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失念

 リアーヌ様は元から私を夕食に参加させるつもりだったようで、屋敷に到着するなり着せられたドレスもこのためだったらしい。

「アユム、早く行きましょう?そろそろ到着されるでしょうから」

「り、リアーヌ様。本当に私が参加して大丈夫なのでしょうか?」

 さあ、と手を引いてくるリアーヌ様は、少しはしゃいでいるような気もする。少し後ろを歩くランバート様とフェシリテ様は、少し困った表情を浮かべるだけで助けてはくれないようだ。

「……こういう時の母は強いですから」

「私達では止められません……」

 と、後ろから小さな声が聞こえる。貴族の方達の食事にいきなり放り込まれても、マナーなんてものはわからない。コース料理の時は外側から食器を使う、程度の知識しかないのだ。

「確実に雰囲気が悪くなると思うのですが」

「大丈夫。今回の食事会は堅苦しいものではないから。それに、アユムだって面識のある方の筈よ」

「私と面識が?」

 そんなことを言われても、身分が高そうな知り合いは殆どいない。直接顔を見たことがないB様か、何度か助けてもらった魔導士様、後は魔法研究所の人か、偶に挨拶をする騎士の人か。

「ええ。リシャールの紹介で会ったことがあると聞いているけれど……」

「私の紹介?ということは、母上、真逆……」

「そうよ。何か問題があったかしら?」

「いえ、問題というか……」

 ランバート様の紹介で会った、となると、魔導士様のことだろう。確かに面識はあるし、礼儀作法を知らないことには目を瞑ってくれそうな人だが、そこまで親交があるわけではない。突然一緒に食事を、と言われても困るだろう。

「此処よ。レティシアとルシールは先に中で待っているはずだから」

「リアーヌ様、やはり、私は……」

 徒歩でもいいから帰ります、と慌てて踵を返した時だった。目の前に誰かが立っている。ランバート様とフェシリテ様はリアーヌ様の隣にいるのに、一体誰が。いや、それよりも避けなければ。

「相変わらず、予想の出来ない場所で会うな、ルイーエ嬢」

 私が避けるよりも前に体を受け止められる。驚きつつも声のした方向を見上げると、深い緑色の瞳が此方を射抜いていた。

「魔導士様……」

「あら、ビオ卿。予定より早いご到着でしたのね」

 リアーヌ様が明るい口調で魔導士様に話し掛ける。魔導士様は返事をしつつ、私を頭から爪先まで見て確認をした。

「怪我はしていないようだな」

「はい、ありがとうございます」

 怪我がないかを心配してくれていたらしい。森で会った時も思ったが、優しい人だと思う。表情が乏しいのでわかりにくいけれど。

「ランバート伯爵夫人、先に入っていて頂いてもいいだろうか。少し、御子息と話がある」

「ええ、どうぞ。アユム、貴女も中に……」

「いえ、ルイーエ嬢にも話があるので」

 何故か私も引き止められた。リアーヌ様に付いて行っても話題があるわけではないが、二人の話を聞いていいものなのか。困惑していると、リアーヌ様の姿が見えなくなった瞬間、魔導士様が心底疲れたような溜息を吐いた。

「リシャール、これはどういうことだ?」

「先に言っておきますが、夕食会については私も知りませんでした」

「それも問題だが、其方ではない」

「なら、どういうことですか?」

 突然、魔導士様が少し強めの口調でランバート様を問い詰める。口調が荒いわけではないが、声に険がある。

「この屋敷に普段の違う魔法の痕跡がある。それも、空間魔法を使った痕跡だ。一体、どういうことだ?」

「空間魔法?」

 魔導士様がランバート様を殆ど睨んでいるような、厳しい目で見る。が、ランバート様は目を丸くして言われた言葉を繰り返す。それもその筈、空間魔法が使われたなんて、ランバート様は全く知らないのだから。

「ああ。空間魔法が使えるほどの魔法使いをランバート伯爵家が抱えたという報告は上がっていない。どういうことだ」

「どう、と言われましても、空間魔法を使える人材はそう簡単に確保できませんよ」

 そういえば、空間魔法を使えるのは国の中でも屈指の魔法使いか、異世界から来たものとその血を引くものだけだった。まずい、失敗した。便利だから鞄を繋げればいいや、なんて考えるべきではなかった。

「…………」

 私が内心焦っていると、魔導士様とランバート様もいつの間にか口を閉ざしていたようで、部屋に重い沈黙が流れる。

「「……ルイーエ嬢」」

「…………はい」

 二人は、じっと私の方を見て、全く同時にそう言った。ランバート様が把握していないのなら、消去法で原因は私であると考えたのだろう。観念して頷くと、二人は顔を見合わせ、深々と溜息を吐いた。

「取り敢えず、夕食後ですね」

「そうだな」

 少し、と言った以上、リアーヌ様達を長々と待たせるわけにもいかないので、後で話を聞かれるらしい。私が余計なことをしたのが原因なのだが、簡単に解放されそうにはない。

「「「…………」」」

 3人揃って溜息を吐き、夕食会場に足を踏み入れたのだった。

次回更新は6月11日17時予定です。

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