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魔力の性質

 用意されている素材の多さに目を丸くしていると、中から出てきた、同じ年頃の男性に椅子まで案内された。実験室には似つかわしくない、座り心地の良さそうな椅子に座るよう促される。

「えっと……」

「ほらほら、準備が終わる前にルイーエ嬢来ちゃいましたよ!!早くしないと!!」

 何か手伝いを、と聞くより前に男性が声を張り上げる。すると、奥の方から物と物がぶつかる音と、叫ぶような声が聞こえてきた。

「大急ぎで準備しとるが、如何せん時間が足りん!!」

「そうだそうだ、どれだけ実験室を放置していたと思っとるんだ」

「魔力の性質はお前の専門だろう!!そっちの実験を先にやっとけ!!」

 どうやら、まだ準備というか、片付けが終わっていないようだ。横の男性は、だから普段から整理整頓しておいた方が良いんですよ、と笑ってから、大きな声で奥に向かって返事をした。

「じゃあ、お先に始めるので、終わったら来てくださーい」

 そう言うと、男性は私の横にある引き出しを開け、書類の束を取り出した。幾つかの束の中から、藍色のクリップで止められているものを私に差し出すと、表紙を見るように言った。

「改めてご挨拶させていただきます。初めまして、ルイーエ嬢。僕はクルトです。平民なので姓はありません。気軽にクルト君って呼んでください」

「よろしくお願いします。アユム・ルイーエです」

 因みに、同じくらいの年頃だと思っていたのだが、まだ16歳らしい。顔つきや体格は大人と遜色ないものの、にっこりと笑った顔は確かにまだ幼さを残している。

「僕は、魔力の個人差や魔力そのものの性質について研究しています。一応、この分野の第一人者なので平民でも国立の研究所に所属できています。簡単な説明を文書に纏めているので、暇な時にでも読んでください。取り敢えず、今日は実験に必要な説明だけしますね」

「ありがとうございます」

 説明を要約すると、魔力の性質が研究され始めたのは最近のことで、現時点で分かっているのは、自然由来の魔力と、動物が保持している魔力は微妙に性質が違うこと。そして、動物が保持している魔力は個体によって更に微細な性質の差が見られるということだ。

「つまり、一人一人違いがあることは分かっていても、何故違いがあるのかはわかっていない、という事ですか?」

「はい。人によって得意な魔法が違うので、魔力の差があることは確実だと考えられています」

 人によって性質が違い過ぎるので、大量のデータがないと傾向が分析できない。が、魔法が使える貴族はこういった研究活動には非協力的で、平民はそもそも魔力が少ないことが多いので、中々研究が進まないらしい。

「まあでも、少しずつ研究は進んでいて、騎士団が使っている使用魔法が分かる水晶とかあるでしょう?あんな感じで、体内と体外の僅かな魔力から、使用された魔法の痕跡を調べて表示する仕掛けは作れるようになったんですよ」

「つまり、今回はその技術を応用する、という事ですか?」

「そうです。まあ、この研究って、今迄思いつかなかった方法で魔力を観測することが一番大事なので、視点が面白いルイーエ嬢が手伝ってくれると助かります」

 視点が面白い、というのは、B様が言ったことだろうか。その期待に応えられるか少々不安である。

「取り敢えず、普段やってる、得意魔法の鑑定からやってみましょう。実際にやってみる間に気付くことがあると思うので」

 そう言うと、クルト君は机の上にラベルの付いた水晶を並べ始めた。ラベルには水、火、などの単語が書かれている。これは、もしかすると。

「魔法の適性を調べるやつです。仕掛け的には水晶に魔法陣が入っていて、そこに魔力流すだけですけど、魔力自体は一定量しか入らなくて、入っただけ光ります」

「得意な魔法の方が長く光が灯る、ということですか?」

「はい!」

 成る程、と頷いて、順番に水晶を握っていく。意識しなくても魔力が勝手に抜かれるようで、手が触れた瞬間に光り始めた。

「……本人に適性がなくても、水晶に触れると魔法自体は発動する仕掛けなんですね」

「適性がなくても魔法陣と魔力があれば無理矢理使えますからね。研究者の殆どは魔法陣を使って実験してますよ」

「魔力は有り余ってる人ばっかり、てことですね」

 そこで、ふと気がついた。魔力と魔法陣があれば、どんな魔法でも使える。つまり、魔力の性質を、発動したい魔法に適したものに変換するのが魔法陣なのではないだろうか。

「……質問が」

「何ですか?」

「魔法陣なしでも魔法は使えますよね?」

「得意な魔法なら使えますね」

 全ての魔法を使う時、魔法陣を使う訳ではない。なら、なぜ使わなくても良いのだろう。そこを突き詰めれば、魔力についてもわかるのではないだろうか。

「それなら、例えば、火の魔法を使う時と、水の魔法を使う時で、何か感覚の違いはありますか?」

「感覚としては違いますけど……。まさか、いや、そうかもしれない」

 クルト君は奥に向かって叫んだ。

「全員集合!!これ、できるかもしれないです!!」

次回更新は5月21日17時予定です。

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