魔導具学の先生
学園は9月始まりです。
入学から一週間。今日から選択科目が始まる。
魔導具学をセヴァラスと取ることを話したら驚かれたが、彼を紹介した時には良い人だと言ってくれた。
エマはあらかじめプライス家の領地の事を調べていたようで、やはり特産物の事などで話が盛り上がっていた。エリザベスとも話していたし、貴族同士としては無難な話なのかな。セヴァラスもエマも自分の領地の知識は豊富なんだろうけど。
しかし2人は選択科目が被らないようなので、2人きりで話す事はそうないだろう。
セヴァラスに男の子の友達が出来れば良いのになぁ。
クラスではセヴァラスは誰とも話さない。魔法学以外では基礎科目で移動教室はないから目立つ事はないけど、それでも授業で彼が教授に指されると妙に教室がシンとなる。
解答する度にヒューヒュー!とか言う訳にもいかないし……。
私はと言えば、クラスの大抵の女子生徒はエリザベスに紹介したおかげか、クラス内ではヒソヒソ話される事はなくなった。
エリザベスとは顔を合わせれば少し話すし気にかけて貰っているけど、何分席が遠いし、彼女の周りには今や沢山の令嬢が集まっている。
まぁ、普通に良い子だしね。私やエマが普通に話しているのを見て、予想より親しみやすいと思われたんだろうな。
今日の魔導具学をセヴァラスと一緒に受けたらどうなるんだろうなぁ。
私まで丸ごとヒソヒソされるか、セヴァラスへの風当たりが柔らかくなるか。
もしかしてエリザベス次第、だったりするのかな。
まぁ、良いや。私はセヴァラスと二人きりになったって良い。
……待って。セヴァラスもう行こうとしてない?
私を置いていこうとしてない?
教室から出ようとする彼に後ろから声をかける。
『セヴァラス君、移動教室に連れてって!』
「……あぁ」
教室が妙に静かだ。怖い。大丈夫かこれ。
「わざわざ教室で話しかけることないだろう。僕が次の授業を受けることを、君が知っていたんだと皆が思っただろ」
廊下を歩きながらセヴァラスがボソリと呟いた。
『どうせ一緒に授業受けるなら同じでしょ?』
「迷ったから声をかけたとか、色々あるだろ」
『もー良いじゃん! 私はセヴァラスとエマがいれば大丈夫!』
魔導具の担任はアルバート先生とのことだが、今日は不在だった。
優秀な先生のようだが、航海などで長く王国を離れることもあるらしく、ゲイリー・ホーンという先生が副担任としてついているようだ。
選択科目は最初に出席を取るようで一人一人名前を呼ばれる。
「レナ・ブラウン」
『はい』
手を挙げて答えると、ホーン先生はニッコリと笑った。
「君がレナ・ブラウンか! 会えるのをとても楽しみにしていたよ。今度機会があれば光魔法を見せておくれ、私は一度も見たことがないんだ。君程の魔法の才能があれば魔導具の授業もきっと上手く行くはずだ」
子どものようなキラキラの笑顔で矢継ぎ早に言われ、咄嗟に愛想笑いを返してしまった。
先生がこんな風に堂々と特定の生徒を褒めて良いものなのか?
―――セヴァラス、大丈夫かな。
彼が先生に差別されたらどうしよう。流石にそれはないか? 私の隣にいるんだし、先生、察してよね。
「セヴァラス・プライズ」
「はい」
「君がプライス家の子だね」
うわ、まず……
「君のご両親を教えていたんだよ、二人共とても優秀な生徒だった。君も同じようにこの科目を好きになってくれると嬉しい。大変な事もあるだろうが、君が快適に過ごせるよう協力するよ」
「っ、ありがとうございます」
良かったぁぁぁー!
今の発言だけでもセヴァラスにこの科目取ってもらった甲斐があるよ!!!
『セヴァラス君、良かったね』
「あ、あぁ……」
セヴァラスはちょっと困惑気味の表情をしている。アルバート先生に褒められた時と言い、本当に目立つことを避けてるんだな。
だけど先生が皆の前で、彼への差別を気にする発言をしてくれたのは良かった。
Bクラスで魔導具を取っている生徒は数人のようだけど、セヴァラスがこの科目を伸び伸び受けられるだけでも救われる。
ゲームのセヴァラスもこの科目受けてたら良かったのに!
今日の授業は座学だった。
魔導具は強力な魔力を持つ魔導士が、特定の条件をクリアした道具に魔力を込めてくくるらしい。
魔導具に魔力を込めるのは、魔法とは少し違うらしく、魔法が出来ても魔力を込めるのが苦手だったり、優れた魔導具を作れるのに魔法が使えない人もいるらしい。
え、じゃあさっき何で私に才能あるって言ったの!?
関係ないんじゃん!
