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換気は大事

 ランバート伯爵家への訪問から二日。前より頻繁にベルンハルト様と手紙のやり取りをしながら、ディップアートの商品化に向けて強度の確認を着々と進めていた。今日も店を閉めてすぐ工房に入り、試作品の出来栄えを確認する。

「空間を繋げる効果を付与していることが分かった時は大事になると思ったけれど、ベルンハルト様のお陰で気にせず使えるようになったから、作業が捗るな……」

 レジン作品の注文も落ち着き、工房と引き出しを空間接続チャームで繋げることで店の様子を見ながら作業もできるようになった。お陰で、工房に籠らなくてもできる作業が店の営業時間内に終わるようになり、結果的にディップアートに割ける時間が増えたのだ。

「問題は、工房の換気だけか……」

 本格的にディップアートを始めて直面した問題。それは、工房に換気設備が無い、と言うものだ。今迄も接着剤を使用したり、匂いのあるものを使ったりする機会はあったのだが、どれも短時間で済むものだったので気になったことが無かった。

「空間スキルで作られた工房は、自動的に綺麗な空気が供給されているものだと思っていたけど……」

 が、しかし、ディップアートを始め、また、ディップアートの強度を確保するための強化液を使用し始めた瞬間、工房は勝手に換気していたわけではない、という事が分かった。

「まさか、生命維持に最低限必要な程度にしか空気が入れ替わってないとは思ってもいなかったな……」

ディップ液と強化液、特に、水性と油性がある強化液のうち油性の方は特に匂いが強いのだが、前にうっかり蓋を完全に閉め忘れて工房を出たことがあった。そして、数時間立った後に工房に戻った際、工房の中の空気は大変なことになっていたのである。

「魔法付与をして空気清浄機的な物を作ってもいいけど、常に使うとなると魔力に不安があるから、設備の方で良い物が無いかな?」

 あの時は咄嗟にクリアカラーのビーズリングに清浄の魔法効果を付与して、空気が全て入れ替わるまで魔力を注ぎ続けることで解決した。が、これから店の商品としてディップアートを作るのなら根本的な対策が必要だろう。

 要望を口にすると、いつも通り、工房の壁にポイントを引き替えて出来ることが次々と示されていく。設備拡張のページが現れたかと思うと、瞬く間に文字が流れて行き、空調関連、という見出しの部分が表示された。

「えっと、この一覧から選べばいいのかな」

 設備拡張のうち、空調に関連するもの。まずは、温度調節機能。冷房機能と暖房機能は勿論、加湿・除湿機能や、空気中の埃やある程度のウイルス等を除去する機能まで追加できるらしい。

「冷房はあくまで部屋全体の温度を下げることができるようになるだけで、エアコンと違って冷たい空気を送り込んで冷やす仕組みではない……」

 つまり、直接風が当たって寒い、とか、風で小さな埃が舞ってレジンやディップアートの表面に付く、という事態を回避できるのだ。結構凄い。が、空気を入れ替える機能はないようなので、今回は導入を見送ることにする。

「換気扇、又は、空気の入れ替えに関する機能は……。あった」

 名称はそのまま、換気扇、である。これは、導入すると部屋に換気扇が現れるらしい。壁面ではなく天井の隅に現れるそうなので、あまり気にはならなさそうだ。因みに、一度設置したらこの換気扇をグレードアップさせていくこともできるらしい。

「ポイント引き換え」

 一番シンプルな換気扇を導入し、まずは稼働させてみる。電源のような物はないので、多分音声に反応するか、部屋の中の空気を自動的に判断して起動するのか。後者だったら楽でいいな、と思っていると、勝手に換気扇が動き出した。

「すごい……」

 これで安心して作業ができる、とディップ液の缶を開けると、換気扇の音が強くなった。若干音が大きいような気がするが、その辺りは機能を強化していけば解決するだろう。

「これで心置きなくディップアートが作れるとして……、最初に商品化するとしたら、何を作るかが問題かな」

 ディップアートの別名はアメリカンフラワー。作る作品は花を模したものが圧倒的に多い。が、一口に花と言っても沢山の種類がある。その中でも、特にディップアートでなくては再現が難しいもの、となると何だろうか。

「かぶせ付け……」

 ディップアートの手法の一つ、かぶせ付け。蕾など、球体に近いものに膜を張る時に使う方法である。この、一度別の枠を使って膜を作り、その膜に蕾などを通すという手法を使うことで、よく見かける植物を再現できるのだ。

「正確に言うと花の部分ではないけど……」

 作るのは、鬼灯の、実の部分。日本ではお盆の時期に死者を導く提灯に見立てて飾られていることが多い。今回は、その鬼灯でピアスを作ろうと思う。簪でもいいのだが、日本ではないのでそもそも簪の使い方が普及していないので諦めた。

「よし、やりますか」

 材料はワイヤーとディップ液。道具はペンチとニッパー、ゲージパイプ。それらを作業机に並べ、私は一人腕まくりをした。


次回更新は6月15日17時予定です。

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