ゲームでは分からない話
「レナ、ランチ行きましょ!」
『いぇーい! お腹ぺこぺこー』
初日の今日は午前の三つで授業が全て終わる。
午後はほとんどが選択科目だからだ。特別クラスは午後の時間の一つとして組み込まれるらしい。
それにしても、もしかしてめっちゃ順調じゃない?
だって実はアレクサンダーのイベントもう3つ躱してるんだよ。
最初の出会いイベントでは髪を触られなかったし、初の魔法学イベントで一緒に中庭まで行くイベント(これは光の魔法について聞かれ、答えるだけで選択肢も何もないのに好感度があがってしまう)もなかった。
それに今、アレクサンダーと一緒にランチに行くというイベントも潰している!
基本的には自分から声をかけられないヒロインは、Aクラスでアレクサンダーだけが話しかけてくれて……という流れだが、よく考えて欲しい。
隙あらば王太子と一緒にいる平民に話しかけられるか?
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授業が終わるとアレクサンダーはすぐにヒロインのところへやってくる。
「やぁブラウン嬢」
『殿下、ごきげんよう』
「これからエリザベスと昼食をとる予定なんだ。良ければ一緒に。君の話を聞きたい」
キラキラの笑顔で、座っているヒロインの顔を覗き込む。
選択肢
A『嬉しい! でもお邪魔ではないでしょうか?』
B『私などが恐れ多いです……』
『そんな……私などが恐れ多いです』
「安心して、エリザベスも君の事を気にかけていたから。王子としての務めだよ」
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はい or YESかよ! 断るという選択肢はないのか! 平民に人権はないのか!
よく考えたら酷くない? 断りにくいの分かってて四六時中誘うなんて。
「リッチ様は帰られるのかしら」
『一応声をかけましょう、さよならの挨拶になるかも知れないし』
ゲームではエリザベスはアレクアンダーとランチする約束だったから、一緒に行こうって誘われるかも知れない。
エリザベス、そこは貴族の常識と独占欲を見せてくれ、頼む。
彼女に声をかけると、やはりアレクサンダーと食堂で昼食を取ってから帰宅するそうだ。
良ければ一緒にと誘われて思わず硬直してしまったが、エマがあまりに恐れ多いと断ってくれた。
ありがとうエマ!
こういうの断れるんだね!?
ゲームではヒロインは婚約者がいると知りつつもアレクサンダーを無下に出来なくて、みたいな描写が多かったけど、エリザベスは自分の立場と引き際を心得ているみたいだ。
アレクサンダーは強引なのか、迷惑がられていることを分かっていないのか。
一応親切心ではあるみたいだけど。
根っからの陽キャなのかも知れない。
仲間に入れない子を誘ってくれる、みたいな。ある意味でのリーダーシップ。
やっぱりアレクサンダー苦手だ。陽キャだ。
教室の隅でポツンといても私は大丈夫ですので。その時間が好きなので。
もしくは、やり忘れた宿題やっているだけなんで。
食堂はかなりの広さがあるが、サンドイッチなどが詰められたバスケットセットを買って、中庭で食べたりも出来る。
ゲーム内でアレクサンダーやジェームズとの親密度が上がると、人目を避けて一緒にランチを食べることもあった。
―――人目避けてる時点でどうなのって感じだけど。
まぁジェームズにもあるイベントだし、一応王族だから、という事なのかな
『え! ランチ全部無料なんだ! すごいね!? 一番高そうなやつ選ぼ!』
「……?」
エマ、そんなキョトンとした顔しないで。
『ものすごく充実してるね』
今日のお勧めランチを頼むと、こんがり焼かれたチキンとみずみずしい野菜が盛られていた。流石にご飯はないが、パンも美味しそうだ。
魔法がないと航海が危険と言われるような電気のない世界で、食べ物の流通ってどうなっているんだろう。
ゲームだしあんまり考えちゃダメか。
「リッチ様とアレクサンダー様だわ」
『あー……』
ちゃっかりドリスもいるんですが。周りがザワザワしている事に気付いているのかいないのか。
「リッチ様、大丈夫かしら」
えぇ……。エマ良い子だなぁ。
ここで彼女を見捨てるような事を言うとエマの好感度に響くかな……。
しかし何が悲しくて自分から戦火に突入して行かねばならんのか?
