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共同実験

「これって……」

 B様から送られてきた封筒に入っていたのは、招待状。見慣れた書式で書かれたそれは、国立魔法研究所に入るために必要なものである。

「どういうこと……?」

 問題は、どうして国立魔法研究所への招待状が入っているか、という事だ。フィンリー鉱石について調べたいことがあるなら、勝手に本を読みに来い、という意味だろうか。国立魔法研究所なら普通なら読めないような本が置いてあるだろうし、調べ物をするにはもってこいの場所だ。

「先に返事を確認した方が良さそう」

 招待状の真意を知るためにも、先にB様から送られてきた手紙を読むことにしよう。そう思って手紙を開くと、いつもより崩れた字で文章が綴られていた。

「面倒なことになったので最初に謝罪しておく。って……」

不安である。曰く、魔力そのものについての研究はB様の専門ではないこと。研究所内で専門の人に聞いたら私の疑問に対して大変興味を持ったこと。そして、私が知りたいことについて実験を行うので研究所に来て欲しいことが書かれていた。

「『他に、魔法素材の分布について研究している者や、素材を掛け合わせて新素材を作る研究をしている者も参加する。話が長くなるかもしれないが、付き合ってほしい』」

 箝口令は敷いておく、と書かれているが、これは、国立魔法研究所の人の殆どに私のことは知られているという事ではないのだろうか。王宮にさえバレなければ問題はないが、これからは目立たないように気を付けよう、と心に誓う。

「日付は、明日の夜。……やっぱり、研究所の人は夜型なのかな」

 日中は店があるので、私としても有難い。B様は色々と忙しいらしく、同席はできないことが書かれていた。時間帯が遅いので、研究所から迎えに来させようか、と聞かれているが、申し訳ないので断ることにする。

「これで、製作が一気に進むと良いな」

 気が楽になったら、創作意欲が湧いてきた。明日の夕方までは依頼のことは忘れて、別のものを作ろう。私は意気揚々と工房に入り、作業机に向かったのだった。


 翌日、新商品として、ワイヤーで作ったフープにビーズを通した、シンプルなピアスとイヤリングを売り出した。形がシンプルだからこそ使いやすいのか、売れ行きは好調だ。なんとなくだが体調も良く、このまま実験も上手くいくと良いな、と思いながら夕暮れの路地を歩く。

「指定の時間より少し早く到着しそうだけど、早く来る分にはあまり問題ないって書いてあったよね」

 時間を夜にしたのは、実験室の片付けの時間を考えて遅めに設定しただけで、店が終わり次第研究所に来てもいい、と手紙に書いてあった。早く着いたなら、片づけを手伝ったら実験も早く始められるだろう、と歩調を早める。

「あ、見えてきた」

 城門が見えてきたので、足に着けているアンクレットに魔力を流す。前回来た時に呼び止められることはなかったので、今日はそこまで緊張しない。

「すみません、招待を受けたので、中に入れて頂けますか?」

 門の横に立っている見張りの人に、招待状を差し出しながら声を掛ける。ちらり、と見張り番の顔を確認したが、この前とは違う人のようだ。もし同じ人だったらお礼を言いたかったので、少し残念だ。

「確認いたします。はい、今日の夜、国立魔法研究所の実験室ですね」

「はい。少し時間が早いですが、大丈夫でしょうか?」

「研究所の方から話は聞いております。どうぞお入りください」

 招待状を返してもらい、門をくぐる。実験室の場所が何処にあるのかは知らないが、招待状さえあれば目的地まで案内してもらえるのだろう。ノッカーのライオンの鼻先に招待状をかざし、中に入れて貰って、水晶玉に招待状を投げ込む。

「……あっち?」

 すると、紫色の光の線が真っ直ぐ廊下の端へ向かって放たれた。しかし、その光が照らしているのは壁ではなく、廊下の曲がり角に置かれた水晶である。

「もしかして……」

 二つ目の水晶まで辿り着くと、また次の曲がり角へと光が放たれる。この光に付いて行けば、最終的に実験室まで連れて行ってくれるのだろう。どうして人が近くまで来たら分かるのかは、後で専門の人に聞くことにする。

「……同じ道を辿って戻れ、って言われたら絶対に無理だな」

 右、左、上、と指示されるとおりに歩いているが、かなり複雑である。実験室ともなると貴重品が置かれているだろうから、防犯対策も含まれているのだろうが、全く同じ見た目の廊下を延々と歩き続けているうちに段々と方向感覚がなくなってきた。

「ここ?」

 今、何階にいるんだろう、と思ったところで、水晶の光が壁に向けられた。すると、変哲もない見た目だった筈の壁に、はっきりとした凹凸が浮かび上がり、扉になる。

「相変わらず、不思議」

 扉をノックすると、中から物が崩れたような、けたたましい音がした。そこから人の声や足音が響いた後、急にしんとした。ごほん、という咳払いの音がして、ゆっくりと中から扉が開けられた。

「どうぞ」

「失礼します、本日、実験に参加させていただく、アユム・ルイーエと申します」

 よろしくお願いいたします、と言おうとして、実験室の中を見て固まった。が、仕方が無いと思う。何故ならそこには、図鑑で見た貴重な素材が、所狭しと並べられていたのだから。


次回更新は5月20日17時予定です。

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