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二人の考え

 目の前の魔導士様が文通相手のB様で、しかも父親が日本人、という衝撃的すぎる情報に頭が追い付かず、言葉を発することもできない。私は完全に固まっており、魔導士様は私の反応を待っているのか、沈黙が流れる。

「…………」

 どうしよう、何か言わないと。そう思っているのに言葉は喉に閊えて出て来ず、ただ口を開閉させるだけだった。そんな状況を壊したのは、今迄黙っていたランバート様だった。ランバート様は私を背に庇うように魔導士様の間に割って入り、言った。

「ベルンハルト、一気に情報を出している割に、結局どうしたいのか言っていないので、ルイーエ嬢が困っているではないですか」

「リシャール、言うようになったな?」

「今回はベルンハルトが悪いです。爵位の話は必要になるまで言わなくても良いとして、直接顔を合わせた時に文通相手だと名乗っておけば、ルイーエ嬢だってこんなに驚かずに済んでいたと思います。文通相手の魔法研究所所長は別人だと思わせるような言動をしていた方が悪いではないですか」

 迷いもなく言い切ったランバート様に、魔導士様は溜息を吐いたが、その表情は険しいものではなかった。魔導士様がランバート様の肩越しに私を見る。深い緑色の瞳が、真っ直ぐに私を捉えている。その目に悪意はないように思えて、私はしっかりと目を見つめ返した。

「ルイーエ嬢も、整理は終わったようだな」

「はい。取り乱してしまい、申し訳ありません。……魔導士様」

「ベルンハルト、で良い。ビオ、は微妙に呼びにくいだろう」

「わかりました」

 という事で、魔導士様改めベルンハルト様との話が再開する。魔法研究所の話は兎も角、父親が日本人であることを明かしたのは、私が日本人であるという確信を得たからだろう。聖女たち、世界を超えて来た者やその血縁者でないと使えない筈の空間魔法の気配、黒い髪、名前の響き、そして実年齢より幼く見える容姿と、この世界では目新しい物を次々と作る能力。それらをつなぎ合わせれば、答えに至るのは簡単だろう。

「先に言っておくが、ルイーエ嬢が日本人だからと言って王宮に報告するつもりはない。父の名前を出したが、ルイーエ嬢の話は一切していないし、聞かれても話すつもりはない」

「なら、どうして確認を?」

「空間魔法がどの程度扱えるかを知りたかったというのが大きい。後は、正確に情報を把握していないと庇うにも庇えないだろう」

「庇う……?」

「ああ。今までは魔法付与の件だけだったが、日本人であることが増えるだけだろう」

 ランバート様が先ほど言ったからか、ベルンハルト様は私を王宮に突き出す気はないことと、今迄と同じように店を続けることに協力してくれることを最初に伝えてくれた。

「どうして、そこまでしてくださるのですか?」

「大して理由はない。突然異世界に放り込まれても、何とか自力で生きていこうとする姿勢が好意的に見えた、という理由もあるが、そもそも、この国の聖女召喚の儀式自体が嫌いと言う理由もある」

「嫌い、ですか?」

 この国の人にとって、聖女と言うのは瘴気を祓う事ができる唯一の存在だ。なので、聖女が現れたとなればお祭り騒ぎになることはあっても、聖女の登場を喜ばない人がいるなんて思っても見なかった。巻き込まれた私からすれば、ただ迷惑なだけだったけれど。

「聖女だと言って祭り上げるが、やっていること自体は異世界からの誘拐と魔物討伐の強制だろう。勝手に連れてきておいて戦闘向きでなかったら冷遇する。嫌いになる要素しかないだろう。なあ、リシャール」

「そうですね。自国の戦力の増強や瘴気を祓うための研究をすべきだという意見はいつも揉み消され、関係のない人を積極的に巻き込もうとする姿勢は私も嫌いです」

 ランバート伯爵家は自国の戦力を増強して魔物の討伐を行うべきだという意見を、国立魔法研究所からは瘴気を祓う魔法についての研究を積極的に行うべきだという意見を出しているが、王宮でそれに関して話し合われたことはないという。

「そういう意見の人もいたのですね……」

「自国のことを他人任せにすることが当たり前になっている方がおかしいだろう」

「という事で、私もベルンハルトも、今迄と同じくルイーエ嬢の味方です」

 その言葉にホッとして、思わずその場に座り込んでしまった。二人がぎょっとした顔をするものの、安心したからか体に力が入らず、すぐに立ち上がることができない。

「……お二人共、ありがとうございます」

 座り込んだまま、見上げるようにして言うと、二人は顔を見合わせた後、私に向かって柔らかく微笑んだ。ランバート様は兎も角、ベルンハルト様もそんな表情ができたんだ、と少し驚く。

「座り込んでいては冷えますよ。お手をどうぞ」

「今日の話は此処までにしておくか。送っていく」

 ランバート様に手を借りて立ち上がり、ベルンハルト様の隣に立つ。二人にお礼を言った次の瞬間、視界が切り替わり、私はカフェの前に一人立っていたのだった。


次回更新は6月13日17時予定です。

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