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正式な取引

 国立魔法研究所から帰った次の朝。貰って来た水晶を改めて確認すると、袋を開けただけでも7種類ほどの種類があることが分かった。聖女一行は7人で旅をしているので、数を合わせてくれたのだろうか。

「これだけあれば、かなりの組み合わせが作れるから何とかなりそう」

 大変ありがたいことだ。今日は、開店前の時間を使って桐野さんとの打ち合わせをして、また二日後にもう一度打ち合わせをしようと思っていたが、これだけ素材があれば次の打ち合わせはなくても完成させることができるかもしれない。

「そろそろ約束した時間だけど、桐野さん、来ないな……」

 桐野さんと打ち合わせをすることは事前にジュディさんに伝えてある。本当は、私も一階で待っていようと思ったのだが、ジュディさんに自分の仕事をしていたらいい、と言われたので開店準備をしつつ待っているのだ。

「何かトラブルでもあったとか?」

 取り敢えず、外の様子を確認しようと窓を開ける。すると、大通りに目立つ帽子を被った人物がいることに気が付いた。

「……丁度到着したみたい」

 取り敢えず、何か問題に巻き込まれたわけではないようで良かった。急いで階段を駆け下り、桐野さんを迎えに行く。

「おはようございます。ごめんなさい、カフェは準備中みたいだったので、声が掛けにくくて」

「大丈夫です。店の方にどうぞ」

「ありがとうございます」

 大通りにも面している場所で依頼の品について話をするわけにもいかないので、すぐに店に案内する。当たり障りのない会話をしながら階段を上り、私の店に入り、扉を閉める。すると、桐野さんは先程までの笑顔とは一変して、真剣なまなざしを私に向けた。

「前回の話し合いの後、作戦について確認をし、最低限必要な連絡手段を整理しました。此方の書類に纏めてあるので、確認して貰えますか?」

「わかりました」

 桐野さんが作成した書類を見る限り、儀式に集中する必要がある聖女様と、作戦中に場所を移動する必要のない二人は通信手段を持たないようにして、残りの五人が通信をして状況を判断し、臨機応変に行動していくことにしたらしい。

「五人全員が同時に連絡を取る必要はないので、隣接する場所を守る二人との連絡手段さえあればいいです」

「成程」

 私が作る通信機器は、緊急事態に陥った場合に援護を求める為だけに使用することに決まったらしい。援軍が来るまでに必要な時間などを考えた結果、全体通信はあっても無駄、という結論に達したそうだ。

「とはいえ、結局、二人分の通信を分ける必要があるのですが……」

 桐野さんは申し訳なさそうな顔をした。が、大丈夫である。最大の課題だと思われていた、通信を分ける方法については、既に解決策があるのだから。

「大丈夫です。通信を分ける手法は見つかりました」

「本当ですか?なら、この書類通りでお願いします」

「わかりました。そうなると、発言用と受信用で、それぞれ2つ、計4つのフィンリー鉱石がついたイヤーカフにすればいいですか?」

 1つのイヤーカフに4つも石が付いていたら少々邪魔かもしれないが、数が多くても邪魔だろう。桐野さんに確認をすると、少し考えた後、いえ、と首を横に振った。

「発言用と受信用で分けてもらう事はできますか?」

「片方は発言用、片方は受信用、と完全に分ければいいのですか?」

「はい。必要な数が倍になるので、無理でしたら断って頂いても大丈夫です」

 分けるとしたら会話相手ごとに分けると思っていたので、少々以外である。理由を聞くと、魔法の制御があまり得意でないメンバーが使用する際にイヤーカフに触れる必要があるので利き手の逆側に発言用のイヤーカフを付けたい、とのことだった。

「製作期間には若干の余裕があるので、桐野さん達が使いやすい形で作りますよ」

「お願いします。それにしても、この2日でどうやって解決方法を見つけたんですか?」

 桐野さんが鋭い目つきで私を見た。魔法を専門としている、ということもあり、どんな仕組みで実現させたのかが気になるのだろう。私は苦笑しながら、鍵付きの引き出しからメモを取り出した。

「残念ながら、私の実力で解決方法を見つけたわけではないんです。国立魔法研究所が、桐野さんを含めた聖女一行が討伐の為の道具を探しているという情報を聞きつけ、協力してくださった結果です。此方が説明書になります」

 表向きには、道具の作成をしたのは研究所で、私は鉱石を身に着けやすいように加工しただけ、ということになる。この辺りは、全てB様が考え、王宮側への報告なども済ませてくれたらしい。お陰で、今回の通信機器の作成が大々的に知られても、私が魔法付与をしたと思われる可能性は殆どない。私の生活は脅かされないし、聖女一行は正式に魔法研究所の協力も得られる。互いに不利益はない筈だ。

「明日の閉店後にはお渡しできます」

 にっこりと笑顔を浮かべて言うと、桐野さんは一瞬目を丸くした後、成程、と笑った。

「……わかりました。また明日、受け取りに来ます」

 そう言って、桐野さんは帰って行ったのだった。


次回更新は5月23日17時予定です。

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