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便利と対価

 シリコンマットの上に使う予定の花を並べ、先に、レジン液を満遍なく付けておく。花などをレジンに封入する時は、先にレジンでコーティングしておくことで大きな気泡が入ることを防げるのだ。直射日光が当たるとすぐに固まってしまうので、アルミホイルで一旦覆っておく。

「モールドに、レジンを入れて……」

 先に、モールドの四分の一程度の所までレジンを入れておく。ゆっくりと、気泡が入らないように透明なレジン液を入れ、細かい気泡があったら爪楊枝で取り除く。こうしている間にも徐々に固まり始めているので、スピードが重要だ。

「UVライト、は流石に出せないかな」

 此処で一度硬化させておきたいのだが、電源が無い状態でライトを取り出しても意味がない。工房のコンセントに繋がった状態のまま、延長するような感じで取り出せないだろうか。窓際にモールドを置き、時間が経てばある程度は固まるようにしておいて、試してみることにする。

「……うーん」

 真っ黒な深淵と化している鞄に手を突っ込む。手探りでUVライトを探すが、今迄の道具類と違って中々出てこない。完全に持ち出せるもの、ではなく、工房と繋がった、使用できる状態のまま持ってこようとしているので難しいのだろうか。

「……これ、かな?」

 何やら、コードのような物が出ている物体に手が当たったので、慎重に少しずつ引っ張る。勢いでコードが抜けてしまっては元も子もないからだ。ゆっくりと手繰り寄せられたUVライトだったが、完全に取り出せる、という直前にぴんと引っ張られる感触が伝わってきた。

「え」

 鞄から完全には出ていない、持ち方を工夫すればライトを使えるかも、と言う状態でコードの限界が来たようだ。しかも、中途半端な位置にあるからか、力を緩めると、というか、魔力を流すのを辞めると今すぐにでもライトは手から離れていきそうである。

「やるしかないか……」

 鞄がモールドに覆い被さるように持ち、手でUVライトの側面にあるスイッチを押す。カチリ、と音がして紫色の光が点いた。手の疲れと魔力の消耗が激しいが、無事に使えるようで何よりだ。

「……花を並べて、と」

 きちんと硬化していることを確認したら、先程、レジンを付けておいた花を配置して、花全体が沈む程度のレジンを入れ、硬化。作業をする為に手を放したからか、UVライトをもう一度探さないといけないようだ。

「さっきはこの辺りにあったのに、移動したのかな……?」

首を傾げながらUVライトを探し当て、引っ張り出す。レジンの中で立体感を出す為に、先程の花の上に重ならないように気を付けながら小さい花を幾つ散らして、今度はモールドの淵部分までレジンを入れて、硬化。後は、冷めたら型から外して、金具を取り付けるだけだ。

「まずい、魔力、切れてきた」

 UVライトとレジンのボトルから完全に手を離したところで、一瞬、目の前が白く点滅した。次に疲労感と眠気が襲ってくる。何度も何度も鞄を使ったので、流石に魔力が無くなったようだ。

「後は、金具と、ピンバイスと、ペンチ……」

 固まったレジンに金具を通す為の穴を開けて、粉を落とす。金具を付けてピアスに仕上げ、完成だ。花を中に入れたレジンはシンプルだからこそ、花本来の美しさとレジンの透明感が映える作品になる。

「片付けして、別室に移動して貰った三人に声を掛けないと」

 使い終わった道具類を纏めて鞄に戻し、立ち上がる。が、集中力が切れていたからか、慣れないドレスで普段通りの動きができなかったのか、椅子を引くと同時に体が背中側に倒れていく。嫌な浮遊感があり、心臓が早鐘を打つが為す術はない。

「え」

 こういう時、世界がやけにゆっくり見えるのは、異世界でも変わらないものらしい。そんな馬鹿なことを考えていると、私の視界は見慣れない天井で一杯になったのだった。


「…………ぃ、たぁ」

 背中の痛みで目を覚ます。目を開けようとして、目の上に何か、布のような物が置かれていることに気付いた。何だろう、と手を伸ばすと、他に人がいたのか、慌てたような声を上げているが発する言葉の意味までは分からない。

「あの」

 返事はない。目を覚ましたことを伝えに、外へ行ったのだろうか。暫くぼうっとしていると、扉が乱暴に開かれる音がした。そのまま足音が一直線に私の方に向かってくる。だれだろう、と目の上の布を退かし、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

「大丈夫ですか!?」

「頭を打って気を失ったみたいだけれど、まだ痛みはある?」

「ごめんなさい、作業をするとは言え、誰か一人くらい残していけばよかったわね」

 ランバート様とリアーヌ様、そしてフェシリテ様が私の方を覗き込み、次々と言葉を掛けてくる。残りの二人は別の用事があって来られないらしいが、不注意で転んだだけなので此処まで心配して貰って逆に申し訳ない気持ちになる。

「あの、原因は……」

「時間も時間だから、詳しい話は夕食でしましょう。丁度、アユムを紹介したいと思っていた方も来られますから」

 魔力切れです。そう言うより前に、私は何故か夕食会に参加することになったのだった。


次回更新は6月10日17時予定です。

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