際、うっすらと中身が見えるように作ることができるのが、最大の利点だと言ってもいい。

「小さい物を入れるとしても、直径が4mmから6mmになるから、最低でも15mm以上の大きさで作らないと無理かな……」

 手持ちのビーズを中身として使うとすれば、鬼灯自体の大きさは最低でもビーズの二倍はないといけない。そして、ワイヤーでビーズを固定することも考えると、どうしても大きい方が作りやすいのだ。

「やってから考えよう」

 まず、中身として使うのは直径6mmのオレンジの丸ビーズ。ワイヤーに通して置いておく。次に、鬼灯の実の部分を作る。直径15mmのパイプに4回ほど巻き付けて、輪が崩れないようにする。

「ペンチで先を摘まんで……」

 ワイヤーを巻き付けた根元ではなく、反対側をペンチで摘まみ、先端を尖らせる。次に根元の部分を変形させて、全体がハート型になるように形を整える。

「こんな感じで良いかな」

 綺麗にハート型が出来たら、ワイヤーを広げて球体の形にする。この時、ワイヤーが変に交差したりすると形が歪むこともあるので気を付けながら広げていく。しっかりと広がったら、形が崩れないように先端の部分を別のワイヤーで十文字に括って固定する。

「大きさの比率は……、まあ、大丈夫かな」

 鬼灯の形ができたところで、先程ワイヤーに通したビーズを中に入れて固定する。ビーズがワイヤーのどこにも触れていないことを確認したら、いよいよ、ディップ液につける段階になる。

「まずは、オレンジ色のディップ液を用意」

 今迄は透明のディップ液を使って膜を作り、その上に色付きのレジンをのせて強化するという方針だったが、今回は絶妙なグラデーションを表現するためにも、色付きのディップ液を使うことにする。ついでに言うと、色が付いている方がきちんと膜が張れているか確認しやすいというのもある。

「かぶせ付けは久し振りだから、ちょっと不安だけど……」

 直径40mmのパイプを使って、太めのワイヤーで大きい輪を作る。そして、作った輪をオレンジ色のディップ液にそっと入れて、ゆっくりと引き上げる。これで今、大きな輪にはオレンジ色の膜が張られている。

「鬼灯の実を……」

 そこに、鬼灯の実の先端をそっと近付けていく。膜の中央からそっと反対側まで通して、破れないように今度は反対向きに通していく。これを2、3回繰り返して普段より厚めに幕を張ったら、ワイヤーの根元の部分まで膜を通し、一度手を止める。

「……最後は、膜を、割る」

 そして、ぐるぐると持っていたワイヤーを動かし、大きな輪に貼られていた膜を割ってから鬼灯を引き抜く。後はスポンジに差して、乾くまで待つだけだ。一つ目を乾かす間に、もう一つ同じものを作れば鬼灯ピアスのパーツが完成だ。

「膜に穴は開いてないし、いい出来かな」

 追加するとしたら葉の部分だろうが、今回はシンプルなピアスにしたいのでやめておく。他にも、形はそのままに実の色を変えてみたり、中身を変えてみたりしても面白いかもしれない。

「完全に乾燥させようと思うと、仕上げは明日の朝かな」

 乾燥を確認して、レジンで強化して、金具を付ける。大した作業ではないが、乾燥までの時間を考えると今日の所はもう眠った方が良いだろう。そう結論付けて、机の上に出したままだった材料や道具を片付けて立ち上がる。

「……待たないとできない作業を早く出来たら便利ではあるけど、待つのもハンドメイドの醍醐味だよね」

 一瞬、直ぐに乾かせる道具があれば便利だな、とは思ったが、大量製作が目的なら工場で作ればいい。完成を待つ楽しみもハンドメイドの楽しみの一つだ。一人で頷いて工房の扉に手を掛ける。

「寝よ……」

 パタン、と工房の扉がとじ、見えなくなる直前。壁が明滅していたように見えたが、角度的にはっきりと見えなかったし、気の所為だとベッドに寝転んだ。


「アーユームー!!」

「おーきーてー!!」

 耳のすぐそばでトッド君とターシャちゃんが叫ぶ声が聞こえる。その音から少しでも遠ざかろうと体を捻り、うぅ、と小さく唸ると、今度は容赦なく体が揺さぶられ始めた。

「……おき、おきる。起きてる」

 流石にこんな状況で寝ていられない。まだ回らない舌を動かして起きていることを主張し、まずは体を揺さぶるのをやめてもらってから、何とか意識と体を覚醒させていく。

「…………まだ、朝になってないよ?」

 そして、窓に目をやり時間を確認したのだが。外は、真っ黒なカーテンを幾重にも閉めているかのように、光が全く無いのであった。


次回更新は6月16日17時予定です。

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