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閃きと改善

 クルト君の一声により集合した皆様に、難しい魔法の理論はわからないので私は気にせず話をして欲しい、と伝える。すると、申し訳なさそうな顔で飲み物や暇つぶしの資料を用意してくれたあと、本格的な話し合いが始まった。

「……全員、暇潰しで最新の論文を渡すのはどうなんだろう」

 国立研究所なので、国家機密扱いではないのだろうか。一応理系なので論文を読むこと自体は嫌いではない。が、流石に気が引けるのでクルト君がくれた資料だけ読むことにする。

「……大気など自然界に存在する魔力は全て同じ性質を示すが、動植物が持つ魔力は違う性質を持つ。そして、動植物が持つ魔力は、地域、血縁により近い性質を示すことがわかっている」

 と、考えると、魔力そのものは純粋なエネルギーのようなものだが、人や植物が取り込むと別の形に変換されるのだろうか。

「ルイーエ嬢!!少しいいですか?」

「大丈夫です」

 頷いて、話を聞く体勢を整えると、クルト君は目をキラキラと輝かせ、身振り手振りを交えながら話し合った内容を説明し始めた。

「まだ仮説ですけど、恐らく、人間が持っている魔力は、必要だった魔法が使いやすいように変化したものだと考えられます。魔力自体は形がないんですけど、魔法陣を通して形を作り、魔法として発動しているのだと思います。個人の魔力の性質によって作りやすい形が違うのが、得意属性の差に繋がるのかと!!」

「動物や植物が、必要な魔法が使いやすい魔力を体に蓄えるように進化していった、と言うことですか?」

「はい!!」

 一気に捲し立てられたので理解できているか不安だったが、大体合っていたらしい。笑顔で頷いたクルト君が、両手にいっぱい小さい水晶を持って来た。

「この辺の理論はまた検証しますが、取り敢えず、ルイーエ嬢が言っていたフィンリー鉱石についての説明だけすると、各属性の魔法陣を通したり、属性魔法を使いながら魔力を流したりすれば、同じ個人の魔力でも属性による差が出るので可能です!!」

「実際に使用する時も、帯びさせた魔力と同じ属性の魔力である必要はありますか?」

「いえ、フィンリー鉱石に魔力を帯びさせる時だけ気をつければ、他の時は普通に魔力を流すだけで大丈夫です」

 正確な理屈はまた後日、とクルト君は締め括った。今の説明を桐野さんにもするために簡単なメモを取り、内容が正しいか確認をしてもらう。

「これで僕の担当終わりですけど、この後どうします?」

 クルト君による確認も終わったので、私の用件は終了である。早く仮説を検証したくてうずうずしている状態のクルト君を引き止めるのも心苦しいので、帰っていいのなら帰るつもりだ。

「帰るなら、声掛けてきますね」

 部屋の中を見渡したが、みんな議論に夢中でこちらを見ていない。帰ろう、と扉の方を見ると、クルト君が笑顔で言った。

「誰にですか?」

 B様に挨拶をして行った方がいい、と言うことだろうか。でも、忙しいから同席できないと言われていたし、邪魔になるのではないだろうか。

「それは勿論、ボ……」

「ぼ?」

「馬鹿クルト!!儂の分野の説明はしたか!?」

「してないですよ。素材は専門外ですもん」

 聞き返そうとしたら、先程まで議論に集中していたお爺さんが勢いよく声を上げた。どうやら、素材の研究を行なっている人らしい。

「お嬢さんの仕事に関係ある部分は全部纏めて説明した方がわかりやすいだろう!!」

「今からハーレーさんがやればいいじゃないですか。僕よりわかりやすいでしょう?」

 後はお願いします、とクルト君は議論の方に混ざって行った。説明を任されたハーレーさんは、溜息をついた後、私に向き直った。

「ごめんな、お嬢さん。思い浮かんだことを忘れんうちに試したいんだろう」

「いえ、大丈夫です。えっと、ハーレーさんからの説明も、メモをして大丈夫でしょうか?」

「構わん。お嬢さんが作業をするときに必要じゃろうからな。とはいえ、説明自体は簡単だ。フィンリー鉱石に魔力を帯びさせるときに、素材を使えば簡単に分けることができると言うことだけだからな」

 つまり、フィンリー鉱石と一緒に素材も入れてイヤーカフを作れば、魔力を帯びさせるときに属性を気にしなくいていいらしい。

「さっき、クルトが持って来た小さい水晶が各属性を帯びた素材だ。色ごとに属性が違う。研究では使わない大きさだから、好きに持って帰ってくれ」

「こんなに沢山ですか?」

 使わない、と言われてもかなりの量の水晶を受け取るのは気がひける。どうしよう、と視線を彷徨わせていると、ハーレーさんは快活に笑った。

「ま、お嬢さんが知らないだけで、儂らはお嬢さんに恩があるのさ。役に立てておくれ」

「……わかりました。ありがとうございます」

 帰りたいなら部屋の隅の魔法陣を使うといい、と指差された先を見る。大きな魔法陣の中央に水晶が置かれている。

「行く先を思い浮かべて、魔力を流せば帰れる。他の奴らも今日は使い物にならんからな、気にせず帰ったらいい」

「……はい。皆さま、本日はお世話になりました」

 ぺこり、と頭を下げて魔法陣の上に立つ。また来いよ、などの声が聞こえる中、魔力を流すと、次の瞬間には自分の部屋に立っていたのだった。

次回更新は5月22日17時予定です。

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