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契約の真意

 夜会の準備で忙しいらしく、リアーヌ様は商品を受け取るとすぐに帰って行った。ただ、ランバート様は店に残って御用達の店として、ランバート伯爵家側が求める条件と私が求める条件のすり合わせをすることになった。

「本当に、母が無茶ぶりをしてしまい、申し訳ありません……」

「いえ、私にとって得が多い内容でしたので」

「なら、いいのですが……」

 貴族から言われたら平民は基本的に断れない、ということを気にしてくれたのだろう。自分の意思で決めたことなので大丈夫です、とはっきり伝えると安心したように笑った。

「それにしても、条件を決めておくように、と言われましたが、リアーヌ様抜きで決めてもいいのでしょうか?」

「……大丈夫だと思います。恐らく、夜会の度に新作をというのは本音でしょうが、狙いは別の所にあると思うので」

「狙い、ですか?」

 首を傾げる。目新しさ以外に、私の店に強みはあっただろうか。魔法付与に関しては公表されていないし、ランバート様の口振りからしてリアーヌ様にも伝えていないだろう。その辺りの口の堅さは信頼している。となると、本当に理由がわからない。

「魔法研究所との繋がりです。我が家は元々、魔法研究所と関わりが多い家なのですが、研究所長様が今の方に代わってからは、格段に交流が増えていまして……」

「私が、聖女一行が使った道具製作に関わっていることをご存じなのですね?」

「はい。直接伝えたわけではありませんが、把握していると思います」

 ランバート伯爵家は、王都と隣接する、森の多い土地を預かっているらしい。主な役割は森から来る獣を狩り、王都を守ること。普段から猛獣と対峙し、瘴気が発生すれば魔物との戦いを一手に引き受ける立場上、魔法研究所に道具の作成を依頼することが多いらしい。

「魔法研究所の開発環境を向上させるという事は、結果的に我が家の利益となるのです。ですので、ルイーエ嬢の店を先に御用達として、他の貴族から手出しをされないようにするという事は……」

「魔法研究所から私に依頼が来た時に、貴族向け商品の製作に忙しくて十分な時間が取れないという事態を回避することに繋がるのですね」

「そういうことです」

 聖女については関心が高いので、私の店が関わったことは調べようと思えばすぐに調べられるとのことだ。そして、目を付ける家は確実にあるだろう、と。つまり、結果的には何時かは何処かの家に確保されていた、ということだろう。なら、信頼を置ける人の家の庇護下に入っていた方がいい。

「本来の、ルイーエ嬢の、平穏に店を続けていくという目標から徐々に遠ざかってしまっているのですが……」

「それに関しては、私が面倒事に巻き込まれて過ぎている自覚があるので……」

 ランバート様は毎回、極力大事にならないように助けてくれている。が、それにしても完全に揉み消せないような面倒事に頻繁に巻き込まれている自覚がある。此処まで来ると、いっそ呪われているのかと思う程だ。多分、これからも王宮や貴族と全く関わらないでいるのは無理だろう。

「これからも、極力、問題に巻き込まれないように行動していくとして、その為の一手がこれです」

「……先程の、注文票ですか?」

 リアーヌ様のサインだけでなく、大きな印鑑も捺してある以外、至って普通の注文票である。ランバート様は注文票を手に取ると、反対の手で小さな石を持ち、何かを呟きながら石を押し当てた。すると、石がまるで額縁の様に注文票を包み込んだ。

「簡単な保存の魔法道具です。これで中にある書類が汚れたり、破れたりすることはありません。これはカウンターの鍵付きの引き出しに入れて、有事の際は何時でも取り出せるようにしておいてください」

「有事の際って、例えば、貴族の方が店に来て無茶ぶりをしてきた時とかですか?」

「そうです。大抵の場合はこの書類を見れば理解されるはずなので」

 逆に、引き下がらない相手はまともではないので全力で身を守ることだけ考えればいいらしい。大変分かりやすい指示だ。これでランバート伯爵家側からの要求と説明は終了らしい。

「次に母上が来る時に色々不便が無いか聞かれるとは思いますが、現時点で何か要求はありますか?」

「特にないです」

「では、今日は帰りますね。恐らく、次に此方に来るのは早くて五日後かと」

「わかりました」

 リアーヌ様の様子からして、暫くの間ランバート様に自由時間はない。夜会が終わるまで家から出られないのではないだろうか。店から出ていくランバート様の後姿は、哀愁が漂っている気がした。

「夜会の結果を聞けるのは五日後以降だから、それまでは普通に店をやってればいいかな」

 レジン作品の種類を増やして、余裕があれば次のジャンルも挑戦してみよう。ワイヤーも綺麗に加工できるようになってきたので、次はワイヤーを更に応用したものにしようか。

「よし、作業しよう」

 次に挑むのはディップアート。ワイヤーで作った枠に、ディップ液の膜を張って花などの形を作るものである。


次回更新は6月5日17時予定です。

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