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花とレジン

 今回、アクセサリーを作って欲しいというのは全部で3人。ランバート様のお兄様、つまり次期伯爵の妻、フェシリテ様。ランバート様のお姉様である、レティシア様とルシール様。お二人は既に嫁がれているそうだが、夜会の時に揃いの装飾品を付けたりと家族中は良好だそうだ。

「先に打ち合わせをしていたわけではないから、それぞれドレスが全く違うのだけれど……」

「私はドレスを見て、それに合うようなものを作ればいいのでしょうか?」

「そうなるわ。ドレスは別室に持ってきてあるから、一人一人と話し合って決めて頂戴」

 そう言うと、用事があるらしく、リアーヌ様は応接室から出ていった。その際、ランバート様も連れていかれてしまったので、慣れない場所で一人きりになってしまった。じ、と三人の女性から視線が注がれているのを感じる。

「早速だけれど、付いて来て貰っていいかしら?」

「はい」

 応接室とはまた違う部屋に案内される。すると、そこには鮮やかな色合いのドレスが三つ、並べられていた。一つは華やかな黄色、一つは燃えるような赤色、そして、もう一つは深い青色のドレスだ。

「フェシリテ様が黄色、私が赤、ルシールが青色のドレスよ」

 レティシア様が説明をしてくれる。今回は身に着けていくグローブをお揃いにする予定だったが、折角なので私にお揃いのピアスを注文しよう、と言うことになったそうだ。とはいえ、色も系統もバラバラなドレスに合うようなピアス、と言われると少々難しいものがある。

「できそうかしら?」

「……他の装飾品も見せて頂かないと、全体の色味が把握できないので、何とも」

「それもそうね」

 共通して使われている色があればよかったのだが、三人の装いは全く違っており、色をそろえることは難しそうだ。流行しているという青いアクセサリーにしようと思っても、ルシール様はドレスが青いので差し色として他の色を入れないとバランスが悪い。

「これで全部だと思うわ」

「当日のお化粧まで見せた方が良いかしら?」

「いえ、大丈夫です」

 順番にアクセサリーを確認させてもらっている途中、端の方に避けられていた小さな飾りに目が留まった。大きな、薔薇の飾りだ。そっと触ってみると柔らかく、僅かにかさりと音が鳴る。これは、ドライフラワーだろうか。

「フェシリテ様、此方は……」

「ああ、髪飾りとして使う花ね。魔法で加工してあるから、枯れたりはしないわ」

 正確に言うとドライフラワーではないが、花を加工した物で正しいらしい。よく見るとレティシア様とルシール様の箱にも花が入っている。価値の高い宝石や、目新しいものを身に着けることが多いと聞いていたので、そこまで珍しくもない花を全員アクセサリーとして使うことに疑問を抱く。

「どうして宝石だけではないのか、不思議に思っているようね」

「……はい。価値の高い物を身に着けることも重要だと聞いていましたので」

「価値は単純な物の値だけではないわ。この花は、領地で花を育て、魔法によって最も美しい瞬間を維持しているの。敢えて時期のずれた花を身に着けることで、抱えている魔法使いの多さを示す意味もあるわ」

 人材面での価値が高い、という事らしい。ランバート伯爵家は宝飾品が取れないので毎回人材の豊かさを示す。花を維持する魔法使いに、新しい物を作る私。そう整理した瞬間、何を作ればいいのかが分かった。

「……あの、花は、此方に入っているもの以外もありますか?」

「ええ。沢山あるはずよ。持って来させましょう」

「何か思いついたの?」

「はい。小ぶりな花を詰め込んだ、ピアスを作ろうかと思います」

 三人は揃って首を傾げた。そこで、私はレジンと言う特殊な条件で固まる透明な樹脂の中に花を入れることと、固めたものを加工してアクセサリーにすることを説明した。

「魔法で固まる樹脂があることは知っていたけれど、本当にアクセサリーにできるのね」

「透明だから、中に入っている花はそのまま見える、という事かしら」

「髪飾りとして使うには小さすぎる花が沢山使えそうだわ」

 三人は声を弾ませてどのような花を詰め込むかを相談し始めた。その間に私はレジンをどういう形に配置するかを考える。円形、三角、四角、それともフープパーツのような形でもいいかもしれない。

「簡単な図案がこんな感じになるのですが……」

「私、これがいいわ」

「私は長い四角の方が……、使う花は同じにして、形は変えましょうよ」

 持ってきてもらった花を三人が次々と選んでいく。その間に私は使う予定のモールドを鞄から取り出す。モールドは独立しているものなので、手を放しても消えないようだ。実際の型と選ばれた花を見比べて、配置を考える。

「「「これで頼んでいいかしら」」」

「はい。作業を始めますので、少々お待ちください。大丈夫とは思いますが、一応、別室でお待ちいただいても宜しいでしょうか?」

 花の配置も気に行って貰えたところで、本格的な作業の開始である。レジン液のボトルを見られるのは少々都合が悪いので別室に移動してもらい、机に置かれた三つのモールドと向き合う。

「…………魔力が切れないと良いけど」

 ふう、と息をしっかり吸って、私は鞄から、透明レジンのボトルを取り出した。


次回更新は6月9日17時予定です。

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