授業が終わると、ホーン先生にお茶でもどうかと引き留められた。光の魔法を見せて欲しいとのことだ。
次の授業もないし良いけど……。
チラリとセヴァラスを見ると、ホーン先生はニコニコで、もちろんセヴァラス君もどうぞとのことだった。
「いやいや、私も40年教師をやっているけど光の魔法なんて見たことがなくてね。魔法学では怪我を直したんだって?」
『はい、怪我を直すのが今は一番得意です』
「それではそれ以外の魔法も?」
『実用的なものは明かりを灯すくらいです』
右手の平をギュッと握り、ゆっくりと開くと、手の上にフワフワと薄い黄色の火の玉が浮いた。
「ほぉぉ! 素晴らしい!」
実を言うと、これはこの世界が不便すぎて自分で練習した。電気がないんだもん。暗くなってからトイレとか行く時に、いちいちロウソクに火をつけて消して……って面倒なんだよね。
『暗いところを歩くのにとても便利なんです』
「君は宮廷どころかあらゆる場所で引く手数多だろうね」
出来れば傷を癒す魔法を生かせる仕事に就きたいけど、そうなると戦場が一番私の力を生かせることになっちゃうんだろうな。
ジェームズに目を付けられないためにも、光の魔法は別の方向で生かした方が良いかも知れない。
「セヴァラス君は風属性だったね?」
「はい。ですが僕は魔法を使えません」
「大丈夫さ。風の魔法は習得が難しい。魔導具学の授業をきっかけに魔法が使える様になる生徒もいるんだ。だからもっと大勢の生徒に勧めたいのだが、地味だし需要も低いからか人気がなくてね」
ホーン先生はいかにも高級そうなカップを手にし、紅茶を飲む。私達もそれにならうように口を付けた。
セヴァラスのご両親を本当によく覚えているようで、学生時代の二人のエピソードをいくつか話してくれた。セヴァラスも最初に比べ打ち解けたように見える。
「……プライス家は大変なようだね」
ふぅ、とため息をつきながら、ホーン先生が切り出した。
私も気になってはいたことだが、禁句のように思っていたのでドキリとする。
「……はい、ほとんど毎年冬になるとロイシュークの軍が攻めてきます」
『何故冬なの? ウィンドレイクは雪も風も強くて、進軍に向いていると思えないけれど』
「ロイシュークの冬の生活が厳しいんだと思う。争いの先頭は兵士でも、どさくさに紛れて作物や備蓄を荒らしていく奴らがほとんどだ。きっと生活の苦しい民衆を安い金で雇い利用しているんだろう」
つまり相手は長期戦覚悟なわけだ。領土を守り切ったとしても生活を荒らし続ければ、ウィンドレイクの土地は荒れ、人々が離れてしまうだろう。ロイシューク側の民衆にしてみれば冬の間の小銭稼ぎで敵国の作物を奪い損もない。王国が打って出る判断をしない限り、戦場は常にこちら側なのだ。
もしもウィンドレイクが落ちたら、すぐ南の領土はウィンドレイクとの境こそ山間となっているがそれ以降平地が多く戦への備えがほとんどない。そばにあるのは小さな村ばかりで、ヒロインの住んでいる村もその一つだ。
「現国王も王太子殿下も保守派で反戦を唱えている。ロイシュークとの関係が良くなると良いんだが」
「……五年以上前から僕らの領地は限界を訴えています。ならず者のような傭兵が集まっても追い返す訳にもいかないのが現状ですし、王国に頼らず自分達で何とかしようと言う意見も根強い。プライス家への風当たりも強い中、一体どうすれば良いのか」
当然辛いだろう。自分達への風当たりが強いだけならまだしも、戦いそのものもまだ続いているのだから。
防戦一方で状況は悪くなるばかり、中途半端に制限されるくらいなら攻めてしまいたいと思っても仕方ない状況だろう。
王国としてももっと重く考えても良さそうなものだけど。プライス家が自己判断で打って出るなんてまだ良い方で、最悪領土ごと寝返るとかもあり得るんじゃないのかな。
こんな小競り合い状態にある隣国との国境線にある家を迫害するなんて、やっぱりこの国おかしいな。いや恋愛ゲームにそんなこと突っ込むなんておかしいんだけど。でも、じゃあなんでセヴァラスをそんな設定にしたんだ。
本当に都合が悪いことを全部プライス家に請け負わせて、国は平和です、王子は平和主義で優しいです。
だけど弟王子は強気で戦争したがりです、その主張も間違ってはいません、ヒロインは癒しの魔法のせいで戦いに巻き込まれます、だけど戦いは隅っこの方だけだから避けられます。
ってあまりに都合よすぎるでしょ!
例え国の隅っこでもずっと小競り合いがあって解決する気配のない国は平和じゃないから!
百歩譲って国境線では戦いが続いているってエピソードが必要だとしても裏切りとか必要だった!?
「すみません、話過ぎたようで」
「いやいや、大丈夫だよ。力になれそうもなくて……すまない。私には何も出来ないかもしれないが、良ければいつでもおいで。話を聞くくらいなら出来るだろう」
『私にも、何でも言ってね』
「……ありがとうございます」
セヴァラスの力になりたいな。
ゲーム通りに進むなら、この冬またプライス家の領地にロイシュークは攻めてくるはずだ。ヒロインもセヴァラスに着いて行ってそれを目の当たりにする。
それまでに癒しの魔法がもっと上手く出来るようにしたいけど、一体どうすれば良いんだろう。




