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天弓

 トッド君とターシャちゃん、そしてソニアちゃんに好きな色を聞いてみたものの、見事なまでに全員バラバラだった。トッド君は青や赤などのかっこいい色、ターシャちゃんはピンクやオレンジなどの可愛い色、ソニアちゃんは緑や黄色などの自然な色が好きだという。人によって元気が出る色、というのは違うので、全員同じ色で元気が出るようにするのはなかなか難しい。

「……青と緑は相性がいいけど、青とオレンジは反対色。赤と緑も反対色」

 夕食後、自室に帰ってすぐに工房に入り、ビーズリングを作り始めた。が、作業開始から三時間が経過し、目の前には色の組み合わせを変えて作ったリングが6種類ほどあるが、どれも満足のいく出来とは言えなかった。

「三色だと難しいな……」

 ビーズを並べた時点で色合いが悪いものは作らない。時間が限られているのもあるが、作っている間に目が疲れやすくなるからだ。現時点で細かい指定はないので自分の感性を信じて頑張りたい。

「赤とオレンジと黄色でもいいけど、暖色ばかりになる……」

 可愛いかもしれないが、かっこいい色合いとは言えない。自然な色か、と言われると、夕焼けの色なのでギリギリ自然の範囲に収まるだろう。

「色を増やした方が良いかな……」

 一度手を止め、壁に技能ポイントで追加できる物の一覧を表示する。テグスや潰し玉が並んでいるのは無視して、ビーズの欄を詳しく見る。できることは種類の追加と、色の追加。種類の追加に必要なのは20ポイントで、色の追加に必要なのは10ポイント。

「今は……、7ポイントか……」

 ビーズリングは一つ当たり1ポイントしかもらえないようなので、中々に厳しい。色の追加をすると10ポイントで10色増えるが、色を選べるわけではなく、パステルカラーセット、ビビッドカラーセット、など系統で増えるようだ。

「内容確認もできないから、ちょっとリスクが高いかな……」

 ポイントを使ったところで、今回役に立つ色が出るとは限らない。そう考えると手を出す気にはなれなかった。ポイントの無駄遣い、良くない。

「……試作品を作って、反応を見て考えよう」

 取り敢えず、白色を間に挟めば色が浮きにくいので、片っ端から試してみよう。それから、色の順番を変えれば雰囲気も変わるかもしれない。気合を入れ直し、作業を再開しようとした時だった。

「あ」

 アラームが大音量で鳴り響き、仕方なく続きは明日することにしたのだった。


 注文を受けた翌日は、ビーズリング作成で消えた。全ての色を試すのに、かなりの時間が必要だったためだ。そして、その日の夕方に二人に指輪を見せ、選ばれたデザインで三人分作れば終了、の、筈だったのだ。

「このままじゃ駄目だ……」

 が、昨晩、二人に指輪を見せたところ、問題が発生してしまったのだ。トッド君とターシャちゃんがそれぞれ気に入る指輪はあった。ソニアちゃんに似合いそうだという指輪も、幾つか。しかし、その中からどれか一つが選ばれることはなかったのだ。

「やっぱり、かっこよさと可愛さの両立は難しいか……」

 そう、二人が気に入った指輪は、色合いが殆ど逆のものだったのだ。どちらの要素も兼ね備えたものは二人共が微妙な反応を示したので、指輪が決まらなかった。

「新しい指輪の案……」

 明日までに考えて、完成させなければいけないというのに、全くと言っていいほど思いつかないのである。というか、思いつくものは既に試した後なのだ。頭を抱えてベッドに倒れ込む。

「私が元気をなくしてどうする……」

 深いため息を吐く。横になっていると、段々と眠気が襲ってきた。ここ数日、睡眠時間が短かったので当然である。このまま眠気に身を任せ、昼寝でもしようと思ったその時だった。

 ざあ、と雨が降り始めた。慌てて体を起こしたが、窓は開けていない。なら、いいか、とベッドに戻り、今度こそ眠りに落ちた。


「アユム!!」

「なあ、おきろよ!!」

 名前を呼ばれ、意識が急浮上する。いつの間にか雨は降り止み、青い空が窓から見えている。完全に眠っていたが、時間はそこまで経過していないようだ。

「「おきた?」」

「うん……」

 ゆっくりと体を起こすと、二人がそれぞれ私の手を掴んだ。ぐいぐいと手を引っ張り、半ば無理矢理立たされる。

「アユム、きて」

「はやくはやく」

 そのまま階段を降り、裏口から外へ出る。直射日光が眩しいな、と思わず下を向くと、二人は不満そうに手を引いた。ごめんごめん、と謝りながら、二人に連れられて表通りの方まで移動する。

「ほら、みて」

「いま、すっごいきれいだから」

 ぴたり、と足を止めたかと思うと、二人は揃って空を指さした。示された先を視線で追うと、空には、七色の虹が架かっていた。思わず目を見開き、空を見つめていると、二人は嬉しそうに話しかけてくる。

「こんなにきれいなの、なかなかないよね」

「げんきがでるよな」

「元気……」

 そうか。自然のもので、かっこよくて、かわいくて、元気が出るもの。赤から始まり、紫で終わるその七色が、答えのような気がした。


次回更新は2月17日17時予定です。

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