下は向かない
この世界には魔法素材が沢山ある。UVレジン、という名前のものはないものの、特定の魔法で固まったり、二つの素材を組み合わせると固まったりするものは多いようで、私の作ったレジンアクセサリーはあっさり受け入れられた。
「トッド君とターシャちゃんの反応からしても大丈夫だとは思ってたけど、一安心かな」
せっかく作っても、受け入れられないものなら意味がない。そう心配していたのだが、レジン作品は初日から好評だった。
「予想以上の大好評。透明だけどガラス程重たくなくて、使いやすいからかな」
レジンを使えば、アクセサリー用のパーツを色々と作れるので、次はビーズと組み合わせてみようか。今は丸い型しかないけれど、長方形や三角形も増やせばかなり幅が広がるだろう。そんなことを考えながら、注文を受けていた。
「店主さん、これ、色違いは出来ますか?」
「可能です。明日の朝にはお渡しできますが、如何なさいますか?」
「お願いします。色は緑で、あ、金具は銀がいいです」
「畏まりました。お待ちしております」
笑顔で帰って行くお客さんを見送れば、先程まで展示を見ていた人がカウンターにやってくる。その目はキラキラ輝いていて、自分のアクセサリーを見て楽しんでくれていて良かった、と心から思う。
「店主さん、今大丈夫ですか?」
「はい、どうぞ」
次から次へと注文が入るのは嬉しい事だ。それが新商品なら尚更。だが、しかし。注文が入るのは、グラデーションのレジンばかりなのだ。いや、一応、ビーズやマーブル模様の注文も入って入るのだが、それは全体の二割と言った所だろう。残りの八割は全て、グラデーションのレジンだ。
「しかも、青色が一番人気……」
小さく呟く。展示してあるものは下側が青、上側が透明のグラデーションで、偶に逆の配置がいい、と言う人はいるものの、殆どが展示してあるものと同じ商品が欲しいと言う。マーブル模様とビーズ作品も、何故か微妙に青色の注文が多い。
「どうして……?」
今までは展示はあくまで例であり、大抵の人が色やパーツを自分の好きなように選んでいたし、手作りだからこそ、その人だけのアクセサリーが出来ることを一番の売りにしていた。前回のワイヤー作品も、編み物の花も、組紐も、ビーズも、みんな好きな色を選んで作っていたはずだ。
「いつもなら違う色を注文する常連さんも、今回は青色の人が多い……」
現在、青色のストールが流行している影響はあるだろうか。いや、それなら影響はもっと早く出ていたはずだ。それこそ、ワイヤー作品を売り始めた頃が青色のストールが爆発的に増えた時期だろう。それに、ストールが青だからこそ、小物の色を変えると言っているお客さんもいた。
「聖女様を象徴する色は白、国の色は、赤色だったはず」
謎の、青色大流行。街全体での流行なのか、それとも、私の店だけなのか。この原因は何なのか。謎に包まれたまま、レジンアクセサリーお披露目初日は終了したのであった。
赤、黄、緑、白、黒、紫。橙に、金、銀。着色料を増やしながら、次々とグラデーションを作っていく。着色料が揃ったら、次は丸いモールドを。型が増えれば、固まるまで待つ間に次の作品を作ることができる。
「…………これも、綺麗にできた」
境界部分を馴染ませることで、自然なグラデーションを作っていく。繰り返しの単調な作業は飽きる人も多いというが、私は毎回達成感を得られるので結構好きだ。青色以外の注文で最後の品、緑色のグラデーションが完成したところで、今迄よりも大きな皿を出す。
「少し多めに作る位の方が良さそう」
注文が一つずつの色は、必要な量だけ色付きレジンを作ったが、青色の注文は多いし、この流行が続くなら沢山使うだろう。作り置きをして置いた方が気泡は抜ける上、均一な色になるし、時短にもなる。
「大きい入れ物はこれしかないから、一色しかできないのが難点かな……」
ほとんどを着色料と交換したので、レジンのスキルポイントは貯まっていないのだ。皿の八分目くらいまでレジンを入れて、青色の着色料を何滴か落とす。爪楊枝で混ぜて、色味を見て、もう一滴だけ落とす。
「このくらいかな」
混ぜた直後に気泡があるのは仕方がないので、気泡が無い所からレジンを掬って、モールドに入れる。反対側からは透明のレジンを入れて、爪楊枝で境目を馴染ませる。繰り返し、繰り返して、一つ、二つと作品を完成させていく。
「…………」
完成した作品たちを、作業机の上に並べる。どれも、丹精込めて作った作品だ。仕上がりも満足いくもので、作る途中に失敗なんてしていない。どれも同じくらい、綺麗な作品だ。どれも同じ完成度の作品だと、客観的に見て思う。
「何が、原因なんだろう」
だけれども、評価されるのは青色の作品。どうしても、その原因が気になって。私は、青色と、別の色でのグラデーションで作品を作ることにした。青と白、青と緑。組み合わせによって反応が違うのなら、きっと原因も分かるはず。
「もう少し、作ろう」
前向きに、前向きに。次の作品を作り始めた。
次回更新は5月28日17時予定です。