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依頼達成

「……よし、準備完了」

 目の前には、青とピンクと黄色の箱。それぞれに黒い革紐と虹色のビーズリングが入っている。予定通り、工房のポイントで箱と紐は手に入ったのだ。箱の色まで選べたのは予想外だったが、管理するときに区別し易くていいだろう。

「後は、渡すだけ……」

 気に入られなかったら、代金は受け取らない。自分で決めたことだが、いざ渡す直前になると緊張してきた。試作品を見せた時の、微妙な反応が脳裏にフラッシュバックする。

「大丈夫。自分でもいい出来だって、思ったから……」

 三つの箱を籠に入れて、ゆっくりと二階へと降りる。既に食卓には料理が並び始めており、ジュディさん以外は座っている状態だった。

「おはようございます」

「あ、アユム!!」

「おはよう、アユム!!」

 挨拶をしながら部屋に入ると、トッド君とターシャちゃんが嬉しそうに此方に駆け寄ってくる。その瞳はキラキラと期待に輝いており、真っ直ぐに私を射抜く。カルロさんはジュディさんから今日指輪を渡すことを聞いているのか、二人の反応を見て苦笑している。

「アユム、わすれてない?」

「ちゃんともってきた?」

 待ちきれない、と言った様子で、二人は私の服の裾を掴む。籠を持っている時点で忘れていないことはわかるだろうに、早く早くと急かしてくる。一瞬、あまりの期待に怯みそうになるが、大丈夫だと自らを鼓舞し、笑顔を浮かべる。

「大丈夫。ちゃんと持ってきました」

「ほんと?」

「はやくみせて!!」

ぐいぐいと腕を引かれ、苦笑しながら籠を二人の前に置く。すると、籠の中を覗き込んだ二人は、三つの箱を見ると全く同時にわあ、と感嘆の声を上げた。

「おねえちゃん!!」

「きて」

「え、私も?」

 そして、自分の箱を手に取る前に、食卓に座ったまま私たちの様子を伺っていたソニアちゃんの方へ駆け寄っていった。そして、二人で両側の手を引き、此方に連れてくる。

「みてみて!!」

「わあ、箱が三つ?」

「おれのと、ターシャのと、おねえちゃんの!!」

 二人は、箱を見て驚いたソニアちゃんに満足そうな表情を浮かべる。トッド君は誇らしげに、ピンクの箱をターシャちゃんに、黄色の箱をソニアちゃんに渡した。そして、最後に自分の青い箱を手に取る。

「私の箱もあるの?」

「うん、これはおねえちゃんの」

「せーの、で、あけよう」

 ソニアちゃんは状況が全く理解できていないようだが、二人に促され、せーの、の掛け声と同時に箱を開けた。ぱか、と箱が開く軽い音がした後、沈黙が流れる。不安になってそっと三人の表情を窺うが、三人揃って目を見開いたまま固まっている。

「えっと……」

 気に入らなかったのかな、と聞こうとした瞬間、腹部に衝撃を感じた。う、と短く呻きながらも下を見ると、トッド君とターシャちゃんが私に抱きついていた。

「アユム、ありがとう!!」

「とってもきれい。うれしい」

「……喜んでもらえて、私も嬉しい」

 どうやら、感極まった結果、抱きついてきたらしい。正直ちょっと痛かったが、何も言わないことにした。

「アユムさん、私にも、ありがとうございます」

「私は二人から頼まれて作っただけだから。お礼なら、お手伝いを頑張った二人に言ってあげて」

 二人が離れ、私が体勢を戻したところで、ソニアちゃんにもお礼を言われた。しかし、私は依頼を受けただけで、実際にソニアちゃんの指輪の分も仕事をしたのは二人だ。そう伝えると、ソニアちゃんは屈んで二人を抱きしめた。

「トッド、ターシャ、ありがとう」

「おねえちゃん、げんきでた?」

「うれしい?」

「うん。ありがとう。とっても嬉しいから、元気出たよ」

 どうやら、二人は最近元気がないソニアちゃんの為に、元気が出る色の指輪が欲しかったらしい。そう聞いて、ソニアちゃんの目が潤んだ。

「だいじょうぶ?」

「いたいところある?」

「ううん、大丈夫。そうだ、これ、身に着ける方法考えないと」

 トッド君とターシャちゃんが心配そうにのぞき込む。が、嬉し涙のようなので大丈夫だろう。誤魔化すように指輪を身に着ける方法について話題に挙げた。

「それなら、私に考えがあります」

 にっこりと笑顔を浮かべて、箱の中の革紐を指し示す。どうするのか察したのか、ソニアちゃんの目が真ん丸になった後、嬉しそうに二本の紐を取り出した。

「トッド、ターシャ。おねえちゃんがやってあげる」

 そして、二人からそれぞれ指輪を受け取ると、手際よく紐に指輪を通し、あっという間にとめ結びをした。この結び方は、二本の紐を使う結び方で、長さが調節できる便利な結び方なのだ。

「「おそろい!!」」

 ネックレスにして貰って、首から同じ虹色の指輪を下げた二人は、嬉しそうにソニアちゃんの手を取り、くるくると回り始めた。喜びを表現しているらしい。

「ほら、そろそろ朝食にするよ。あんたたちは良くても、ソニアは教会に行かないといけないだろう」

「「きょうはいっしょにいく!!」」

「なら、早く食べないとね」

 暫く踊っていたが、ジュディさんに声を掛けられ、トッド君とターシャちゃんは慌てて食卓に着いた。ソニアちゃんもすぐに席に着き、ニコニコと笑顔を浮かべたまま食事を摂る。そんな三人を見て、私も笑顔が零れたのだった。


次回更新は2月19日17時予定です。

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