並んで授業を受けましょう
『セヴァラス君』
声をかけると、彼はハッと目を見開いて顔を上げた。
図書館の中でも奥まっているこの場所は、彼以外に人影がない。
誰かいそうなものだけど、寮には寮で勉強をするスペースがあるから、皆本を借りたらそちらで勉強をするのだ。
「誰がそう呼ぶことを許可した?」
『ダメだった?』
「……そうは言ってない」
むすっとした表情が可愛い。あばたもえくぼは百も承知だ。
「まさか、本当に光の魔法が見られるとは思わなかった」
『えっ!? 私の事疑ってたってこと!?』
「違う、そんな訳ないだろ」
彼は読んでいた本をパタンと閉めた。魔法学の本のようだ。彼はいつも勉強熱心だが、それが報われるとは限らないのが魔法学なのだ。
これほど如実に才能が必要とされるものはないだろう。
「光魔法の使い手は何百年に一度いるかいないかだ。この目で見られるとは思っていなかった。率直に言って感動したよ、美しい魔法だった」
手にしている本の縁をなぞりながら、彼が言う。何を考えているのか、少しぼんやりとした目をしている。
『……なんだか照れちゃう』
「今あれだけの魔法が使えたら学園の魔法学の授業なんて必要ない。将来も安泰だろうな」
『まさか。たくさん勉強しないと』
彼の斜め向かいの椅子に座ると、彼は読んでいた本をもう一度開いた。
『セヴァラス君はもう選択科目は決めた?』
「僕は領地を継ぐ上で必要な最低限だ。経営・商学、地理学、剣術の三つだ。君は取らないだろ」
『うーん、かと言って音楽とか美術とかも興味ないんだよね……』
音楽と美術はエリザベスやドリスと言ったお嬢様がよく選択する科目だ。あの二人とは出来るだけ一緒のクラスになりたくない。
もちろんアレクサンダーもそうなのだけど、アレクサンダーは選択科目でのイベントはあまりない。まぁイベントがなくても一緒にいない方が良いかも知れないけど。
そして私が一番選んではいけないのは剣術だ。剣術にはウィリアムがいる。彼と会う回数を増やしたくはない。
「あぁ……君は知らないだろうが、こういうのは興味で考えない方が良い。宮廷で働くつもりなら異文化や社会学、光魔法の理解を深めるなら生命科学。魔法の才能があるなら魔導具学も取るべきだ」
うっ、あまりに正論です。偉いなぁ……。そりゃあ当然自分の将来を考えて授業を選んだ方が良いよね。
ゲームでは卒業後なんてないけど、この世界では人生は続くんだから。
『うん、魔導具学と生命科学は取るつもり。セヴァラス君も一緒に取らない?』
生命科学はゲーム内でもヒロインが学んでいる描写がある。エマと一緒に授業を受けるはずなので、私としても取っておきたい授業だ。
魔導具学は魔力の強いヒロインにとって好成績が取りやすい科目だ。正直そういう科目があると楽で良い。魔法の道具の勉強は楽しそうだし。
この学園の入学を決めた、魔力があるものが触れると反応する水晶も魔導具の一つだ。
他にもきっと色々あるんだろう。空飛ぶ箒はなさそうだけど、魔法の鏡はあったりしないかな?
「学んで損はないと思うが……別に必須ではないし、僕は出来るだけ授業を取りたくない」
『どうして?』
「……居心地が悪い。寮でも、もう孤立しているんだ。部屋の近い奴に話しかけたら無視をされた。一応僕の家の方が位は高いはずなんだが」
! 友情イベントだ!
ゲームとは状況が違うが、彼との友情を上げるためのイベントのセリフだ。
このイベントは選択授業が始まってからのはずだが、私がセヴァラスのところにばかり話しかけるから変わったのだろうか。
まさかゲーム内では、ヒロインが初日以降セヴァラスと話したのがあのタイミングってことはないよね?
~~~~~~~~~
図書館で落ち込んでいる様子のセヴァラスにヒロインが話しかける。
『セヴァラス、どうしたの?』
「すまない、少しぼんやりしていた」
『もうすぐ図書館が閉まる時間だけど、良ければ寮まで一緒に帰らない?』
「いや、ギリギリまでいる。正直、寮で孤立しているんだ。部屋の近い奴に話しかけてもずっと無視をされている。一応僕の家の方が位は高いはずなんだが」
選択肢
A『気にしない方が良いよ』
B『その人、嫌な人ね』
『その人、嫌な人ね』
「……ふ、そうだな」
~~~~~~~~~
ゲームでは、ここで初めてセヴァラスの笑う表情が見られる。
まぁ私は初日で見てるけど。ふふん。
『そいつ嫌な奴だね』
「……ふ、そうだな」
ゲームと同じように少し笑う。ゲームではここで好感度が上がって場面が変わるけど、この世界では会話が続く。
ゲームと同じ部分はあるとしても、私たちはこの世界にちゃんと生きているんだ。
『じゃあ、ギリギリまで私とここに居ようよ』
「良いのか? 君はもう友達がいただろう」
『エマのこと? 大丈夫、彼女は侍女のお姉さんとティータイムするって。すっごい仲良しなんだって。今度紹介するね』
ニコリと笑いかけるが、彼は微妙な表情だ。
え? 私の笑顔が気持ち悪いとかそういう事じゃないよね?
素材はヒロインなんだから、表情がちょっと変でも可愛いよね?
「いや、迷惑だろ。彼女だって」
『そんな事ないよ。エマはすっごく良い子だよ。私に色々教えてくれるの』
「……そうか」
彼はもはや本を読むのを諦めたようで、穏やかな表情でこちらを見ている。
『セヴァラスも身分の低い私から話しかけても答えてくれたし丁寧に教えてくれたから、きっと仲良くなれるよ』
「身分の低い側から話しかけてはいけないと学んだか」
『え! そこ知らないと思われてたの!? 死ぬほど勇気出して話しかけたのに!』
そっか、平民だから知らないと思ってたんだ。
そりゃそうか!
いやでも優しい事には変わりないけど。
いやむしろそのマナー知ってるのに話しかけて来る奴の方が変な奴か。
でも授業の分からないところを聞くのって事務的な用事に入らないのかな?
入る訳ないか。先生に聞けよって感じだもんね。
「そんな勇気を出して話しかけた相手が僕だなんて運が悪いな」
『あれだけ丁寧に教えて貰ったんだから運良いよ! 大体私、平民なのに光の魔法が使えるんだよ? 超ウルトラスーパー運良いじゃん!』
ぐいと身体を乗り出して熱弁したら、気付いたらセヴァラスはポカンとした表情をしていた。
わー、こんな顔初めて見た。
セヴァラスは脇キャラだから、表情もそんなにないんだよね。
「ありがとう。……実は魔導具学は少し興味があったんだ」
『それなら一緒に受けましょう!』
「……本当に良いのか? 僕は君が思っているより嫌われてる」
私は貴方が思っているより貴方が好きです。
『セヴァラス君、私セヴァラス君が思っているより方向音痴だからよろしくね』
「道案内役か」
『くっついて行くね』
魔導具って誰が選択してたかな。ゲーム内であんまり描写がなかったけど、エマは多分選択してない。
セヴァラスと二人の時間が増えるかもしれない。
「図書館で話すだけの約束が一日で破られるとはな」
『うん、でも私もう目立ってるから。今更だよ』
「自覚あったのか」
明日からの楽しみがまた一つ増えた。