『あの、ドリスって人、ちょっと苦手……』
「本当、あぁいう人が王妃になろうとしているのかと思うとゾっとするわ。しかもあの人、私の従兄のジョシュアと婚約の話が出ていたの」
『えっ!?』
しまった、大きい声出しちゃった。
ヒロインはジョシュアの事は知らないはずなのに。
『えっと、じゃあ、あの人とエマは親戚になるってこと?』
「いいえ、あちらからお断りされたの。ジョシュアの母が―――私の伯母の事だけど、伯爵家出身なのが気になるんですって。でも伯母はそれを見越して、私達一家を屋敷に招いて挨拶をさせたのよ」
ゲームではドリスとエマやジョシュアの絡みはなかったから知らなかった。という事は、エマとジョシュア、それから彼女の伯母であるレイブン夫人はドリスが好きじゃないんだ。
「彼女の家は改革派だから、元々あまり関わりたくはなかったみたい。だからと言って完全な保守派という訳でもないのだけれど……。だからジョシュアと誰を婚約させるか悩んでいるみたいなのよ」
『エマと伯母様の家は、中間くらいの考え方って事なのかしら?』
単純に派閥に入りたくない、みたいな感じなのかな?
そういう意味では、ジョシュアにとっても平民で光の魔法を使えるヒロインは、申し分ない相手だったのかもしれないな。
「難しい問題だわ。保守派と言いたいところだけど、周りの国はこの国を警戒しているし、事実小さな争いが今も起こっているから。戦争する気はありません、今のままでいます、だけでは済まされないわよね」
『エマ……!』
良かった、ちゃんとプライス家の領地の事を考えてくれている人がこの国にいたんだ!
「レナの住んでいる村は、ウィンドレイクから近いんでしょう?」
『馬車で四時間ほどだから近いという訳ではないけれど、話はよく聞いているから……怖くてたまらないの』
ウィンドレイクはプライス家の領土だ。その名の通り大きな湖があり、冬には強い風が吹きつける。
ヒロインの住んでいる村は、彼の領土の南西にあるが、隣接している訳ではない。
ただ村からの道が整っておりプライス家の屋敷も領土の南西にあるため、馬車でもそう時間はかからない。もちろん雪の時期に行こうとしたらもっと時間がかかるけど。
「でも例の件では、貴方の村の近くまでロイシュークの軍が来たって……」
『え!? まさか! 川を越えてもいないわよ』
「え、そうなの?」
やっぱりプライス家への偏見が大きいのかな。そもそもきちんとした情報が行きわたっていないのかも。
『村では、ロイシューク軍を挟み撃ちにするための作戦だったって噂よ』
「だけど……お金を受け取ったんでしょう?」
貴族にとってはそこが重要なんだな。騙し討ちみたいな感じなんだろうか。
まぁお金だけ受け取って約束を破ったって事だもんね。
だけどずっと苦しめられてきた敵国な訳だし……と思うのはセヴァラス贔屓だからかな。
実際あんまり知らないんだよね、そのあたりの細かい話は。
セヴァラスもあまり話したがらないし、エマに伝わっている話がこれだけ誇張されているって事は、ヒロインが知っている話も少しずれがあるかもしれない。
『何年も領地を攻め続けられているのよ、ろくに国から援助がなくて、北の土地はボロボロなのよ。私の村が安心して過ごせているのはプライス家のおかげだわ。村では感謝を込めて収穫された果物を送っているの』
「……そうだったの、初めて知ったわ」
真剣な表情にハッとする。こちらはエマの事を知り尽くしているのでもう親友のつもりでいたけれど、冷静に考えたら昨日出会ったばかりの女の子に政治の話なんてしてしまった。
『ごめんなさい、会って間もないのにこんな話』
「良いのよ。大事な話だわ。それに私達のクラスにプライス家の子がいるでしょう? 気になっていたのよ。話が聞けて良かった」
エマ! あまりに良い子!
そうだ、エマにセヴァラスと話した事を言っておこう。
『実は昨日図書館でプライス様に会ったの。少し話したけど、良い方だったわ。勉強を教えて貰ったの』
「そうだったのね、今度私にも紹介してくれる?」
『もちろん!』
セヴァラスが出来るだけ孤立しない方が嬉しい。もちろん、私の事を好きになってくれればもっと嬉しいけど。




